いく年・・・







志真達がこたつの魔力と葛藤しているのと同じ頃、東京駅から今まさに出発しようとする新幹線に慌てて乗り込んだ、4人の若者達がいた。



みどり「ふぅ・・・どうにか間に合ったわね・・・」
将治「出発5秒前・・・そう考えると僕達、本当に超人揃いかもしれないな・・・」
健「しっかし睦海、お前が遅刻なんて珍しいな。」
睦海「えっと・・・お父さんに気付かれないように行くのに苦労して。」
将治「お父さん?と言う事は・・・」
睦海「違うの。私の存在を考えてくれた方の、お父さん。」
みどり「睦海ちゃんの存在を考えてくれた・・・お父さん?」
健「・・・?」



自分達の席を探しつつ、奇妙な会話をする健達。
今日は睦海に呼ばれ、いつもはバラバラに暮らしている健、将治、みどり達は久々に東京駅に集ったのだった。



健「おっ、ここか。」
みどり「そういえば睦海ちゃん、今日あたし達を呼んだのって、そのお父さんには内緒なの?」
睦海「うん。勝手に出演・・・連れて行く事になるからって。」
将治「まだ詳しく聞いて無いけど、睦海に僕達を呼ぶように頼んだ相手って明らかに不審者だよな・・・」
健「まぁ、いいじゃねぇか。こうやって4人で集まれたんだし。それに相手が不審者なら、俺がぶん殴ってやるからよ。」
みどり「あんたも人前でそんな物騒な事言わないの。それにしても今、紅白ってどうなってるんだろ。」
睦海「紅白?みどりは餅が気になるの?」
みどり「あたしの言ってる紅白は、テレビの番組なの。色んな歌手が紅組と白組に別れて歌って、年明けを祝うのよ。」
健「・・・そういやここにいたらDynamite!が生で見れねぇんだよな。誰が勝つか、気になるぜ。」
将治「それ、格闘技の番組じゃないか。相変わらず桐城は野蛮なのが好きなんだな。」
健「うるせ!じゃあ、麻生は何見てんだよ。」
将治「僕の所は・・・年忘れにっぽんの歌に、コンサートさ。」
みどり「全部テレ東ね・・・」
健「お前、結構爺臭ぇの見てんだな。」
将治「桐城は黙ってくれ!僕だって、本当なら学べるニュースとかが見たいのに、お祖父さんがチャンネル権を持ってるから、仕方ないんだ・・・」
健「何甘い事言ってんだ、麻生!年末のチャンネル権は戦争だ。男だろうが女だろうが、子供だろうが老人だろうがガチになって取り合うもんなんだ!」
将治「えっ、じゃあまさか桐城はいつも美歌ちゃんと・・・」
健「・・・ジャンケンだ。最近父さんも増えたから、三つ巴になって更に大変になったけどな。でも今日は出掛けるから、dynamite!の録画権を貰ったんだ。」
将治「そうか・・・チャンネル権とはそう言うものなんだな。ありがとう、桐城。僕も来年の年末、お祖父さんに下克上してみるよ!」
健「おう、そうだ!お前も戦え、麻生!」
みどり「麻生君までそんな事・・・もう、ついていけないわ・・・」
睦海「年末って、こんな感じなんだ・・・」
みどり「断じて違うからね、睦海ちゃん。あたし達は正しい年末年始の話をしましょう。」
睦海「正しい大晦日・・・あっ、そうそう大晦日って『年越しそば』を食べるんだよね?」
みどり「そうよ。でも今は食べられないから、来年になったら健の家で食べましょ。健のお母さんの作る年越しそばって、凄く美味しいのよ。」
睦海「和美の年越しそば・・・楽しみ!」
みどり「それから年明けの話だけど、正月にはおせちとお雑煮って言う特別な料理を食べるのよ。」
睦海「聞いた事ある。おせちはカラフルになるように料理を入れて、お雑煮は白いお汁に餅を入れるんだよね?」
みどり「え、えっと・・・微妙に合ってるような・・・」
将治「白い汁は一概には言えないけど、主に白味噌を使った関西地区の雑煮だよ。関東地区の雑煮は基本的に醤油を使ったすまし汁で、餅の形も関西は丸で、関東は四角なんだ。」
睦海「そうなんだ・・・将治って、本当に物知りね~。」
健「関西って白い汁なんだなぁ。クリームシチューみたい味なのか?」
睦海「そうなの?」
みどり「やっぱりあんたは黙ってなさい、健。」
将治「それと、北海道は角餅と丸餅が混ざってて、それは明治時代以降に北海道に移り住んで来た人達の影響が・・・」
みどり「麻生君、そっちもそろそろストップ。」
睦海「あと、年が明けたら『お年玉』が貰えるのよね。でも、お年玉ってなんだっけ・・・?」
みどり「お年玉はね、はっきり言うとお金よ。年を越しただけで、知り合いの人からお金が貰えちゃうの。」
健「お年玉か・・・今年はどんだけ貰えるんだろうな。」
睦海「そうなんだ・・・でも、何も無いのにお金を貰って、本当にいいの?」
みどり「新しい年を迎えた事を祝ってのお金だから、大丈夫よ。それに、お年玉って大人になったら貰えなくなっちゃうの。だから、睦海ちゃん。今の内にたくさん貰っちゃいなさい。その『お父さん』って人もいつもより甘えたら、きっと沢山くれるから。」
睦海「う、うん。」


将治――・・・手塚さんも十分、問題あると思う・・・



4人の話は尽きる事を知らぬまま、彼らを乗せて新幹線は「大阪」へと、雪降る線路を走って行った。






くる年!に続く!
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好釦