いく年・・・







東京都、あきる野市。
憐太郎達が「何処か」へと向かい始めた頃、この街のマンションの一室で年末番組を楽しむ男女がいた。



TV『デデーン・・・
全員~、アウト~。』
志真「あっははははっ!こんなの、笑うの我慢しろってのが無理だよな!」
瞬「・・・しかしこの番組、さっきから下らない事しかしていないな。」


遥――私、紅白が見たいなぁ・・・
一応おばあちゃんに録画して貰ってるけど・・・



そう、ここは志真の部屋であり、瞬と遥は志真に呼ばれてここに来ていたのだ。
しかし、お笑いバラエティ番組を見て楽しんでいる志真に対して、瞬と遥は多少不満そうにしており、双方共に机に置かれた雑誌の番組欄ばかり見ている。



瞬「・・・妃羽菜、お前は年末はいつも何を見ているんだ?」
遥「私ですか?私は紅白を見た後に、除夜の鐘を見ています。」
瞬「そうか。俺はいつもクラシックやコンサートを見ながら、年を越すと決めている。ただ今年は学べるニュースで年を越すのも悪くは無いと思ったが。」
遥「学べるニュースもいいですよね。私の友達は音楽番組やジャニーズのライブを見ながら年越しするそうです。」
瞬「ほう。そういえば東と西はアンビリバボーとやらを見ると言っていたな。東は朝まで生テレビをもっと早い時間に放送しろだの、西は超常現象の番組が最近、クリスマス辺りにしかやらないのがつまらないだのと嘆いていたが。」
遥「そ、そうなんですか・・・」
志真「はっはっはっ!」
瞬「・・・おい、志真。さっきからそうやってずっと笑っているが、そろそろ出発しなくていいのか?」
志真「ええっ、今からが本番なのに・・・」
瞬「何処に行くのか分からんが、日付変更線が変わる前に着かないといけないのだろう?この時間に行くと言ったのはお前だぞ。」
遥「それに、こうやってこたつに入ってこれを見ていたら、それこそ知らない間に年を越してしまいますよ?」
志真「まぁ、確かにそうだな・・・仕方ねぇ、行くか・・・」



渋々テレビの電源をリモコンで消し、3人はこたつから出ようとする。
しかし、こたつから足を出そうとした瞬間、外と中との温度差に思わず3人は再びこたつに足を入れてしまった。



志真「・・・も、もう少しあったまってからでもいいって、なっ。」
瞬「そもそも言い出しっぺはお前だろう。だから・・・お前が最初に出ろ。」
志真「い、いや、あけおめメールだって結局、年明けから時間が空かないと無理な事が多いだろ?だからちょっとくらい、年越しに間に合わなくていいって。」
遥「そ、それでも約束してる身としてはまずくないですか・・・?」
志真「な、なら瞬も遥ちゃんもこたつから出ようぜ?3人揃って来てくれって約束なんだよ。」
瞬「そもそも、その約束は誰とのもので、内容は何なんだ。いい加減はっきり教えろ。」
志真「・・・それがさ、昨日突然ゴジラから言われたんだよ。」
遥「ゴジラから、ですか?」
志真「なんか伝言するだけして、すぐに繋がりを切っちゃったし、俺の方からしても繋げてくれないし・・・でも様子を見る限り、真剣に焦ってたな。」
遥「どうしたのでしょうね、ゴジラ・・・モスラに聞けば、分かるのでしょうか?」
瞬「いや、それなら志真と同じ内容の事を俺達もバランやモスラから聞いている筈。恐らくその事に関しては、本当にゴジラしか知らないだろう。罠の可能性もあるが・・・」
志真「それでも、俺は行くぜ。何が待ってても、俺は俺の出来る事をやる・・・それだけだ。」
遥「はい!そうですね、志真さん!」
志真「あぁ。それでさ、俺達・・・」



それまでの雰囲気から一転し、シリアスな表情をしながら志真は瞬と遥を見る。
これから待ち受けるであろう「何か」への決意を、志真の顔から読み取った瞬と遥は固唾を飲んでただ首を縦に振る。
そして志真は一言、2人へこう言った。



志真「一体・・・誰が最初にこたつから出るんだろうな?」
瞬&遥「「・・・」」



投げかけられた志真の質問に、瞬も遥も答える気配は無い。
すっかりこたつの魔力に取り憑かれた3人が、この質問に答えられるわけがなかった。
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好釦