アメリカの空~2人の空戦~ +Passport








2011年


『管制室よりイース機、ウェイス機へ。離陸を許可、…グッドラック。』
「…ありがとう。」



今、世界はキングギドラの執念により地球規模の危機に直面していた。キングギドラが月の重力に干渉し、月と地球とを衝突させようとしているのだ。
この状況を打破する為、人類は反重力カプセル「H‐GⅣ」にゴジラを乗せて月へ送り込もうと準備を進めていた。
しかしギドラ一族の残党が「H‐GⅣ」の打ち上げを阻止せんと再び襲来してきたのだった。






『こちらAWACS(早期警戒管制機)ムーンライトだ。階級とコールサインを名乗れ。』
「イース大尉、コールサインはヴァイパーであります。」
「ウェイス大尉、コールサインはマッハだ!」



イースとウェイスはケネディ宇宙センターから志真と遥を避難させた後、自分の戦闘機を駆り出し出撃したのだった。



『ヴァイパーにマッハ、カプセルは既に成層圏を突破した。残すは敵の駆逐のみだ。ギドラと交戦しているカイジュウに遅れを取るなよ!』
「了解。」
「了解!」



ムーンライトとの交信後、戦闘空域に急行する二人。到着してみるとそこは正しく戦場だった。
ギドラの光線や航空部隊のミサイルが入り乱れ、駆逐されたソルジャーギドラやアクアギドラの骸、破壊された戦闘機の残骸が落下し、その間を縫うかの様にモスラとバランが飛行していた。



イースとウェイスはそれに臆せず己の機体を突入させた。



「ヴァイパー、インゲージ(交戦)。」
「マッハ、インゲージ!」



戦闘空域に突入してすぐにソルジャーギドラに狙われたウェイス。ソルジャーギドラは破壊光線でウェイス機を撃ち落とそうと乱れ撃った。



「ナメんなよ!」



ウェイス機は破壊光線の弾幕を潜り抜けつつ、太陽目掛け急上昇した。ソルジャーギドラもそれを追い上昇する。



ソルジャーギドラは再度破壊光線を放とうとするも、太陽光が目眩ましになりウェイス機を見失う。ソルジャーギドラは態勢を立て直す為に空中静止した。



これがウェイスの狙いだった。この隙にウェイス機は反転、急降下しつつミサイルをソルジャーギドラにロックした。
血液が頭に溜まり視界がレッドアウトしそうになるも発射ボタンを押した。



「マッハ、FOX2(ミサイル発射)!」



ウェイス機から切り離されたミサイルは、一瞬だが自由落下すると時間差で燃料に点火し、ソルジャーギドラに向かい一直線に降下した。



ソルジャーギドラは気配を感じ取り、中央の頭が天を見上げミサイルを発見した。が、既に遅く中央の頭に直撃した。
ソルジャーギドラは黒煙を吹き出しながらその巨体を地球の重力に任せた。



「チョロいぜ!」



戦闘空域でのN波の反響は少なかったが、ギドラ一族の動きは確実に鈍くなっていた。
だが今のようにミサイル1発で駆逐されているギドラもおり、耐久力の弱体化もしているようだ。



『ヴァイパー、方位712に敵だ。ラーダーが追撃されている、急げ!』



イース機が目標のナイトギドラを視認した時、電圧光線で他の戦闘機を追い詰めている所だった。
戦闘機はかなりギリギリで回避しており、寧ろナイトギドラはこの状況を愉しんでいるように見える。



イース機はナイトギドラに機首を向け、バルカン砲の射程距離まで一気に加速させた。
イースはナイトギドラの背後を取ると発射ボタンを押し続ける。狙いを外さないよう、ナイトギドラの動きに合わせて操縦桿を絶妙な力加減で操作した。
弾丸は等間隔で発射されながら操縦席から見て斜め直線を描き、その殆どが命中している。



ナイトギドラがイース機を一瞥した瞬間、挑発するかの如く機体の底部を晒し急旋回させた。



漸くナイトギドラはイース機を追い始め、電圧光線を放つ。
電圧光線はソルジャーギドラの破壊光線とは違い、軌道を読むのが難しく回避するのは至難の技だった。



――このギドラ、N波の影響をあまり受けていないな・・・



イース機はループを描く様に一回転し、ナイトギドラの背後を取った。
しかしそれを察知したナイトギドラは不意を突く形で減速した。



「!」



このままでは追突して機体は大破してしまう。しかし回避するには遅かった。



――この俺が・・・初歩的なミスだと・・・



イースの眼前にナイトギドラ特有の鉛色の体色が広がった時だった。



ナイトギドラに接触する寸前、何かがナイトギドラに飛び付きイース機は接触コースを免れる。イースは何事かと飛び付いた主を目視した。



――あれは・・・



イースを助けたのはバランだった。いや、バランがナイトギドラを攻撃した上での結果論ではあるが。



ナイトギドラは乱入者にターゲットを替え、バランを振り払うと自慢の長い翼を折りたたんで空気抵抗を減らし、体当たりを仕掛けた。



直撃は免れず「皮膜壁」が間に合わないと判断したバランは、背中をナイトギドラに向ける。



それからすぐにナイトギドラの体当たりがバランの背面に炸裂する。刹那、バランは零距離で「針千本」を繰り出した。



ナイトギドラは表皮にバランの棘が刺さり、苦痛でうめき声を上げながら後退した。だが、バラン自身も体当たりの衝撃で弾き飛ばされてしまった。



バランは咄嗟に念動力で己の身体を空中に固定させ、静止した。そしてナイトギドラを睨みながら周囲の空気を一気に吸い込む。



バランの口内に生成されていく「真空圧弾」。それがある程度の大きさに達した時に解き放たれ、秒速300キロで錐揉み回転しながらナイトギドラの胸部に命中した。



大爆発を起こし、爆煙の中から真っ逆さまに落下していくナイトギドラ。
こうしてまた1体、バランによってギドラの骸が増えたのだ。



『ヴァイパー、方位202に新たな敵だ。気をつけろ!』



イースは以上の光景を旋回しながら傍観していたが出る幕は無いと判断し、AWACSからの警告を頼りに残るギドラ一族の駆逐に精力を注いだ。



しばらくが経ち、ギドラ一族の残党は9割5分が駆逐された。
それに油断したのか、ウェイスの心に徐々に雑念が芽生え始めてきた。



――ハルカ・・・可愛かったな・・・ハルカみたいな「ジョシ」をヤマトナデシコと言うのか?
だとしたらヤマトナデシコだらけのニッポンはどれだけの美女大国なんだ!
事件が終わったらハルカとシマを送るのを理由にニッポンへ行ってしまおうか・・・
いやダメだ・・・マジメ野郎のイースの事だ。シマを見送る為に絶対ついて来る・・・
こうなったらあいつに黙って休暇を取ってコッソリ行くか・・・



ウェイスの雑念を体言するかの如く戦闘機の空中機動は単純になってゆく。



――ん?・・・そういえば昨日はハルカの3サイズを聞きそびれたな・・・聞く時には聞く時のレイギがあるのか、ヤマトナデシコは。
よし!こうなったらせめてハルカの3サイズだけでも聞いて・・・!



ウェイスが決意した時、アクアギドラの冷破光線がウェイス機のエンジン部を捉えた。AWACSからの警告を聞き逃し、アクアギドラの接近に気付かなかったのだ。



「ぐぉっ!?」



機体の変調に奇声を上げたウェイス。自分の置かれた状況を把握した彼はあるハンドルを引いた。
するとキャノピーが吹き飛び、ウェイスの座席が射出された。
彼はエンジンが凍ったまま墜落していく戦闘機から脱出したのだ。



パラシュートに揺られながら大地へ帰っていくウェイス。
操縦中の雑念が祟ったのか、着地の際にパラシュートが林に引っ掛かり宙吊りになってしまった。



しばらくして空軍基地の救難隊が駆逐を終えたイースと共に到着し、救助されたウェイス。



この墜落が一週間後の航空技術訓練の発端に繋がったのは言うまでもない。
それに加え遥の3サイズを考えた隙に撃墜されたなど、口が裂けても言えないウェイスであった。





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好釦