ゴジラ3‐天空の覇者ラドン‐






同刻、遥は志真に10年前の話をしていた。



「私は10年前、インファント島で出会いました・・・妖精さんと、『モスラ』に。」






1999年、旅客船「うみねこ」はエンジントラブルを起こし、南海の無人島・インファント島に座礁した。
船内は炎上し、中の乗客が続々と砂浜へ逃げ出していく。
そんな砂浜で、1人の少女が泣いていた。
少女の名は妃羽菜 遥。
そばには祖母の佳奈他が気を失い、倒れている。



「なんで・・・なんでこうなるの・・・楽しい旅行じゃないの・・・」



遥はただ泣き続けた。
両目から流れる大粒の涙が枯れ果ててしまいそうな程に。



『『どうしたの?』』



やがて遥の目の前に、いつの間にか人形の様に小さな妖精がいた。
志真の言う、小美人だ。



「うっ、うぅ・・・」
『泣かないで。ねっ。』
「だって・・・楽しい旅行だったのに・・・楽しい旅行になるはずだったのに・・・」
『じゃあ、こちらにいらっしゃい。』



涙を抑えられない遥に、小美人は優しく手招きをする。



「えっ・・・?」
『いつまでも、そこで泣いていてはいけないわ。』
『私達と、一緒に来てみない?』
「・・・うん。」



遥は何の迷いも無く、小美人に着いて行った。
ジャングルは小さな遥にはあまりにも広かったが、小美人の道案内で決して迷う事は無かった。
休憩を挟みつつ、遥が着いたのはひっそりと佇む洞穴だった。



「ここは・・・?」
『『大丈夫。私達がいるから心配しないで。』』
「・・・うん!」



今まで泣いていたのが嘘のように遥は元気良く答え、洞穴の奥へと入って行った。
中は薄暗かったが、洞穴の先にはかすかに光が見える。



「あそこ・・・なにがあるんだろう・・・?」



やがて歩くにつれ、段々光が強くなってきた。
先に待っているものへの好奇心に、少しづつ足を早める遥。



「わぁ・・・」



洞穴を抜けた先にあったのは、島の中央にある小山の中で、天井部分が大きく開けた古代文明の祭壇跡のような場所だった。
周りには緑や花が咲き誇り、清らかな清流が足元を流れている。
しかし、遥の目は全く違う所へ向いていた。




カクィオオオオウン・・・



そう、正面に見える極彩色の巨大な蝶に。



「あなたはだあれ?」
『『モスラです。』』



いつのまにか遥の足元にいた小美人が、声を揃えて言った。
遥はあまり慌てずに中腰で座り、小美人を覗き込む。



「あっ、お姉さん。あのおっきな蝶さん、モスラっていうの?」
『『そう。モスラはこの島の守り神で、私達はモスラに使える者。』』
「そうだったんだ・・・ねぇ、近付いてもみてもいい?」
『ええ。モスラは善悪をすぐに見分けられるの。』
『だから悪い心を持っている人は、ここに入れないのよ。』
「そうなの?すごーい!じゃあ、おばあちゃんにもここのこと・・・・・・
はっ、おばあちゃん!!」



今まで楽しそうだった遥が、再び慌て始めた。



『どうしたの?』
「おばあちゃんが・・・おばあちゃんが!」
『落ち着いて、ねっ。何があったのか、お姉さんに聞かせて。』
「ぐすっ、おばあちゃんが・・・くるしいかおをして・・・たおれちゃったの・・・だからはやく、おばあちゃんのとこ、かえらないと・・・!」



再び遥は泣き始める。
小美人には遥が心の底から祖母の事を思っているのが、痛い程伝わった。



『『わかったわ。だから泣かないで。』』
「でもおばあちゃんが・・・!わたしのだいじな・・・おばあちゃんが・・・!」



すると小美人はモスラの方を向き、何か話し始めた。



――こんな愛に溢れた心、見た事が無い・・・

――あの子になら、あれを託せる・・・

――・・・大丈夫、この「力」が必要になる時が来た時、きっとこの子なら正しく使ってくれる筈。

――だから・・・ねっ、モスラ。



カクィオオオオウン・・・



――ありがとう。



『『じゃあ、貴女の名前を教えて。』』
「ひうな・・・ひうな、はるか・・・」
『『遥ちゃん。モスラの所に行って。』』
「えっ・・・」
『モスラが遥ちゃんに力を貸してくれるって。』
「本当・・・?」
『うん。本当よ。』



遥は少しふらついた足取りでモスラに近付いていき、やがて地面に刻まれた巨大なインファント島の紋章の中央に立った・・・



カクィオオオオウン・・・



その時、突然遥の足元が光り始めた。
光は紋章をなぞるように輝き、そのまま遥を包み込む。



「な、なに・・・?」
『『万物を慈しむ愛を持つ貴方に、「愛」の結晶を授けます。その思いで、おばあさんを・・・総てを助けてあげて。』』



するとモスラの額が輝いたかと思うと、額から光の塊が現れた。
そして光の塊はゆっくりと遥に向かい、遥の眼前で砕け散った。



「ううっ・・・!」



閃光に目を覆う遥。
恐る恐る手を下げると、目の前に紋章と同じ形をした金色のペンダントが浮かんでいた。



『『さあ、受け取って。モスラからの、信頼の証です。』』



遥は震える手でペンダントを取った。
それと同時に眩いばかりの光は消えた。



「ありがとう・・・わたしこの事、ずっと忘れないね・・・」
『帰り道はペンダントが案内してくれるわ。』
『また、いつかここで会いましょう。』



遥は小美人にお辞儀をすると、ペンダントが射す光を追って洞穴へと走り去って行った。



『『貴女のご無事を、祈っています・・・』』






「そんな事が・・・」
「はい。その後私はペンダントの力を使い、おばあちゃんを助けました。そして救助船に助けられ、今に至ります。」


――なるほど、遥ちゃんのおばあさんはこの事を知ってたからこそ、冷静だったんだな。


「いい話を聞かせてもらったよ!ありがとう!」
「いえいえ、こんな非常識な話を信じて下さってありがとうございます。」
「言っただろ?俺は君の話を信じるって・・・おっ、もう夜の12時か。そろそろ就寝の時間かな?」
「そうですね。それでは志真さん、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
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