ゴジラ2‐海底大作戦‐







一方、日本海溝の底ではゴジラとプレシオルの闘いが続いていた。
ゴジラはまだ海溝の底に足を踏みしめ、プレシオルもまたゴジラの周りを旋回しながらゴジラの動向を見ている。



グルルルルル・・・



ここは真っ暗な深海、辺りが全く見えないゴジラは気配だけでプレシオルの存在を察していた。
そしてプレシオルが突っ込んで来たのを察知したゴジラは素早くプレシオルをかわし、同時に尾を掴んだ。
必死にもがくプレシオルだが、ゴジラは離さない。



ディガアアアアアアオン・・・



ゴジラはそのままプレシオルを持ち上げ、海底に叩き付けた。
凄まじい衝撃にプレシオルは苦しむ。
だがゴジラは攻撃の手を緩めず、更にプレシオルを連続して海底に叩き付けた。
プレシオルもだいぶダメージを受けたようだったが、すかさずゴジラに顔を向け、超音波ブレスを発した。
凄まじい音波にゴジラは怯み、その手を離してしまう。
その隙にプレシオルは鰭を突き立て、ゴジラに再び迫る。



「・・・発射!」



・・・が、その背後からプレシオル目掛けて魚雷が飛んで来た。
しかしプレシオルは何故か魚雷に気付かず、そのまま魚雷はプレシオルの後頭部に直撃した。



キィアアアアア・・・



それもその筈、この魚雷は超音波吸収機能が付いた隠密性魚雷だからだ。
海底から3000m上では、たつが待機している。



「A‐NH魚雷、プレシオルに炸裂しました!」
「やはり凄いなぁ、自衛隊の兵器は。」
「次は、通常の魚雷ですね・・・」
「次は囮だからね。でもこれ自体には吸収装置は付いていない。慎重にいこう。」
「はい!」



志真はいつ、プレシオルが来てもいいように魚雷の発射スイッチに手を掛け、菅もレーダーの画面にのみ神経を集中させた。
『海底大作戦』、それは一つの失敗も許さない、一度きりの作戦なのである。





同刻、海底ではプレシオルも動きを見せていた。
魚雷が打ち出された方向・・・上へ向かって。
ゴジラもプレシオルの後を追い、たつのレーダーも二体の動向を捉えていた。



「博士!プレシオルが上昇し始めました!予想時間、5分!」
「いよいよか・・・緊張の一瞬だ・・・!」



プレシオルは凄まじい勢いで海溝を昇って行く。
後を追っていたゴジラだが、途中でプレシオルを見失ってしまった。



「プレシオル、急接近!」
「流石深海怪獣、速いな・・・よし、魚雷の準備だ!」
「はい!」



志真は魚雷発射のスイッチに指を置いた。
プレシオルは既にもう、たつと半径900m内にまで迫っている。



「カウントします!5、4、3、2、1・・・0!」



0の合図と共に、菅はレバーを引いた。
たつは素早く右に回避し、上手くプレシオルをかわす事に成功した・・・が、僅かなタイミングで完全にはかわせず、船体に鰭が掠めてしまう。
激しく揺れる船内。



「うっ、うわああっ!」
「くっ・・・このぉ!」



志真は魚雷発射スイッチを押した。
魚雷はプレシオルをかすめ、上に飛んで行く。



キェルルルルルルル・・・



作戦通り、プレシオルは上昇する魚雷を追った。
船内の振動ももようやく落ち着く。



「痛って・・・あっ、博士!大丈夫ですか!」
「志真君こそ、大丈夫かい?・・・私は、ちょっと大丈夫では無さそうだけれどね・・・」
「え・・・は、博士!?」



菅は苦悶の表情で右腕を押さえていた。
その右腕をよく見ると、白衣が赤く染まっている。
そう、菅はさっきの振動で右腕を痛めたのだ。



「博士!」
「私の事はいい、それよりプレシオルに魚雷を発射するんだ。」
「しかし!」
「私の右腕くらい、数ヵ月すれば治る。けど、その間にもプレシオルが奪う命は、もう治る事は無いんだ!」
「博士・・・!」
「分かったね。指示は私がするから、志真君は私が言う通りに操縦するんだ。」
「・・・はい。」
「よし、まずはレバーを後ろに引くんだ。」
「了解!」



志真はレバーを後ろに引くと、たつが上を向いた。



「次は前にレバーを引いて!」
「分かりました!」



たつは少しぎこちない動きながらプレシオルを追うが、その時魚雷の爆破音が海溝に響いた。
プレシオルが、囮の魚雷を破壊したのだ。
魚雷を破壊したプレシオルはたつを察知し、今度は海溝を下降していく。



「博士!魚雷が破壊されました!」
「まずい!プレシオルはこちらに向かってくる!志真君、プレシオルとの距離は!」
「約、1200m!」
「こうなったら、もう最後の魚雷をプレシオルの頭に当てるしかない。囮が無くなった以上、安全性は全く無いけれど・・・」
「やります!ここで奴を止めないと、全てが終わってしまいます!」



志真はためらう事無く、発射スイッチに指を置いた。


――・・・やっぱり志真君は只の記者じゃない。
勇気ある、スーパーなジャーナリストだ・・・!



キェルルルルルルル・・・



――・・・くらえ、この首長野郎!!



そしてプレシオルが目と鼻の先まで迫ったその瞬間、志真は発射スイッチを押した。
魚雷は正確にプレシオルを目指し、見事プレシオルの頭に当たった。



キィアアアアア・・・



弱点を突かれ、プレシオルは悲鳴を上げる。
この一撃によって、プレシオルの頭の左鰭と識別器官の一部が破壊された。
まさかの魚雷発射成功に、志真はガッツポーズを取る。



「・・・よっしゃあ!」
「おぉー!!やったじゃないか、志真君!」
「はい!これで奴はもう・・・」



2人が喜んだのもつかの間、プレシオルが苦しみ紛れに頭部をたつにぶつけてきた。
振動が船内を襲う。



「うわああっ・・・!」
「な、何故プレシオルは・・・」
「・・・外しました。真ん中に当てられなかったみたいです・・・」
「惜しかったか・・・志真君、残念がる事は無い。私達がした事は無駄では無かった。しばらくプレシオルは行動出来ない。後は自衛隊が・・・」
「博士、何諦めているんですか!」



船内の機器が壊れていく中、諦めの言葉を口にした菅に志真が叫んだ。



「諦めてはいけません!俺達は、ちゃんと生きて帰らなければいけないんです!生きる事を、投げ出さないで下さい!」
「・・・そうだ、私とした事が・・・まだ知らない事はたくさんあるんだ、私にはそれを解明する義務がある・・・」
「そうですよ!日本海溝でシーラカンス、見るんでしょう!」
「・・・ありがとう、志真君。やはり君は凄い。だが、プレシオルに対抗出来る手段が無いのは事実なんだ・・・」
「・・・ゴジラです!」
「ゴジラ・・・?」
「あいつはきっと来ます・・・あいつは善悪が分かる、唯一の怪獣なんです!俺も一度、あいつに助けられました!だから、ゴジラは必ず来ます!」
「・・・『信じる者は勝つ』、と言う事かな?」
「はい!」
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