ゴジラ‐世紀の大怪獣‐
それから30分、郊外の臨時作戦会議室ではゴジラへの対策が議論されていた。
「隊長、ゴジラはもうすぐここへ到着します。」
「・・・議論は以上だ。砲撃の準備をしろ。」
「はい。」
「ちょっと待って下さい!」
と、そこへやって来たのは志真だった。
隊員達は何事かと一斉にテントから出る。
「ゴジラへの砲撃を・・・って、ああっ!」
すると志真は突如叫び、驚きの表情を見せた。
「全く、何処の奴・・・なっ!?」
同じくテントから出てきた瞬も、似た反応をする。
そして2人は声を合わせてこう叫んだ。
「「どうしてお前がここにいるんだ!」」
「えっ・・・」
「ええっ!?」
「ったく・・・浜さんからお前の話を聞いた時に同姓同名かと思った俺が馬鹿だったぜ・・・」
「はぁ・・・最近お前の様な馬鹿ばかり見てきたが、まさか本物が来るとは・・・」
「たっ、隊長の知り合いですか?」
「知り合い?会いたくもない奴だ。」
「はぁ!?それはこっちのセリフだっての!」
そう、実は志真と瞬は小・中・高を共にした仲だった。
しかしながら全く正反対である2人が仲良く出来る筈も無く、いつも口論ばかりしていたまさに「腐れ縁」の仲でもあったのだ。
「瞬!今すぐゴジラへの砲撃をやめろ!」
「何様だお前は!一般人が命令するな!」
「なにを!ゴジラは何もしてないだろ!それなら実際、街を破壊しているバランを攻撃しろよ!」
「ゴジラもバランも、大して代わりは無い!どちらも人類の脅威だ!」
そのあまりの舌戦に、隊員達は完全に圧倒されていた。
「まさに、『犬猿の仲』・・・」
「あんなに怒った隊長、見たことないよ・・・」
「俺も・・・」
「だが、これはまだ続きそうな感じだ・・・」
隊員の言葉の通り、2人の舌戦はまだまだ続く。
「自衛隊は攻撃が行われて初めて自衛力を行使するんだろ!矛盾してるぞ!」
「目の前に迫る脅威への自衛の為に出撃しろ、そう総理大臣が命令した上での自衛力行使だ、何の問題も無い。怪獣如きを庇うお前が、自衛隊の行動理念を理解した気になるな。」
「怪獣如き!?何だとこの石頭!だからお前らはここぞって時に、日本を守れないんだよ!」
――お、俺達も・・・?
心の奥底で、どの隊員も同じ事を思っていた。
「いい加減にしろ!これ以上言うなら・・・」
「あ、あの・・・」
「「何だ!」」
一人の隊員が口論に割って入ったが、2人同時の叫びを見舞う。
「ゴ、ゴジラがもう目と鼻の先に・・・」
そう、2人が舌戦を繰り広げている間にゴジラはもう半径500m以内にまで迫っていた。
「ちっ、砲撃の準備だ!」
「おい、やめろ!」
「ここからは俺達の戦いだ!一般人はさっさとここから去れ!」
「さっきから一般人だの馬鹿だの言いやがって!まだ分かんないのかこの・・・」
「甘ったれた事ばかり言うな!」
瞬の怒声に、さしもの志真も怯む。
「俺達自衛隊には、この日本を守るという義務がある!数十m・数万tの生物が歩く、それだけで脅威なんだ!」
「・・・!」
「分かったか。」
「・・・そうか。じゃあ黙って俺は消える。けどな、本当に倒すべき奴は、皆の命を奪った奴だ!それだけは覚えとけ!」
そう言い残し、志真は横浜市の方へ走り去って行った。
瞬はそれを、冷ややかな眼差しで見つめる。
「た、隊長・・・」
「放っておけ。たかが一般人に、口出しされる筋合いなど無い。」
グルルルル・・・
そこへゴジラがやって来た。
急いで部隊は戦車内に戻り、砲撃の準備をする。
「砲撃開始!」
瞬の掛け声と同時に戦車隊はゴジラに攻撃を開始した。
砲弾が容赦無くゴジラの全身に命中する。
「近距離は危険だ!常に一定の距離を取れ!」
『了解!』
同刻、東京湾の底から浮き上がってくる一つの影があった。
影は水柱を立て、水しぶきと共に姿を現す。
グウィウウウウウン・・・
そう、バランだ。
バランはそのまま東京湾から横浜に侵入したが、幸いすんでの所で住民は逃げ切っていた為街には誰もいなかった。
グァウウウウ・・・
しかし、バランの通った後には見るも無惨な廃墟が広がっていくのみだった。
憎き人類が築いた建築物をバランは手で、足で、棘で破壊して行く。
バランの目指す所は一つ・・・東京だ。