ゴジラ‐世紀の大怪獣‐
それから2日、神奈川県・横須賀市近郊の砂浜をとある夫婦が歩いていた。
「いやはや、最近物騒になったなぁ。」
「そうよねー。漁師さんが怪獣騒動で漁に出たがらなくって、お魚が高いのよ・・・」
「話じゃ、自衛隊も適わなかったらしいし・・・確かゴジラだっけ?」
「そうそうゴジラよ!ほんと何とかして欲しいわ~!」
「俺はバランとかいう奴の方が怖いな。亡霊みたいに蘇ったんだろ?」
「え~、ゴジラの方が怖いわよ~。いきなり海から来そうで・・・」
「お前びびってるのか?まさかそんな事あるわけ・・・」
と、その時沖に突如水柱が立った。
思わず2人は海の方に振り向く。
水柱はどんどん高くなっていき、そして音を立てて砕けたかと思うと、中から黒い怪獣が現れた。
「はっ・・・」
「ゴ、ゴ、ゴジ・・・」
現れた怪獣・・・それは今さっき夫婦が話していた、ゴジラだった。
「「ほっ・・・ほんとに来たぁぁぁぁぁ!!」」
2人は頼りない足取りでその場から逃げ出した。
だがゴジラはそんな事も気にせず、天に向かって咆哮を上げる。
ディガアアアアアアオン・・・
『緊急連絡!ゴジラ、横須賀に出現!全隊員至急集合せよ!』
ゴジラ出現は自衛隊本部にすぐ伝えられ、アナウンスを介して全隊員にも伝わった。
「・・・!」
そんな中、射撃訓練所では瞬が1人で射撃の訓練をしていた。
弾痕は全て、的の中央に出来ている。
「・・・来たか。」
――・・・ゴジラ。
次は、必ず倒す・・・!
瞬は拳銃を置き、訓練所を出た。
この情報は勿論日東新聞本社にも来ており、どの部署も大騒ぎとなっていた。
「一大ニュースだ!怪獣ゴジラが横須賀に現れた!誰か取材へ・・・」
「俺が行きます!」
そこへすかさず、志真が手を挙げた。
手には既に取材道具が握られている。
「やはりお前か・・・」
「俺、行きますよ!デスクが止めても!」
「分かった分かった。早く行け。」
「流石デスク!じゃあ、行ってきます!」
志真はデスクに敬礼すると、素早く部屋を出て行った。
が、そんな志真を見る同僚達はとても不満そうな顔付きだ。
「なんでよりにもよって、半人前のあいつが行くんですか?」
「うるさい。お前達はまだ違う取材をしているだろう。」
「怪獣出現ですよ!そんな世紀のスクープを・・・」
「つべこべ言うな!俺はもう志真に任せたんだ!お前達は黙って自分の取材を続けろ!」
「「「・・・はい・・・」」」
ジャーナリスト達は弱々しい声を出し、記事の執筆に戻った。
しかしデスクだけは、険しい態度を崩さない。
――志真、ここが正念場だぞ・・・!
グルルルル・・・
一方、横須賀市にゴジラが迫るものの、やはりゴジラは街に入らず、何処かへ向かった。
その様子はゴジラ駆逐に向かった瞬の陸上部隊にも伝えられる。
「隊長、ゴジラは横須賀を通過せず、西へ進路をとりました。」
「街へ入らないのか・・・?まぁ、そんな事は関係無い。ゴジラにも都市破壊の危険性がある以上、必ず駆逐せねばならないのだからな。」
「そうですね。」
3日前の隊員救出以来、瞬は少なくとも若い隊員には好かれたらしい。
「よし、この辺りで作戦会議室を建てるぞ。」
戦車隊は横浜市の郊外で停止した。
隊員達は戦車から降り、早々とテントを作っていく。
「ゴジラは恐らく横浜を目指している。ここで叩く。」
「了解。そう言えば住民避難は・・・」
隊員は無線機を取り出し、別の組に連絡を取る。
「こちら実戦部隊。そちらの状況は?」
『順調に進行中。』
無線に出たのはつい先日館山市の病院から無事退院した、浜だった。
『あと30分以内に避難を完了させてくれ。以上。』
「了解。貴殿達の健闘を祈っています。」
無線を切り、慎重に人々を誘導していく浜。
と、そこに人々に紛れて志真がやって来た。
「あっ、浜さん!」
「志真さんじゃないですか!何処かへ行かれたと思ったらびっくりしましたよ、貴方の記事!あの怪獣に正式に『ゴジラ』と名付けさせるなんて、本当に凄い!」
「いやぁ、そうですか・・・って言ってる場合じゃない!すみません、実戦部隊は何処に?」
「只今、市の郊外にいます。」
「分かりました、ありがとうございます!」
すると、志真は人々と逆方向に向かって走り出した。
「し、志真さん!貴方も危険です!早く逃げないと!」
「僕、避難しに来たんじゃ無くて、ゴジラに取材しに来たんでー!」
「志真さー・・・」
浜の制止も聞かず、志真は郊外へ去って行った。
――まぁ、分からなくも無いですが。
志真さん、気を付けて下さいね・・・
そっと志真に敬礼し、浜は再び誘導を始めた。