ゴジラ8‐大神獣メギラ降臨‐
『・・・ってわけでじっちゃん!ラゴウの整備の仕上げ、条約締結までに頼むで!』
「またお前さんは老体に鞭打つ真似をさせよってからに・・・まぁええ、ワシに任しときぃ。じゃあ、切るぞい!」
つくば・自衛隊本部前。
至る所に黒い油が付いたツナギ・ヘルメット姿をした、小柄で色黒のスキンヘッドの老人が雪菜との電話を切り、本部へと入って行った。
「・・・よし!これで早けりゃ今週中にメンテナンス終わって、今月中には稼働テストが出来んな!」
「それが本当なら、流石は雪菜様お抱えのエンジニア・北大路様です!」
「そうなると、稼働テストは絶対ノーミスでやらなあかんな・・・ラゴウがどんだけ強いんか、うちの言ってる事が正しいんかどうか、有耶無耶共に分からせる為にもな?」
「あたくしとしては雪菜様に意見する事自体が有罪ですが、烏合の衆を黙らせる為の確固たる証は必要ですからね?」
「そやな?だからこそ、ラゴウの・・・うちのジジの力を見せたる。そのまま『アイツ』と戦ってもええくらいに、な?」
「勿論ですわ!それで、稼働テストは如何にする予定で?」
「とりあえず、場所は小笠原諸島やな。バカスカやってれば『アイツ』も釣られて来るやろ。やられ役は『カメーバ』使おか?ええ在庫処分にもなるしな?」
「悟藤・・・」
「「げっ、悟藤特佐!」」
国会議事堂では、老人との電話を終えた雪菜と南野が瞬と東・西と廊下で遭遇していた。
「げっ、とは何ですか!分を弁えなさい、分をっ!」
「なんや、敗残兵トリオのお出ましかいな?あんだけ勝ち宣言しといて、結局無様やったな?」
「「うっ・・・」」
「勝ちと言うには51対49、場合によっては引き分けもありえた程に拮抗していたがな?そちらも胸を張って勝利宣言をするには、苦しい結果だったように思えるが。」
「何とでも仰って下さい。ちゃんと是非を問うて条約締結とラゴウ出撃賛成派が多かった、それは事実ですよ?」
「こ、今回は偶然賛成が多かっただけだ!」
「ラゴウがヘマしたら、ひっくり返る可能性だってあるんだぜ!?」
「負け犬の遠吠えを聞く暇なんか無いねん。うちらはさっさとにはラゴウのメンテ終わらせて、国民投票終わったらすぐ稼働テストしたいんやからな?」
「是非を問うた上での結果と言う割には、妙にスムーズで都合の良いスケジュールだな?」
「も、もしかしてこっそりラゴウを改造してたのは貴方じゃねぇでしょうな!」
「特佐の権限と総理からの認可があれば、見知ったエンジニアなどをラゴウの秘密ドックに派遣する事は、十分に可能ですからね!」
「だとして、何か問題でも?総理の認可の上で行っているわけですし、怪獣が来なくとも他国からの苛烈な侵略行為でラゴウを出撃させた場合もあるんですからね?」
「まぁ、人間同士の争いの場合は無理やった可能性はあるけどな?ラゴウの封印が解かれたんは『怪獣』って言う人間以上の脅威がおるからやろ?守る為には力が必要やって、なんで分からへんねん?」
「何故、そこまで武力に拘る?確かに怪獣の脅威から人々を守る為の力は必要だが、ラゴウの力は守る為の力を逸脱しかねない。今の自衛隊の上層部は、はっきり言って自分の保身ばかり考える者ばかりだ。自分が自衛官である事を忘れたとしか言い様の無い不祥事は枚挙に暇が無いが、ラゴウの存在だけでなく半世紀前のバラン事件を隠蔽し、俺を怪獣対策の功績と称して殉職してもいないのに三階級も昇進させてまで留まらせようとした。そんな最早手段を選ばない連中に、ラゴウと言う力を与えてみろ・・・設計図を内密に世界各国に流出させたり、防衛力増強と言い訳してラゴウの技術を流用した超兵器を過度に製造・配備する可能性がある・・・お前の意思に関係無く、この国は軍事国家の道を歩むかもしれないんだぞ?」
「そうなったら、うちが文春砲なり何なり使ってそのボケ共を刑務所送りか社会から追放したるわ。社会の不純物の炙り出しにもなってええやろ?」
「それに貴方が駆るむささびには、そのラゴウの技術が一部流用されていますが?それは結局貴方も、ラゴウの力に頼っていると言えるのでは?」
「サテライトスラスターの事なら、むささび開発前に存在した試作機『レ・ドーム』から転用した、それだけの話だが?そもそも、サテライトスラスターは人工衛星のエンジンとして使用するのを想定してラゴウからフィードバックされたもので、優れた技術でも大元が忌まわしきモノからのフィードバックを問題とするならば、ノーベルがその発明を生涯に渡って後悔したダイナマイトは存在してはいけない事になるが。」
「くっ・・・」
「へっ、2歳下の後輩風情が瞬殿の揚げ足を取んな!逆から読んでも『みなみのみなみ』!つまりは力でゴリ押ししたいだけだろうが!そう言う奴は真っ先にやられるのがお約束なんだよ!」
「自分も同じ意見だ!分を弁えるのはお前の方だぞ『みなみのみなみ』!悟藤特佐の言葉に相づちを打つ事しか出来ない、自分で物事を考えない腰巾着の意見が瞬殿に通用すると思うな!」
「あ、あたくしの名前の読み方は関係ないやろ!?それに雪菜様に従う事の何がアカンの!雪菜様は女ってだけで男と区別されたり舐められたりする自衛隊の中で、想像を絶する幾多の苦難を乗り越えて特佐にまで昇り詰めて、あたくし達女性隊員の地位向上に多大に貢献した、偉大な女性(ヒト)・・・そんな偉人の腰巾着や信者やって、何がアカンの?雪菜様の素晴らしさが分からんあんたらこそ、阿呆とちゃうの!!」
「コラ、みなみ!あんたもあんな安い挑発乗んな!」
「ですが、雪菜様!あの連中は分かっていないのです!怪獣によるあたくし達『悟藤隊』の数々の犠牲や、その犠牲を嘆いた上でこれ以上の犠牲を出さないようにと言う貴女の決意を・・・」
「やから、これ以上余計な事言うな!このアホ!・・・はぁ。ちょっと黙って、頭冷やしとき?」
「ひ!!お、お許し下さい雪菜様・・・」
つい先程までの激昂振りとは真逆の静かに、だが声色を荒立てた雪菜の威圧ある一言に南野は心底震え、沈黙した。
「南野の無礼は詫びるわ。やけど、うちら『悟藤隊』はそれだけ自信も実力も絆も強いって自負出来るチームなんや。そんなうちらを引き裂いたんが・・・怪獣や。2年前のクリムゾンラドン、1年前のウルフォス、そんで一昨日の大阪の怪獣・・・やけどうちらは自衛隊、理不尽な強さの怪獣相手でも国民の平和の為に立ち向かわなアカンねん・・・!」
「怪獣による理不尽な部下の死、それがお前が力を・・・ラゴウを求める最大の理由か。」
「なぁ、あんたはむざむざ部下を死地に送り込む事をなんとも思わへんの?部下が死んで悲しいとか、悔しいとか思わへんの?やったらあんた、相変わらず冷たい男やな?」
「・・・俺は部下を大事に思っていないなど、一度も言っていない。俺は部下を信用し、部下もまた俺を信用してくれている。その関係の元に、必ず帰還すると信頼した上で俺は部下を送り出している・・・何故か?それは俺の手で心身共に鍛え上げ、同じ釜の飯を食べ、喜怒哀楽を分かち合った、何処へ出しても恥ずかしくない立派な者達だからだ!」
「・・・悟藤特佐、悪いですがね・・・俺達も犠牲になる為に出撃した事なんか、一度もありませんよ!!みんな守り切って、瞬殿の所に帰って、見たいテレビ見る為に戦い抜いて来たんですよぉ!!」
「それに、自分達瞬隊もこれまで怪獣によって何人も犠牲になっています・・・貴方達と一緒です。ですが、瞬殿は過度な力を求めはしなかった。だから信頼出来るとあるエンジニアと共に、人間が犯したバランへの過ちを背負いながらなるべく早く救いを求める人々の元へと駆け付けられる、むささびを造ったんです!」
「お前が部下思いなのは、南野の態度や悟藤隊の練度を見れば分かる。だが、やはり今のお前は祖父の無念や使命以上に、部下への無念や私怨でラゴウの力を求めているようにしか見えない。お前がしたいのは、終わらない弔い合戦と言う復讐、血を吐きながら続ける悲しいマラソンだ・・・!
あと、加えるなら・・・ゴジラやモスラ、バランに部下の死の責任を転嫁するのは、お門違いにも程があるぞ。」
「・・・じゃあ、正義の大怪獣とか、守護神とか、今は人類の味方とか言うんなら、うちの部下が犠牲になる前に怪獣を何とかせえや・・・!!行くで、みなみ!」
「は、はい!雪菜様!」
怒りと無念を抑え、雪菜は南野を連れて去って行った。
「「・・・はぁ、死ぬかと思ったぁ・・・!」」
「東、西。加勢感謝する。」
「「い、いえ!勿体無いお言葉です!」」
「瞬殿や我ら瞬隊が馬鹿にされたように思えまして、つい・・・」
「でも瞬殿に歯向かうヤツなら、例え悟藤特佐にも噛み付いてやりますよ!」
「そうか・・・だが正直、俺も力を求めていないかと言われれば、嘘になる。現にむささびだけではカイザーギドラやアイヴィラを駆逐出来なかった。もし、バランがいなければ・・・」
「えっ?だからバランと力合わせて戦ってるんですよね?少なくとも瞬殿には力貸してくれるんでしょう?」
「今日の北アルプスでも、バランが怪獣・・・通称クモンガから登山者を助けたと言う証言があったそうです。瞬殿が信じた甲斐があった、と言う事ではないでしょうか?」
「・・・そうだな。弱い力でも、掛け合わせる事で強大な力となる。真の強き力とは、そうあるべきなのだろう。俺にはバランが、お前達瞬隊がいる・・・」
ーー・・・悟藤、お前は本当にこのままで良いのか・・・?