ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐




ーー・・・皆さん、すみません。だけど僕は決めたんだ。
ここを出て、僕はハルコンを・・・!?



しかし、集落を出たゼマを待ち受けていたのは、予想だにしなかった光景だった。



「・・・よう、少年。」



ゼマの前に現れたのは、サイワだった。
突然の再会に、ゼマは黙りつつも驚きを隠せないでいる。



「・・・サイワさん。」
「元気そうでよかったぜ。何だか、ここ数ヶ月見た中で一番いい顔してる気がするな。」
「そうですか・・・?」
「おいおい、また顔付き暗くなってるぞ?まぁ、相手が今のオレなら仕方ねぇよな・・・」
「貴方は、僕を騙した。ずっと、僕を・・・!」
「『ずっと』ってのはちょっと語弊があるけどよ、お前・・・この世界を騙してたってのは本当だ。これについては言い訳しねぇ。どれだけ上手い謝罪の言葉を言っても、許されない事をしたからな・・・」



「・・・それで、何の用ですか?」
「とりあえず近況報告だ。お前は一週間前、ハルコンに乗って『ハルコンの意志』で研究所から出たよな。」
「はい・・・」
「けど、気がついたら知らない場所にいた・・・なんでそうなったのか、分かるか?」
「分かりません。」
「・・・エンルゥだ。」
「えっ・・・?」
「あいつはあの日、ハルコン脱出の影響で重傷を負って病院行きになった。だがそれはいつの間にかそうなったってオレ達に知らされた事だった。それに事件の翌朝ハルコンを回収したのはあいつに指示されたアトランティス軍の連中だった。軍はお前が自分で脱出したって言ってたが、違うよな?」
「はい・・・ハルコンが停止した直後に、僕は気を失いましたから・・・」



ゼマのこの返事を聞いたサイワは、この言葉を待っていたと言わんばかりの表情を浮かべた。



「・・・決まりだな。エンルゥはやっぱりろくでもねぇ事を考えてやがる。」
「なぜ・・・そう断言出来るんですか?」
「明らかに怪しい所があるんだよ。病院行きにしても面会謝絶、しかもその4日後に退院したかと思えばオレ達に姿も見せずに拠点拡張の名目でムー大陸に消えやがった。もちろん、同じ研究所の連中も知らない場所へな。」
「・・・この大陸に?」
「それにさっきの軍の連中も、オレ達の事を研究所に来た時からずっと監視してた。ハルコン回収の手筈が早かったのも、お前の行方について嘘を付いたのも、軍の連中が本当はアトランティス軍なんかじゃねぇ、エンルゥの仲間だからだ。」
「エンルゥ所長と、軍の人が・・・?」
「更に事件当日、オレ達はエンルゥの指示で会議室にいた。重要な話があるからって事だったが、最後まであいつが現れないまま事件が起こって会議はうやむや、当然主催者のエンルゥは勝手に入院してたってわけだ。だがさっきの話を聞いた後なら、偶然にしちゃ引っ掛かるだろ?」
「・・・確かに、そう思います・・・」



サイワの口から語られるエンルゥの怪しい行動の数々に、ゼマは着いて行くのが精一杯の様子だ。



「さっきも言ったが、エンルゥはこのムー大陸の何処かにいる。ハルコンと一緒にな。」
「!?」
「回収されたハルコンはオレ達の手で何とか完成させた。だがハルコンにはエンルゥの指示である装置が付けられた。それはハルコンの中のジラ遺伝子に眠る、ハルコンの『意志』を司る部分を遮断する装置だ。これでハルコンが勝手に動く事は無くなったが、伝達装置の中枢を制御する事で出力は若干下がっちまってる。」
「ハルコンの、意志を・・・」
「エンルゥがハルコンをこの大陸へ持ってったのは、表向きは遮断装置の伝達装置への影響を少なくする為の実験って事になってるが、絶対に裏があるに決まってる。だからオレは部下と一緒に、エンルゥの鼻を明かしてやろうと考えた。あいつが行きそうな所も、大体目処がついてるからな。」
「その場所は、この近くにあるんですか?」
「ちげぇよ。オレがここに来たのは、お前に頼みがあるからだ。」
「僕に、頼み・・・?」



するとサイワは地面に座り込んだかと思うと、ゼマに向かって深く土下座した。
思いもしないサイワの行動にゼマは驚き、彼を見る事しか出来ない。



「頼む・・・オレと一緒に来てくれ!お前がオレを憎んでる事も分かってる!この騒動が終わったら、いくらでもオレを恨んでくれても、蔑んでもいい!けど、この騒動を終わらせるにはお前の力が必要なんだ!」
「・・・」
「オレは後悔した。ディラを作ってしまった事、ディラのせいでお前に憎しみを与えた事、だからせめて仇は討たせてやろうって、お前をハルコンの操縦者にした事を!オレがお前さえ巻き込まなけりゃ、お前がこんな思いをする事なんて無かった・・・!」
「・・・」
「だからオレがハルコンに乗って、自分の手でディラを倒したいって何度も思った!けどよ、やっぱりお前じゃなきゃ駄目なんだ・・・ハルコンと感応した、お前じゃねぇと駄目なんだ!もう事態はそこまで進んじまったんだ・・・!」
「・・・」
「オレをすぐ信じてくれなんて言わねぇ。少しずつでも・・・もうずっと、信じなくて構わねぇ。だから、もう一度ハルコンに乗ってくれ!その為に、オレと一緒に来てくれ・・・!」



誠心誠意を込め、心からの言葉でゼマに訴えかけるサイワ。
ゼマは沈黙を保ち、己の内の憎しみと思い出の中で葛藤を繰り返す。
そして一言、ゼマはこう言った。



「・・・行きます。僕はハルコンを迎えに行く為にあの集落を出た・・・それにサイワさんが本当にそう思ってるのか、分からないから・・・」
「・・・すまねぇ。こんな情けねぇ大人で本当にすまねぇ、ゼマ・・・!」



集落の親子に続き、ゼマはまた新たな絆を取り戻したのだった。
30/31ページ
スキ