ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐







それから一週間、ゼマはこの集落で静かな日々を過ごしていた。
彼はあの親子の家で手伝いをしながら住み込む事にし、少女はまるで兄が出来たかのように喜んだ。
集落の人々もゼマを分け隔て無く受け入れ、彼の姿を見る度に常に優しい態度で接した。
ゼマの方もそれがとても心地良いものであり、この生活に強い充実感を感じていたのだった。



「わぁ、直ってるー!ありがとう!ゼマお兄ちゃん!」
「ううん、これくらいならいつでも任せてよ。」
「お手伝いしてもらっているのにいつも壊れた機械を直してくださって、本当にありがとうございます。」
「いえ・・・僕のいい所なんて、これくらいしかありませんから。では、散歩に行って来ます。」
「お気をつけて。」
「行ってらっしゃーい!」



家を出たゼマは一週間前に自分が流れ着いていた砂浜を歩いていた。
彼の日課であり、心安らぐひと時だ。



「おお!新入りの兄ちゃん!毎日来るとは精が出るねぇ!」
「こうしていると、気が安らぎますから。お爺さんも毎日大変ですね。」
「はっはっはっ!まだまだ若いのには負けてられんからねぇ!じゃあの!」



同じ日課仲間で仲良くなった、砂浜を走る老人と会話しつつ、ゼマは歩を進める。
基本的には大海原や水鳥を眺めながら歩くだけなのだが、そんなありふれた事が彼にとっては満足出来る物事だった。
しかしその道中で、彼は見慣れない光景を目撃する。



「あれは・・・?」



彼が見つけたのは、砂浜に立つ少年と男だった。
様子を見るに親子のようだが、何かを行っている少年を父親が見つめており、2人で楽しんでいる空気とは思えなかった。
そしてゼマが様子を見に行こうとした矢先、突如父親は振り上げた手で少年を叩いた。



「・・・!」



気付いた時にはゼマは駆け足になっており、再度手を上げようとする父親の手を掴んでいた。
その前にいる頬の腫れた少年は叩かれた衝撃で座り込んでおり、空気を吸って音を出す楽器が無造作に転がっている。



「何をしようとした・・・!」
「確か新入りの子供か。何って、しつけをしていただけだが?」
「嘘を付くな!しつけ程度でそんな仕打ちをするものか!」
「仕打ち?違うな、これは我が家での『教育』だ。」
「それは只の暴力・・・スパルタ流と言う名の、暴力だ!」
「それの何がいけない?現に俺の息子は同年輩の子供達とは比べ物にならない程の技術を持っている。それにお前は知らないだろうが、一昔前までスパルタ流なんて何処でも行われていたんだ!」
「・・・それでも!」
「・・・!」



激昂しながら叫びにも近い声を上げるゼマだったが、そんな彼の左手を何者かが掴み、ゼマを静止する。



「・・・えっ・・・?」



ゼマの手を掴んだのは、少年だった。
傷だらけの小さな手で、だがしっかりと少年は震えながらゼマの手を掴み続ける。



「・・・」
「なんで・・・なんで君は・・・」
「くっ、気分を害した。もういい、帰るぞ。」



父親はゼマの手を振り払い、少年の手を半ば強引に引っ張りながらその場を去って行った。
そして少年はゼマの目から消えるまで、ずっと彼を見つめていた。



「・・・どうしてなんだ、あんな仕打ちを受けていながら、どうして・・・?」
「おぉ~、君!」



1人立ち尽くすゼマの元に、先程出会った老人がやって来た。



「おじいさん・・・」
「どうも騒がしいから戻ってみれば、君じゃったか。」
「すみません、騒がしくしてしまって・・・」
「いやいや。それにしてもあの親子が帰って行ったと言う事は、騒ぎの原因はあの親子かの?」
「はい・・・まさか、あの人があんな事をしてたなんて・・・」
「あの親子はここが出来て初期の頃からおるが、いつもあんな感じなんじゃよ。誰が止めても聞く耳を持たず、いつしか周りと孤立しよった。同じ集落から来た者の言葉によれば、ここに前まではあんなに酷くはなかったらしいがのぅ・・・」
「・・・なんで、自分の子供にそんな事が出来るのでしょう・・・こんな体罰の様な教育なんて望んでいる筈が無いのに、理不尽だ・・・!」



「確かにそうじゃのう。じゃが、何事にも『理由』と言うものはあるんじゃよ。」
「理由?」
「これも同じ集落から来た者の言葉じゃが、あの父親も子供の頃に親からスパルタ流の教育を受けていたそうじゃ。」
「・・・!じゃあ、あの言葉の意味は・・・!」


――・・・それにお前が知らないだけだろうが、一昔前までスパルタ流なんて何処でも行われていたんだ!


「・・・行かないと!」



そう言うや否や、ゼマは老人に一礼すると親子が去った方向へ走って行ってしまった。
突然の事に老人は一瞬驚くも、すぐに去って行くゼマは見つめた。



「・・・あの少年、同じ境遇にいたのかもしれんな。だから、放っておけんのじゃな・・・」
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