ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐
「・・・う、うっ・・・」
その日の正午、ここはとある場所の民家。
小さく呻くその声の主は、ゆっくりとまぶたを開く。
「あっ、起きた!母さーん!あの人起きたよー!」
次に聞こえたのは少女の声に、見えたのは灰色の天井。
上手く動かない両手で目をこすり、半身を上げて周りを見る。
そして何よりも思った事、それは・・・
「・・・僕、生きてる・・・」
意識を取り戻した少年、ゼマはそう呟いた。
昨晩の夜、彼はエンルゥの手によって海に投げ出された筈だが、何故かこうして民家にいる。
無論、それは本人にも分からない。
――・・・確か、僕は今までハルコンに乗っていて、それから・・・
この後の記憶が、無い。
ハルコンに乗っていた筈なのに、僕は今分からない所にいて、なんでこんな所にいるのかも分からない。
僕は、一体どうなったんだ・・・?
「ほら、起きてるよー!」
「はいはい、分かったから騒いじゃ駄目よ・・・あっ、起きられました?」
と、そこにこの家の住人と思われる少女と女性の親子が来た。
「は、はい・・・」
「今日の朝、海岸で遊んでいた娘が貴方を見つけまして・・・ここに運んで来ました。」
「あ・・・ありがとうございます。」
「あんな所で寝てるなんて、何してたのー?」
「これ、わざわざ海岸で寝る人がいますか・・・あっ、すみません。でも貴方が海岸で意識を失っていたのは事実でして。何があったのですか?」
「・・・すみません、僕自身も覚えていなくて。辛い事があったのは確かですけど・・・」
「そうですか・・・ですが、話したくなければ無理に話さなくて構いませんよ。ここはそういう人が集まる所ですから。」
「えっ・・・ここは何処なんですか?」
「ここはムー大陸の南方の端・・・ディラによって住処を奪われた人々が身を寄せ合う所です。」
「・・・!」
その言葉を聞くや否や、ゼマは突然立ち上がったかと思うと、急いで部屋を出た。
「えっ、ど、何処へ!?」
母親はゼマの唐突な行動に驚きながらもすぐに追いかけ、少女もそれに着いて行く。
寝室を出て居間に出ると玄関が開いており、扉の前にはゼマが突っ立っていた。
ゼマは目の前の家屋と、その背後に広がる大海原をただ見つめている。
「・・・帰って来たのか、ムーに・・・」
「あの・・・どうなさいました?」
「どうしたのー?」
「・・・僕は数ヶ月まで、この大陸で暮らしていました。そして僕もディラによって住処と、大切な人を奪われました。」
「貴方も、そうだったのですか・・・」
「僕は昨日までとある事情でアトランティスにいたのですが、ここにいると言う事は、もう僕は必要とされていないのかもしれません。だから僕は、この集落に流れ付いた・・・」
「お兄ちゃん・・・?」
ここ数日、自分の身に起こった様々な事を思い出し、握った両手を震わせるゼマ。
少女が彼のその光景に何の対応も出来ない中、母親は冷静に・・・だが、優しくゼマの事を見つめ、こう言った。
「・・・貴方がよろしければ、ずっとここで暮らしませんか?ここにいる人々は、きっと貴方の事を受け入れてくれます。私も何だか、貴方を放ってはおけなくて・・・」
「・・・」
暫くの沈黙の後、ゼマは小さい声で返事をした。
「・・・はい。」
――そうだ・・・辛い事も悲しい事も、全部忘れよう。
ここにさえいれば、僕は何の苦しみも無く生きていける。
僕にはここで暮らして行くのが合っているんだ。
同じ傷を持った人達と、同じ苦しみを味わった人達と。
僕には辛い事ばかりだったんだ、だから・・・