ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐
翌朝、部隊に回収されたハルコンは半壊した科学研究所の製造室に戻され、その前ではサイワ達がハルコンを連れて現れた部隊を問い詰めていた。
しかし、部隊の中には何故かエンルゥの姿が無い。
「おい、お前ら何者だ?いきなりハルコンを連れて来るなんて、誰の指示だ?」
「エンルゥ様です。我々はエンルゥ様の依頼の元、超兵器ディラハルコン及びその近辺の人物の監視を命じられた、アトランティス軍の者です。」
「アトランティス軍?そんな大層な連中が・・・まさか、昨日からエンルゥ所長が行方不明なのと関係あんのか?」
「エンルゥ様は昨日、会議に使う資料の整理をしていた所をディラハルコン暴走の際の振動で大怪我を負い、アトランティス総合病院へ搬送されました。今もまだ昏睡状態が続いており、面会謝絶となっています。」
「エンルゥ所長が昏睡状態!?そんな重要な事を、なんでここの研究員達すら知らねぇんだ!」
「エンルゥ様は昨日の会議にて重要な用件を話す予定であったらしく、昼頃から地下の極秘研究室にいました。その部屋にはエンルゥ様しか入れない様に暗号式の鍵が施されておりましたので、気付かれなかったのも仕方ないでしょう。」
「重要な用件・・・それについて、何か聞いてないか?」
「恐らくディラハルコンについての事だとは思いますが、それ以上は話す範囲ではありません。それでは、我々は失礼致します。」
「ま・・・待ってくれ!ハルコンの搭乗者は何処だ!兵器である以上、誰か乗っていた筈だろ!」
「ディラハルコンの内部に搭乗者は確認されませんでした。脱出口が開いていましたのでそこから脱出したと思われますが、それ以上の事は分かりません。それでは。」
偽りの真実を話した部隊は鉄甲翼機に乗り、研究所を去って行った。
「・・・」
「しかし、何故エンルゥ所長は軍なんかに監視を依頼したのでしょうね?」
「それにエンルゥ所長がまさか大怪我してたなんて、寝耳に水ですよ。」
「・・・怪しいな。」
「「えっ?」」
「もう秘密にする必要もねぇから話すけどよ、エンルゥは世界中の情勢を把握する為に全世界に偵察用の機械や密偵を派遣してる。さっきの奴らも表向きは繋がりの無い軍を装ってるが、多分あいつの部下だ。」
「えっ!それは本当なんですか!?」
「数ヶ月前にオレがハルコンを作ってくれって依頼した時に、あいつの方からわざわざ言ってくれたんだよ。防音仕様の秘密部屋で言われたから、誰も知るわけねぇけどな。証拠がねぇのが悔しいが、それが本当ならエンルゥが入院して姿を見せねぇって点も怪しく感じるんだよ。」
「じゃ、じゃああの軍みたいな連中とエンルゥ所長は・・・グルって事ですか!?」
「そういう事になるな。会議を装ってまで行方を眩ました目的がはっきり分からねぇが、一つ気掛かりな事がある。」
「気掛かりな事・・・?」
「・・・昨日の夜から、あいつがいねぇんだよ。ゼマが。」
「あの少年が?」
「『絶望の一夜』がもし起こるんだったら、それはハルコンの中のジラ遺伝子が完全に覚醒した時。それを防止する為にオレとエンルゥは色々な対策をしながらハルコンを造ってたんだが、その対策を全部破っちまった奴がいるんだよ。」
「対策を破った・・・」
「・・・はっ!それがまさか・・・」
「そう、ゼマだ。不完全なハルコンを起動させたあいつはハルコンのジラ遺伝子を不完全ながら目覚めさせ、感応した。例えるなら・・・あいつは絶対に開けちゃいけねぇ扉の『鍵』を開けかけたわけだ。そしてエンルゥは『絶望の一夜』の事も、ゼマが扉を開けそうになった事も知ってる。」
「・・・じゃあエンルゥ所長はさっきの仲間にゼマ君を監視させて・・・」
「ゼマ君がハルコンで逃走した所を・・・!」
「そんな感じだろうな。突然俺達に会議をふっかけたのも、それから姿を消していつの間にか入院してたのも、全部オレ達の目を逸らす為だ。ここまで手の込んだ事をしやがるには、ろくな事を考えてねぇ・・・!」
まるでイメージとは似つかわしく無い考察を終え、歯を食いしばるサイワ。
その表情は、姿無きゼマの事をとても気遣うものだった。
――・・・無事でいろよ、ゼマ・・・!