ゴジラ‐世紀の大怪獣‐







それから数時間が経ち、養老川下流をバランが通っていた。
やがてバランは養老川下流を抜け、郊外の工事予定の開けた平地を通る。
市原市とはもう目と鼻の先の距離だ。



グァウウウウ・・・



しかしもう一つ、左の方角からバランに近付く何かの影があった。
バランもその存在を察知し、方向を左に変え警戒する。
そして影は、バランの前に姿を現した。



ディガアアアアオン・・・



そう、黒い怪獣だ。



グウィウウウウウン・・・



二体はお互いに唸りを上げ、威嚇し合う。
しばらくして、黒い怪獣がバランに仕掛けた。
バランもまた怪獣へ向かい、激しくぶつかり合う。
押し合いはバランの方が少し上の様で、力負けした怪獣は地面に倒れこむが、すぐに立ち上がるとすかさずバランに体当たりした。
バランが後ろによろめいた隙に怪獣は勢いを付けて振り返り、尾をバランに叩き付ける。



グゴオオオ・・・



今度はバランが地面に倒れこんだ。
怪獣は更に仕掛けようとバランに突っ込むが、バランもまたすぐ立ち上がり、針千本を撃った。
棘は全て直撃し、怪獣は少し怯んだ。
バランはその隙にもう一撃針千本を撃ち、棘は再び全て直撃。
さしもの怪獣もダメージを受けた。



更にバランは尾を怪獣の首に巻き付け、激しく締め付ける。



グアアアア・・・



壮絶な苦痛に、少しずつ弱っていく怪獣。
だがその時、怪獣の背鰭が青色に輝き、同時に怪獣の口内も青く光る。



パチッ・・・パチパチ・・・



そして怪獣は口から青い光線「放射熱線」を放った。



シュゴオオオオオオオ・・・



熱線はバランの体に直撃し、バランは地面に倒れ込んだ。
熱線が直撃した所からは煙が吹き出し、皮膚は焼けている。
体勢を立て直した怪獣は更に攻撃を仕掛けんと、バランに近付いた。





一方、とある部屋の一室で志真が目を覚ました。



「・・・うっ、うーん・・・あれ、俺、生きてる・・・って、ええっ!?」



目が覚めるや否や、志真は慌てて周りを見渡した。
自分の知らない間に、何故か病室にいたからだ。



「・・・えっと、確か黒い怪獣に船を倒されて、それから・・・」
「おぉ、目を覚ましましたか。」



すると、そこへ中年の医師がドアを開けて入って来た。



「えっ、お、俺・・・」
「錯乱するのも無理はありません。君は数時間の間、ずっと意識を失っていたのだから。」
「ど、どこでお・・・僕の事を?」
「野島崎の海岸に自衛隊の船が流れついていて、中に乗っていた君をここ、館山まで運んできたわけです。」



「そうだったのですか・・・はっ!そうだすみません!他に乗っていた人は・・・!」
「全員無事ですよ。こっちへ。」



志真はベッドから出て立ち上がり、医師と共に病室を出る。
医師に案内されたのは、隣の病室だった。



「ここに。」



医師は音を立てずにそっとドアを開ける。
部屋の中には浜を含め、あかつき号の船員達がベッドで寝息を立てていた。



「浜さん・・・よかった・・・!もしみんなが海に流されて、僕だけが助かっていたら・・・」
「他の方も、別の部屋におります。安心して下さい・・・それでもう一つ、凄い発見があるんですよ。」
「発見・・・ですか?」
「とりあえず、こっちに来て下さい。」



志真は医師と共に病室を出たが、今度は病院の外へ案内された。



「一体、何処に行くんですか?」
「着いて来たら分かります。」



やがて志真は、病院の外れにある倉庫に辿り着いた。


「ここは・・・」
「さぁ、どうぞ。」
「はい、ではお邪魔しま・・・!」



倉庫に入った志真が見た物、それは紛れも無いあかつき号だった。



「な、何故船がこんな所に?」
「船に異常が見受けられたらしく、自衛隊の指示でここに保管しているんです。」
「異常?」
「気付きませんか?」
「・・・船が、ほとんど傷付いていない!」
「その通り。何か巨大な物と衝突したのならもっと傷が付いてもおかしくない筈、という事らしいです。」


――・・・確かに怪獣と衝突した時、なんかぶつかったって言うよりは、受け止められたって感じがしたな・・・


「あと、これにはもう一点おかしな所があるんです。」



志真は目を凝らして船を見る。
すると、船の中部辺りが少々凹んでいる事に気付いた。



「この凹みが?衝突した時に付いたのでは?」
「いや、実は形が少し変なんです。よーく見て下さい。」
「・・・?」
「うーん・・・私も最初は信じられなかったですね。今も少し思っていますが。」
「・・・やっぱり分かりません。何処がおかしいんですか?」



医師は凹みを指差すと、こう言った。



「・・・まるで、巨大な手が掴んだ跡の様に見えません?」
「・・・ああっ!」



医師の言う通り、凹みは下に行くほど段々と深くなっていたのだ。



「ほ、本当だ・・・!」
「まぁ、今はバランとか言う怪獣が半世紀ぶりに復活したとか言われている時でありますけどね。」
「怪獣!?・・・すみません、そのバランとはどんな怪獣ですか?」
「えっと、愛宕山の猟師の話では茶色の体に背中に棘を何十本も備えているそうで。」


――違う・・・あの怪獣じゃない。
あの怪獣は黒色で、背中には背鰭があった・・・って事は!



思い立った志真は突如、倉庫の出口へと向かった。



「待って!君はまだ安静に・・・」
「俺、やる事があるのを思い出しました!自衛隊の人達によろしく言っといて下さい!介抱して下さって、ありがとうございました!」
「ど、どう・・・」



医師の言う事も聞かず、志真はそのまま走り去って行った。
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