ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐







その夜、科学研究所の外にある宿舎の一室にゼマの姿があった。
あの後彼は自分が宿泊しているこの部屋まで戻り、電気も付けぬまま信じたくない事実と葛藤していた。



――・・・サイワさんは、ずっと僕の事を騙していたんだ・・・
自分が恨まれるのが怖いから、いい人の振りをして昔のよしみで僕に近付いて、僕のこの怒りを利用してディラを始末させようとしたんだ・・・
・・・サイワさんは最初からいい人だった。
父さんがいなくなってから僕の集落に来て、いつも僕に話し掛けてくれた。
僕は、あの人と話す時も楽しいと思えた。
けど・・・あのサイワさんも嘘だったんだ・・・
僕は・・・何を信じればいいんだろう?



虚ろな瞳に何も写さず、ただサイワとの思い出を疑い続けるゼマだったが、ふと立ち上がって部屋を出ると、何処かへと向かい始めた。
それは自分の意思では無く、まるで何かに導かれる様に。



――・・・僕は・・・






次にゼマが我に返った時、彼は機密製造室にいた。
製造室内には何故か誰もおらず、修理中の伝達装置が至る所に置かれている。



「・・・なんで、誰もいないんだ・・・?僕は、なんでここに・・・?」



答えを求め、辺りを見渡すゼマが目線を止めた先にあった物・・・それはハルコンだった。
自らの意思か、それとも何者かの意思なのか、ゼマは整備用の通路を通ってハルコンに近付き、乗り込む。



「『超兵器』ディラハルコン・・・君も、結果を出さなければ必要とされない存在・・・そして、結果を出す為だけにジラの遺伝子を・・・『命』を組み込んだ。もしも君に命が宿っているのだったら、きっとこんな運命を背負わせた人間を、同族のなれの果てのディラと闘わせた僕を、恨んでいるだろうな・・・」



ハルコンに詫びるかの様に、そっとモニターに触れるゼマ。
だがその瞬間、ゼマの目の前に決してあり得ない光景が広がった。



「・・・!ハルコンの主電源が・・・作動した・・・!?」


――・・・ギィウウウン・・・






その頃、会議室にはサイワ達化学研究所の面々と、科学研究所員達が席に座っていた。
彼らは一時間前に突然エンルゥから会議を開くのでここに集合するようにと言われているのだが、何故か開始予定時間から30分が過ぎてもエンルゥは一向に姿を現わさないでいた。



「エンルゥ所長、来ませんね・・・」
「おい、いきなり会議をしようとした理由とか、誰か知らねぇのか?」
「いえ・・・特に。」
「だったら何でこんなに・・・」



と、その時部屋中に凄まじい振動が起こった。
皆がバランスを崩し、何とか手で机を押さえ付けてバランスを保つ。



「うわあっ!」
「ぐっ・・・ディラでも来やがったのか!?」
「いえ・・・この揺れは研究所から起こったようです・・・」
「ここから、だと?」
「・・・た、大変です!製造室から、ディラハルコンの発進が確認されました!」
「なっ・・・なにっ!?」



同刻、研究所隣の空地が吹き飛び、そこから銀色の機影・・・ディラハルコンが現れた。
改修中の伝達装置が組み込まれていない為に両手と右足が動いていないが、背部のブースターをフル稼働させ、無理矢理飛行している状態になっている。
ハルコンはそのままラピュタを脱出し、スピードを保ったままラピュタから離れて行く。



「止まれ!止まってくれ!」



操縦室ではゼマが必死に叫びながら、ハルコンに停止を促していた。
しかし、ハルコンは全く止まる気配は無い。



――あの時、僕が画面に触れた瞬間にハルコンが勝手に起動した・・・
確かに僕は何もしていない、けどこうしてハルコンは動いてる・・・
何故なんだ?本当に、これに命が宿っているのか・・・?



ゼマは昨日、機動セーフティを解除した時の様に目の前の機械を操作し、ハルコンを緊急停止させようとする。
だが、いくら入力しても制御装置はゼマの操作を受け付ける様子は無い。



「くそっ!正しく入力してる筈なのに、何で駄目なんだ!どうして・・・!」



ゼマの焦りをよそにハルコンはアトランティス大陸を抜け、大海原を低空に飛行していた。



「止まれ!止まるんだハルコン!確かに僕はお前を憎しみの道具にした!けど、今の僕はこんな無理矢理な方法を使ってまでの復讐なんて、望んでいないんだ!」



何度も両手を叩き付け、ハルコンに訴えるゼマ。
それでもハルコンは無情なまでに動きを止める事は無かった。



「頼む・・・止まるんだハルコン・・・止まれ、とまれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



悲痛にも近い、ゼマの懇願の叫びはようやくハルコンに届いた。
ハルコンの目の光が消え、それと同時に背部のブースターが停止する。
更にハルコンはそのまま凄まじい水渋きを立てて海に落下し、全く動かなくなった。



「・・・よし、いい子だ・・・」



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