ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐




全身の伝達装置が点滅し、ゼマの意のままにハルコンはディラへ攻撃を仕掛け始めた。
ハルコンの胸部が左右に開き、そこから特殊金属・ヒヒイロノカネで作られた弾丸が無数に飛んで行く。



「おまえが・・・!」



それに対してディラは振り返って尾をぶつけ、弾丸を防ぐ。
だが間髪入れずに撃たれた弾丸の第二波が、全てディラに直撃した。
決定打にはなっていないが、弾丸は既存の兵器が全く効かなかったディラに確実にダメージを与えていた。



「ねぇさんを・・・!」



ディラに出来た隙を逃さずゼマは背部のブースターを作動させ、弾丸の第三波を放ちながらディラに迫る。
ディラは火炎を放って弾丸を一層するが、その間にハルコンはディラに急接近した。



「ぼくから・・・!」



ハルコンは両手の爪をディラに向け、そのまま尖った先端部分をディラへ発射する。
この爪はマナを宿すと言われる元素・アーテルで構成された特殊な部位であり、ディラの体を捉えすぐ爆発を起こすも瞬時に原型に戻り、オリハルコンの線にたぐられハルコンの手に戻る。



「・・・うばったっ!」



加速したままハルコンはディラに体当たりし、更にアーテルの爪でディラの体を切り裂く。
ディラは怯みながらも背鰭を光らせると、放射能火炎をハルコンに放つ。
しかしオリハルコンの体は簡単には爆発せず、中で起こった振動にもゼマは意に返さない。



「・・・ぼくは、おまえを・・・!おまえをっ!ゆるさないっ!!」



ハルコンは両手でディラの体を強引に抑え込み、背鰭を黄に光らせたかと思うと、口部から燃焼性の強い元素・フロギストンの光線を至近距離で放つ。



ガァウウウウウン・・・



至近距離に加え、今まで付けた傷を抉ったこの一撃にディラは初めて苦痛の声を上げる。
それでもなおゼマの憎悪は収まる事を知らず、彼の憎しみを体現するかの如くハルコンは狂いの爪撃をディラに与える。





「・・・凄まじい。」



レグチュアに乗りながらいつしか闘いを傍観する隊員達の誰もが、そう呟いた。



『一体、誰が乗っているんだ?』
『まるで野獣の様な、荒々しい動きだ・・・』
「・・・だが、これだけは分かる。」
『隊長・・・』
「あの搭乗員は、ディラに深淵の如き憎悪を抱いている・・・と。」



「うけろぉ・・・!ねぇさんの・・・むねんを!ぼくの・・・このにくしみをっ!!」



ゼマはなおも収まぬ怒りに身を任せ、ディラに攻撃を続ける。
ディラの火炎がハルコンに直撃しようとも弾丸を発射し、爪で追い込み、熱線を食らわせた。



「まだだ・・・!おまえをつぶすまで・・・ぼくは・・・!?」



だがその時、ハルコンの伝達装置が激しく明滅したかと思うと、全身から煙を上げてハルコンは停止してしまった。
ゼマの乱雑な操縦に、未調整のハルコンがついていける筈が無かったのだ。



「・・・はっ!どうしたんだ、ハルコン!動け!動いてくれ!」



ようやく理性を取り戻したゼマだったが、冷静さを欠いた今の彼にハルコンを再び動かす事は不可能だった。
だが、そんな事はお構い無しとディラはハルコンを突き倒し、足で踏みつけてハルコンを固定する。



「ぐうっ・・・!」



更にディラは背鰭を青く光せるとハルコンへ火炎を放ち、そのまま火炎を浴びせ続ける。
オリハルコンの装甲もこれには耐えられず、少しずつ溶解して行く。



「うあああああっ!!」



凄まじい衝撃と高温に、ゼマは苦痛の叫びを上げる。
それはまるで、ディラにしてきた攻撃を返されている様だ。
何も出来ないハルコンにそれでも攻撃を止めないディラだったが、そんなディラに何かが命中し、爆発を起こす。



「今ならディラへの攻撃が可能だ!ハルコンに当たらぬよう、正確に射撃せよ!」



ディラに攻撃を加えたのは、闘いを傍観していたレグチュアの部隊だった。
ハルコンの乱入によって傍観するしかなかったが、ハルコンが動かなくなった今こそ好機と睨んだのだ。
レグチュアの撃つ岩塊は全てディラに直撃し、ディラをハルコンから引き離す事に成功した。



グァアアアウ・・・



ディラはレグチュア達に対し攻撃態勢に入ろうとするが、突如それを止め後ろへ翻す。
そしてディラは背を向けたまま、来た道を引き返して行った。



『!?』
『ディラが・・・引き返して行く・・・?』
「よし、攻撃・・・」
『待て。』



レバーの岩塊発射スイッチに手を掛けた部隊長を、無線越しにエンルゥが止める。



「しょ、所長?」
『至急「超兵器」を回収して撤退せよ。これ以上の犠牲は、無駄だ。』
「・・・分かりました。」



こうしてラピュタ防衛戦はディラの逃亡と数々の犠牲、ハルコンの完成度の問題を残して終結したのだった。
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