ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐







その頃、研究所地下の機密製造室ではムー化学研究所の面々が必死に伝達装置を作り上げていた。
現在90%以上装置の製造は完了したが、超兵器を動かすには100%の完成率でなければならず、それが職員達の焦りを生んでいる。



「第四十六番装置、最終調整完了!」
「第五十三番装置、最終調整完了!」
「第七番装置、まだ調整完了しません!」
「よし!手の空いた奴はすぐ他の斑へ行け!少しでも作業の効率を良くするんだ!」
「「は、はい!」」



自らも作業をしながら、サイワは職員達に指示を出す。
日頃の行いや性格から雑な印象のあるサイワだが、一度本腰を入れるとそれは豹変し、今もあれだけ苦手にしていた作業を誰よりも早く進めている。



「凄い・・・サイワさん、あんなに嫌そうにしてたこの作業を・・・」
「俺達も、頑張らないと・・・!」



サイワの気力に相乗し、職員達も続々と作業の手を早める。
作業効率は先程の倍近いペースになっており、もしこのペースを保てば、ディラが来る前に超兵器も完成する勢いだった。
が、それは思わぬ展開によって中断させられる事となった。



「・・・!」
「し・・・少年!?」



機密製造室の上方に取り付けられた、乗組員用通路に現れた人影、それはゼマであった。
思いもしなかった出来事にサイワもつい手を止め、上を見上げた先にいるゼマに叫ぶ。



「少年!そこで何やってんだ!手伝いがしたいんなら、下に来てくれ!」
「・・・出る。」
「ええっ?今、なんて言ったんだ?」
「・・・出る!僕は、こいつで出る!」
「なあっ!?」



ここにゼマが現れた事以上に想像出来ない、ゼマの突拍子も無いこの言葉はサイワを更に驚愕させる。
だが、ゼマの方はサイワの返事を待つ事も無く、真っ直ぐ「超兵器」の乗込口を目指す。



「少年!おい少年!まだそいつは完成してねぇ!あともう少しだけ待て!今出たらどうなるか分からねぇぞ!聞いてんのかゼマ!おい・・・!」



無意識の内に、サイワはゼマの事を久々に名前で呼んだが、それでもなお彼が足を止める事は無かった。
サイワはやがて、諦めたのか決心したのかは分からないが、ゼマに向かって叫ぶのを止める。
そして一呼吸置くと、ここにいる誰もに聞こえる様な大声でこう叫んだ。



「お前らぁぁっ!!命が惜しかったら、とっととそこから離れろぉぉ!!ハルコンが動くぞぉぉぉっ!!」



「第二制御装置、解除。次は・・・」



対ディラ専用特殊超機械獣・ディラハルコン操縦室。
室内にはもうゼマが乗り込んでおり、既に目の前に備え付けられた機械を操作し、起動プログラムのセーフティ解除を行なっていた。
流石と言うべきか、慌ただしく動くゼマの手元は寸分の乱れも無い。



「・・・第四制御装置、解除!あとは・・・!」



瞬く間にセーフティを4段階まで解除し、あとは最終段階を解除するだけになった。
早くハルコンで出たいと言う願望がゼマの手を早くし、最も長ぐ複雑なプログラム入力も素早くこなして行く。
そして、ゼマは遂に全セーフティプログラム解除完了を入力する、右端のボタンを押した。



「全制御装置、解除完了。これで・・・!」



――・・・ギィウウウン・・・



「!?」



ほんの一瞬、ゼマの頭の中に何かが吼えた声の様な幻聴が聞こえ、それと同時にディラハルコンの全身に付いた円形状の伝達装置装着部位が明滅を始める。
少しでも早くハルコンを出せるようにと伝達装置を付けた状態で作業をしていた職員達は全員ハルコンから離れ、ハルコンが動く様子を見つめていた。



「う、動いた・・・!」
「まさか、あれが動くなんて・・・!」
「・・・もう何処も大体は完了してるんだ。動かす自体は不可能じゃねぇ・・・その後の保証は無いけどよ!」



ハルコンの伝達装置の光が線を伝わり、他の装置と繋がって行くのを見たサイワは急いで製造室の入口に走ると、上部のハッチを開くスイッチを押す。



「・・・行くぞ!」



ハッチが開ききる寸前、ハルコンは既に背中のブースターを吹かし、動き出していた。
ハルコンの全身を固定していたアームは全て壊れ、ハッチもまたハルコンの広げた腕で半ば無理矢理破壊される。



「なっ、何だ!?」
「も、もうディラが来たのか!?」
「あれは・・・!」



外では突如研究所横の敷地を裂いて現れた銀色の兵器に、街から避難しようとしていた人々はただ驚き、そして見つめていた。
空へ飛び立ったハルコンはラピュタを脱出し、ゼマの思いの全てを背負いながらディラの元へと向かって行く。



「所長、この揺れは!?」
「・・・間違い無い、ディラハルコンが出撃した・・・!」



ハルコン出撃の振動は、管制室にいたエンルゥ達にも当然伝わっていた。
再びの予想外の事態に、エンルゥも唇を噛みながらついこう呟いた。



「全く・・・愚か者が連れて来るのは、やはり愚か者かっ・・・!」
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