ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐







アスハが「姉」になったその日から、ゼマのそれまで辛いだけだった日々は変わった。
2人は毎日のように近くにある川沿いへ行き、楽しく雑談や遊びをした。
もちろんダクによるスパルタ教育は続いたが、その辛さを親身になって聞いてくれるアスハの存在によって辛さも何処かへ消え失せるのだった。



「姉さん、今日も特訓を失敗なく出来たよ!初めて、父上に叱られなかったんだ!」
「本当!?凄いわ!流石はゼマね!」
「そんな、照れちゃうよ・・・」
「私には分かってたよ。ゼマが今日、一度も失敗しないで空操機の操縦が出来るって。」
「えっ?確かそれの操縦をするなんて言わなかったけど・・・?」
「・・・この事、秘密に出来る?」
「う、うん・・・」
「じゃあ話すわ。私の中にある、不思議な力の事を。」
「不思議な力・・・」



するとアスハは突然立ち上がると目を閉じ、両手を後ろへ広げた。
その様子はまるで風と一つになるかの様であり、ゼマにはそれがとても神秘的に見えた。



「・・・」



しばらくしてアスハの目が開かれ、静かにこう呟いた。



「・・・あと半時間で、雨が降る。」
「へっ?」
「早く、雨宿り出来る所を探しましょ。」
「えっ、ほ、本当に!?」



戸惑う間にもゼマはアスハに手を引かれ、ふらついた足取りで川原を離れていた。
最初こそアスハの言葉を信じられなかったゼマであったが、歩いている内に空の雲行きが怪しくなってきたのが分かった。
そして集落の近くにある巨木の根元で一休みしようと腰掛けた瞬間、天から小さな雫達が地上へと降り、雨となった。



「ほ、本当に雨が降った・・・」
「でしょ。これが私が持ってる不思議な力、『予見』の力よ。」
「凄いよ姉さん!未来が分かるなんて・・・」
「さっきは自分で未来を見たけど、ほとんどの場合は勝手に頭の中に流れ込んでくるの。これから自分に起こる事は特にね。だけど時々、嫌な未来が見えてしまう事もあるの。」
「えっ・・・?」
「あの人が死んじゃうとか、あの村が無くなるとか・・・その時の光景とかも見えたりするから、これからどうなるのか考えると・・・辛くなる。」



するとアスハはゼマの手を握り、そっと顔を肩に寄せる。
握られたその手は微かに震えており、ゼマはアスハが姉になってくれたあの日の事を思い出す。



「みんなはこんな能力があって羨ましいって思うかもしれないけど、本当はとても辛いものなのよ。だって、分かるのはいい事ばかりじゃないもの。」
「姉さん・・・」
「ねぇゼマ、なんで私はこんな力を持っちゃったんだろうね。私は普通の人に生まれたかった。何処にでもいるような、普通の女の子になりたかった。でも神様は、それを認めてくれなかったのね・・・」



いつもとは違う、弱気な顔を見せるアスハ。
ゼマはそれをかつての自分と重ね合わせ、何をするべきかを導き出す。
彼女の弟として、彼女に何をしてあげればいいのかを。



「・・・ゼマ?」



ゼマが取った行動は、アスハの手を優しく握り返す事だった。



「姉さん、僕は姉さんの弟だよ。僕が弟になったその時から、姉さんの全てを受け止める覚悟は出来てる。姉さんの辛かった事、僕に全部話して。それでこの雨みたいに、姉さんの痛みが洗い流されるんだったら・・・」
「・・・ありがとう、ゼマ。やっぱりゼマは、私の誇りよ・・・」
「僕もだよ、アスハ姉さん・・・」



アスハは今まで心に溜まっていた、その全てをゼマに話した。
ゼマはそれを受け止め、2人は雨が止むまで語り続けた。
そして2人の絆は、何があろうとも断ち切れないものとなった。 






それから数年の月日が経ち、2人は変わる事の無い日々を送っていた。
ゼマの父・ダクが隣集落で起こった紛争に参加し、亡骸として帰って来た事を除いて。



「・・・お父様は、ずっと戦場で生きてきた人だ。だから普通の生活なんて、出来なかったんだ・・・」
「やっぱり、ゼマはそう思うの?」
「一応10年くらい一緒にいたし、僕はそう思う・・・だって、そうじゃなきゃ特攻なんて考えないよ・・・」
「そう・・・」
「姉さん、僕は解放されたのかな・・・?お父様と言う鎖から、やっと。でもどうして、僕の心は晴れないんだろう?お父様は死してもなお、僕を苦しめ続けるのかな・・・」
「・・・ゼマ、その答えは今のゼマには分からないと思うわ。きっとそれはもがいて、もがいて、もがき続けて初めて見えてくるもの。でも、きっとゼマなら答えを見つける筈。私には分かるわ。」
「姉さん・・・」
「それまで私は、ずっとゼマと一緒にいる。私達は、永遠の姉弟なんだから・・・」
「・・・うん。」



2人は手を繋ぎ、澄み渡った空を見上げる。
心を覆う訳の分からない不安に駆られながらも、ゼマはこの時がいつまでも続くと信じていた。
しかし、それは突如失われる事となった。
遺伝子の暴走が産んだ、破壊の化身・ディラによって・・・





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