ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐




「・・・」



ゼマもまたその瞳の奥で過去の記憶を、過去の自分を辿っていた。
忌まわしくも尊い、その記憶を・・・










南方に存在する小規模な大陸、ニライ・カナイでゼマは産まれた。
父は世界に名を馳せる一流パイロット、母は誰もが羨む美貌の持ち主であり、ゼマもまた両人の良さを受け継いだ端正な顔と優れた才能を持って育った。
それ故、周りの人々はゼマに憧れにも似た眼差しを向けていたが、当の本人にとって嬉しくは無かった。
周りとは違う「異端」と言う感覚、それによる孤立感を小さいながら感じずにはいられなかったのもあるが、それ以上の理由がゼマにはあった。





「何をやっている!だらしない操縦をするな!」



そう、父・ダクの厳しい教育であった。
ダクはゼマが物心付かない頃に戦闘機を操縦してみせたのを見て自分の才能を受け継いでいる事に気付き、早すぎる妻の死もあってそれを伸ばそうとゼマに厳しい教育を施した。
それは俗に言う「スパルタ」流であり、暴力もいとわないその方針はゼマから心のゆとりを奪い、自分の境遇を恨む大きな要因となった。



「お前はやれば出来る!何故やろうとしない!」
「だって・・・こんなに苦しい機械いじりなんてしたくないよ!」
「口答えするな!」



容赦なくゼマの頬を平手打ちするダク。
ゼマはいつしか、あれだけ楽しかった機械との触れ合いが苦痛になってしまっていた。






そんな日常が続いたある日、北方の小大陸・レムリアからダクの親戚が隣に越して来た。
どうも数年前に孤児の少女を拾い、環境的にもこの大陸の方が合うと思ってここへ来たとの事だった。
そしてダクに連れられて挨拶に来たゼマは、そこで運命の出会いを果たした。



「この子の名前はアスハ。どうか仲良くしてやってくれ。」



手を握られながら連れられたその少女は純白の髪をしていた事もあって、ゼマにはとても神秘的に見えた。
それだけではなく、ゼマは彼女から何か特別なオーラの様なもの、何か心の底から惹き付けられるものを感じていた。



「ゼ、ゼマと言います・・・これから、よろしくお願いします・・・」
「・・・よろしく、ゼマ君。」






初対面こそ緊張が隠せなかったゼマだったが、少しずつアスハと話している内にそういった感情は消え、数日と経たぬ内に普通に話せるようになった。



「そういえば、お姉様の故郷はどんな所なんですか?」
「私の故郷?実ははっきりと覚えてはいないの。でも、一番最初に覚えてるのは蒼・紅・翠の閃光・・・それからはレムリアの外れにいた記憶だけ。」
「閃光・・・」
「あとゼマ君、前から言いたかったんだけど、そんな固い言い方じゃなくても私の事は『アスハ』でいいよ。」
「いえ、そんな呼び捨てでなんて言えません・・・」
「どうして?私の方が年上だから?」
「父上に、ぶたれるから・・・」



――あっ・・・!



しまった、とばかりに口を両手で塞ぐゼマ。
しかしアスハはその一言を聞き逃してはいなかった。



「ど、どういう事?」
「なっ、何でもありません。どうか忘れて下さい・・・」
「そうはいかないわ。どういう事なのか、私に言いなさい。」
「い、いえ・・・」
「言いなさい。」
「でも・・・」
「言いなさい。」
「・・・」



躊躇いからゼマは下にうつ向き、握った両手を震わせる。
尋常ではないその震え方は、ゼマの恐怖が如何ばかりであるかを物語っている。
だがその手を、アスハは優しく両手で包み込んだ。



「私に、言って。」
「・・・っ!」



その一言にゼマの心の鎖が解かれ、自然と彼の口を開かせた。
今まで父・ダクにされてきた過酷な教育、それによる苦しみ。
ゼマはその全てをアスハに吐露し、アスハもまたゼマの言葉を一言一句聞き逃さなかった。



「そう・・・ずっとそんな苦しみを抱え続けていたのね。酷いよね・・・ゼマにもちゃんと意思があるのに、実の親がそれを受け入れないなんて・・・」
「あ・・・りがとう。僕・・・そんな事、初めて言って貰えた・・・」
「だけど、自分の大好きな操縦だけは嫌いになっちゃ駄目よ。それは自分を否定する事でもあるんだから。」
「う・・・うん。分かっ・・・」



と、その時アスハがゼマを強く、だが優しく抱擁した。
あまりに突然の事にゼマは顔を赤らませるが、すぐに不思議と心は落ち着いていった。



「私が、ゼマのお姉さんになってあげる。だからもう、1人で泣かないで。私が、ずっと傍にいるから・・・」
「・・・うん、分かったよ、アスハ姉さん・・・」
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