ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐
その頃、科学研究所前では一団が今か今かとサイワの帰還を待っていた。
「サイワさん、少し遅くないか・・・?」
「これはとても大きな計画なんだ、話が長くなっても仕方がないさ。」
「やっぱり、黒い獣の事がバレたのか?」
「おい!そんな事、ある筈・・・」
と、その時研究所の入り口が開き、サイワが姿を現した。
下を向きがちだった一団の視線が一斉にサイワへ向く。
「お前ら、帰ったぜ。」
「それで、話の方は・・・?」
「・・・成立だ。」
誰もが待ち望んでいたサイワのその返事に、一団は歓声を上げた。
活気の無かった一団の空気は一転し、腕を振り上げ喜びを表現する者や、仲間と手を繋いで喜びを分かち合う者など、反応は様々だった。
ただ1人、一団の外れで拳を握り締めるゼマを除いて。
「とりあえず、お偉いさんが色々話し合いがしたいから連れも中に入ってくれってよ。」
「分かりました!」
「よし、これで活路が見えてきたぞ・・・!」
サイワに連れられ、一団はぞろぞろと研究所の中へ入って行く。
ゼマもまた何かの思惑を抱いた瞳で空を見上げると、研究所に入った。
「こっちだ。中は迷宮みてぇだから、ちゃんとついて来いよ。」
一団は期待に胸を膨らませつつ、黙ってサイワの後ろを追って行く。
その様子はやはり研究所の所員達も違和感を感じているようで、一団が通ると必ず所員の目線は動いていた。
「ここが会議室だ。」
そんな事もありつつ、一団は会議室に到着した。
中には既に幹部と思われる所員が待機しており、その中央の席にエンルゥが座っている。
「ムー生物化学研究所の皆様、わざわざここまで来て下さって本当にありがとうございます。私はアトランティス科学研究所所長のエンルゥと申します。どうぞ、お座り下さい。」
エンルゥに促され、一団は荷物を降ろして席に座った。
サイワは中央の席に座り、所長同士が顔を合わせる恰好となった。
「さて、早速本題に入りますが、実は我々も既に黒い獣への対策は考案しておりました。ですが黒い獣によって破壊された兵器の数はあまりにも多く、それを補完する為に兵器を急製造していた事によって中々手が回りませんでした。」
「こりゃ、超大国も大変だな。」
「今では一通り製造も終わり、これから対策を計画に移す所です。そんな機会で生物化学の精鋭とも言える貴方達が来て下さった事で、計画が軌道に乗るのもより早くなるでしょう。」
「それで、その対策ってのは何だ?」
「これです。」
そう言うと、エンルゥは机上のボタンを押した。
すると数ヵ所の机上が左右に開き、せり上がって来たディスプレイに何かの設計図の様な図式が表示された。
「こ、これは!?」
「所轄『機械獣』と言えるものです。元々はレグチュアに次ぐ次世代機械獣として開発する予定でしたが、黒い獣の出現に伴って急遽予定を変更し、全身を特殊金属『オリハルコン』で構成され、更に最新鋭の兵器を数々搭載した『機械獣』として開発する運びとなりました。」
「す、凄い・・・」
「これはまさに、技術の結晶だ!」
予想を遥かに上回る目の前に示される「超兵器」に沸く化学研究所の面々。
しかし、エンルゥは冷静な表情を崩さぬままこう続けた。
「・・・ただ一つ、これには問題があります。」
「問題?」
「高性能故、あまりに兵器の伝達回数が多すぎるのです。通常の機械に使われる伝達装置の速度ではとても追い付けず、例え全身が完成しても数秒も動かない事が予測されています。」
「兵器が出来る以前の問題、って事か・・・」
「そこで貴方達に協力を仰ぎたいのです。確か、生物の遺伝子を利用した伝達装置なら通常の数倍の速度で伝達を完了する、と聞きました。」
「あぁ。生物の遺伝子は天然の伝達装置と言っても替わりねぇ塩基ってのを4つ持ってるからな、そこらの機械よりよっぽど速ぇ。」
「成る程、通常に比べて軽く4倍と言った所でしょうか。私達はその遺伝子伝達装置を兵器の全身に搭載し、他の生物と変わり無い運動能力を獲得出来ると考えています。」
「つまり、オレ達はその伝達装置に合った遺伝子を見つけだせばいいんだな?」
「ご名答。遺伝子を使った伝達装置は流石に専門外なので、出来れば貴方達の方で私達が兵器を完成させる前に完成させて下されば幸いです。」
「それは任せろ。必ず最強の兵器にぴったりなもんを作ってやるぜ。」
「では、早速作業に掛かりたい所ですが、その前に確認しておく事がありますね。」
エンルゥは白衣のポケットから何かの発信機を取り出し、耳元に当てる。
「こちらエンルゥ、そちらの様子はどうだ。」
同刻、とある海の中を鮫の型をした青い潜水艦・池淡潜挺が正面から照射されるライトで海の底を照らしていた。
内部では搭乗員が誰かと連絡を取っており、ディスプレイには象形文字の様なものが表示されている。
「こちら、65号。エンルゥ様、黒い獣の姿はありません。」
更にまた別の場所を隼の型をした水色の戦闘機・鉄甲翼機が空を飛んでいた。
先程の潜水艦と同様、コクピットでは搭乗員が連絡を取っている。
「こちら、56号。エンルゥ様、黒い獣は発見できません。」
「そうか、ご苦労。」
ディラ捜索の為、世界中に散らばっていた探索員との連絡を終え、エンルゥは発信機を再びポケットに仕舞う。
「どうした?」
「今、探索員達に黒い獣が発見出来たか確認していましたが、影も型も無かったようです。」
「とりあえず、これで安心だな。」
「これで不安要素も無くなりました。では、作業を開始致しましょう。」