ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐







「おい、どういう事だ!」
「すみません、所長に会いたいのでしたら、先に許可を取ってもらわなければいけないんです・・・」



科学研究所内に入ったサイワだったが、早速受付で止められていた。
とにかく1秒でも早くラピュタに辿り着く事を目的にするあまり、俗に言うアポイントを取るのを忘れていたのだ。



「そんなケチ臭い事言うなよ・・・オレの所はそんなの関係ねぇし、何日も掛けてここまで来たんだぜ?」
「ここでは、そう決まっておりますので・・・」
「おいおい、だったらこれまでの苦労は・・・」
「どうした。」



と、そこに眼鏡を掛けた白衣の男がやって来た。
見るからに立場が高そうな雰囲気を醸し出している。



「所長!」
「しょ、所長!?」
「何だか煩いので来てみたが・・・おお、貴方はムー生物化学研究所所長のサイワ様ではありませんか。」



そう、サイワの正体は世界に名を轟かせる生物学研究所・ムー生物化学研究所の所長であったのだ。



「おう、オレはあそこの所長・・・って、だからさっき『オレの所は』って言ったじゃねぇか!」
「恐らく面会手続きを取っていなかったのだろうが、入れてやれ。」
「えっ・・・よ、よろしいのですか?」
「私が許可した。」
「は、はい。」



予想外の出来事ではあったが、とりあえずこの助け舟にサイワは胸を撫で降ろした。
男はサイワを何処かへと案内する為、入り組んだ研究所内を歩いて行く。



「先程は失礼しました。私の名はエンルゥ。このアトランティス科学研究所の所長です。」
「おう・・・ひとまず助かったぜ。ありがとな。」
「礼には及びません。貴方とは一度話したかったものですから。さて、着きましたよ。」



辿り着いた先にあったのは、厚さ2m以上はありそうな厳重な扉だった。
エンルゥは扉の横にあるテンキーを慣れた手付きで入力すると、けたたましい音を立てて扉が開いた。



「どうぞ、遠慮せずお入り下さい。」
「ああ。」



2人が中に入ると、自動的に扉が閉まった。
中は何処にでもあるような、机とソファと観葉植物がある部屋だった。



「特製防音壁で出来たここなら私達の声は誰にも聞こえません。それでは、用件をお聞かせ願いましょう。」
「防音壁?まあ、とりあえず話すぜ。オレ達が何故ここに来たのか・・・」



サイワは話し始めた。ここに来るまでの経緯を。
突如現れた黒い獣、その獣に壊滅させられたムー大陸、アトランティスに助けを求め、幾日もの旅を経てきた事・・・



「と、言うわけだ。それでオレ達は、ここにその黒い獣を倒せる『兵器』を作ってもらおうと言うわけで来た。これはもはや世界の危機、放っておけば全世界がムーみたいになっちまう・・・」
「成る程・・・ですが、そんな化け物に勝てる兵器なんてとても・・・」
「自信がない事は分かってる。だからこそオレ達が来たんだ。これでもオレ達はあらゆる生物と言う生物の資料を持ってる。それを提供するぜ。」
「・・・それは本当に有難いです。が、私達は貴方達には協力出来ません。」
「な、なんでだよ、これはそっちにも関わってくる事なんだぞ・・・」
「貴方は熱血漢の割には、嘘を付くのが上手いですね。」
「おい、それはどういう・・・」
「まだ嘘を付きますか・・・あの黒い獣・ディラを生み出したのは、貴方達だと言うのに。」
「・・・!」



エンルゥの一言に、それまで自信に溢れた表情だったサイワの顔が一気に凍り付いた。
図星・・・とばかりに顔に笑みを浮かべ、エンルゥは話を続ける。



「でっ・・・でたらめを・・・」
「知ってるんですよ、貴方達がやっている事なんて。貴方達は人類の限界と称し、巨獣・ジラの遺伝子を使って極秘に研究を続けていた。そして貴方達は、ディラに行き着いた。」
「・・・」
「こうみても私は世界の情勢には興味がありましてね、世界中に偵察用の機械や密偵を送り込んでいるんですよ。ですが、まさかこうも全てを掌握出来るとは・・・」
「・・・全部本当だ。オレ達は研究って理由をこじつけてジラの遺伝子をいじくり回し続けて、それがこのザマだ・・・!オレ達は、とんでもない過ちを犯している事にも気付かずによ・・・!」
「たった一度の過ちだった、それで許されるとでも思っているんですか?」
「分かってる、そんな事はオレが一番・・・だからこそ、オレに償いをさせてくれ!俺に、奴を解放出来る力を分けてくれないか・・・!」



サイワは手を机に置き、深く頭を下げる。
その手は震え、目からは涙が溢れている。
彼の思いは本気だった。
だが、それをエンルゥは冷たい眼差しで見つめていた。



「お涙頂戴、ですね。まあいいでしょう。どんな私情があろうとそれはディラを放置する理由にはなりませんし。私達は『兵器』の製造を請け負います。」
「ほ、本当か・・・?」
「但し、条件が一つ。」



恐る恐る頭を上げたサイワにエンルゥは何かを耳打ちした。
それを聞いたサイワは異様な程にまで目を見開き、エンルゥを驚愕の目で見る。
しかし、至ってエンルゥは表情を崩さない。



「別に良いでしょう?これで尻拭いが出来るのですから・・・」
9/31ページ
スキ