ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐







ムーの悲劇から数日が経った。
大陸はほぼ壊滅状態であり、多くの研究資料や尊い命が失われた。
ムーを離れた人々はこの平和を壊した黒い獣への憎しみを心に抱きつつ、違う土地へ移住したり、復興の為ムーへ戻ったり・・・とまちまちだった。





そんな中、広い大海を渡る一つの船があった。
張られた帆には風が吹く装置が付いており、自然に頼る事なく船を進められる。
その船の甲板では船長とおぼしき男が、船員と話していた。



「サイワさん、アトランティスまでもう少しです。」
「そうか。早く着いてお偉いさんに話さねぇと・・・」
「ですね・・・」
「ところでサイワさん、こうして生き延びた化学者達が集まってアトランティスを目指しているわけですが、具体的に何が目的なんですか?」
「それはな、『兵器』を作ってもらうんだよ。」
「『兵器』?」
「おう。生物学が発展したムーと対になるように、アトランティスは機械学が発展してるのは知ってるだろ?」
「はい。」
「これまでの戦争で使われたのも、ほとんどアトランティスの開発物だ。そこでそんなアトランティスにあの黒い獣を倒せる凄い兵器を作って貰おう、ってわけだ。」
「しかし、アトランティス側は我々の相談を受けてくれるのでしょうか・・・」
「黒い獣はあいつらにとっても厄介な存在。自分の身だって危ないのにケチ臭い事なんて言わねぇよ。」
「そうだといいのですが・・・」
「なぁ!お前もそう思うだろ!少年!」



サイワと呼ばれた三十路の男は後ろに振り返り、誰かに話し掛ける。
甲板の隅にいたのは、至る所が焼け焦げ破れた服を着ている、頭を下げて一言も喋る気配の無い少年であった。
だが少年はサイワの言葉が聞こえていないのか、ぼそぼそと何か呟いている。



「・・・とある昔、強い力を持ちし三人の妖精あり。
各勇気の長女・知恵の次女・愛の末女。
ニライ・カナイより来たった妖精は人々に勇気・知恵・愛の大切さを伝え、人々を豊かにしたり。
が、人々はそれを誤った力に変え、醜い争いを繰り返す。
それを嘆いた妖精は大海に浮かぶ小さき島に去り、島を守る巨獣に勇気・知恵・愛の結晶を与え、島の守護神とせん。
やがて人々は過ちに気付くも、妖精の姿は既に世界に無きし・・・」
「おい!聞いてるか!」
「はっ・・・」



サイワの二度目の掛け声で少年・・・ゼマの意識は現実に戻った。
程無くしてサイワが少々怒り気味である事に気づき、軽く頭を縦に振る。



「全く、人の話はちゃんと聞いとけよ。」
「すみません・・・」



そう言うとゼマは立ち上がり、甲板の手摺に両手を掛け果てしない海を見つめる。
誰が見ても、気が沈んでいるのは明らかだ。



「サイワさん、あの子供・・・」
「あいつとは結構深い仲なんだがな、あの集落で久々に会った時にはもう、あんな感じだった・・・」
「あの集落ですか。きっと黒い獣を目前にして、恐怖心に囚われたんでしょうね・・・」
「それだけじゃねぇ。あいつは目の前で大切な人を失ったんだ。姉弟同然に育った、1人の少女を・・・」
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