ゴジラ0‐一万二千年の記憶‐




「・・・!」



その集落の中を、2人の子供が走っていた。
銀色の服を着た少女と、黄色の服を着た少年だ。
2人は息を切らしながらも火だるまになった家屋を慎重に避け、郊外へ向かって行く。



「ゼマ、大丈夫・・・?」
「僕は大丈夫、アスハ姉さん。姉さんこそ、まだ走れる・・・?」
「うん・・・」



すると、遥か彼方から何か雷鳴にも似た音が聞こえて来た。
丁度2人の背後からだ。



「姉さん、雷みたいな音が・・・」
「いえ、あの音は雷なんかじゃないわ。また違う、何か・・・」
「どうしたの・・・?」
「・・・ゼマ、貴方だけでも生きなさい。」
「えっ・・・」



アスハと呼ばれた少女はそう言うと、ゼマと呼ばれた少年を突如突き飛ばした。
更にその瞬間、2人の背後から凄まじい閃光が起こったかと思うと、蒼い閃光が集落を貫いた。



グォオオオオオオオオオ・・・



閃光は家屋を塵も残さずに消滅させ、残った破片を辺りに散らす。
そしてその破片は2人がいた所にも降り注ぎ、開けた所にいたアスハを下敷きにした。



「姉・・・さん?」



だがゼマだけは、降り注いだ破片の下敷きにならずに済んだ。
そう、アスハがゼマを突き飛ばした事によって。
しかし、ゼマにとっては自分が生きている事よりも、自分の目の前でアスハが破片の下敷きになった事の方が衝撃的であった。



「姉さん・・・!」



ゼマは足の疲労も忘れ、アスハが下敷きになった破片に駆け寄ると、がむしゃらに破片を掻き分け始めた。
もしかしたら、まだ姉さんは生きているかもしれない。彼の頭はそれで一杯だった。
ひたすら破片を掻き分け、ようやくゼマはアスハの手を見つけた。
が、その手を握ったゼマに突き付けられた真実、それは冷たくぴくりとも動かない、既に命を失った姉の手だった。



「はっ、はっ・・・!姉さ・・・姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」



アスハの手を強く握り締め、ゼマは悲痛の嘆きを叫ぶ。
もう自分の元に返って来ない、命より大切な姉を失ったその悲しみを。
そしてその叫びを掻き消す様に、黒い獣は天に向かった咆吼を上げた。



グァアアアアアアウン・・・


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