ゴジラ8‐大神獣メギラ降臨‐
翌日、東京・日東新聞本社。
昼時の休憩室には暫しの疲れの癒しにと社員達が各々集まっており、そこに志真の姿もあった。
「・・・うーん・・・」
ベンチに座り、唸りながら志真はひたすら何枚かの写真を見つめる。
休憩室にいる筈ながら、休憩していないのは明らかなのだが、その真剣な表情に他の社員達は問い掛けにも行けずにいた。
「これ、絶対どっかで見た事あるんだけどなぁ・・・あぁ、思い出せなくて気持ち悪ぃ・・・」
「あら、志真さん。こんな所でどうかしましたか?」
そんな彼にあっさりと話し掛けたのは、今や日東新聞本社の名物受付嬢にして、志真の同期である女性・佐藤潤だった。
缶コーヒーを両手に一つずつ持っている点を考えると、偶然を装った割には最初から志真に話しかける予定だったようだが。
「あっ、潤さん。いやぁ、ちょっとこれに見覚えがあるんだけど思い出せなくて、悩んでるんです。」
「デジャヴ、ってやつですか?」
「そうそう、それですまさに。」
「あれ、気持ち悪いですよねー。解消するには何とか思い出すしかないですし・・・あっ、これ差し上げますので、飲んでいる間に写真を見せて下さいよ。」
「おっ、マジですか!ゴチになります、っと!」
志真は嬉々としながら写真を潤に渡し、潤は右手に持った缶コーヒー――志真に渡そうと買っておいた差し入れ――を志真に渡す。
写真には様々な場所で撮られた石碑が写っており、どの石碑にもうっすらとイコン画に似た絵が描かれていた。
沢山の火、逃げ惑う人々、肉食獣に似た生物達・・・
「・・・戦争?」
何か、争いが描かれている。
潤がここまで理解するまでに、志真は缶コーヒーを一気に飲み干してしまっていた。
「・・・ぷはっ!あ~、うまかった!」
「落ち着きましたか?」
「ええ、ありがとうございます。」
「それは良かった。あの、この石碑が今志真さんが調べてる事ですか?」
「いや、実は俺が勝手に調べてる事なんですよ。参考にしようと見た雑誌に載ってて、なんか気になって・・・」
――潤さんには言えないけど、この写真見た瞬間に結晶が反応したみたいな感じがしたんだよな・・・
何でか2年前に現れたレグチュアの事とか、ゴジラとかも頭に浮かんだし・・・
「そうですか。でも、プライベートの調べ物はデスクに怒られない程度にして下さいね。私も言い訳考えるの、大変なんですから。」
「いつもほんとすみません・・・気を付けます。それで見覚えあるのが、この石碑の絵なんですけど・・・」
志真が見せた写真には、一対の翼のようなものを背中に持った白銀の機械の獣が写っていた。
翼のようなもの・・・と言うのも基本的に連想する翼である「幾つもの羽毛が生えた形」ではなく、無数の黒線で翼のような形を成している、まるで長いジェットが吹き出しているように描かれていたからであり、持ち主が機械の獣なのもあって不思議な合致性がある。
「これですか?」
「はい。なんだろ、見覚えあるって言うよりか知らないって感覚が無いって言うか・・・一緒か。」
「漫画やアニメに出て来た、ってわけじゃないんですか?」
「うーん・・・なんかそれも違うんですよ。もっとこう・・・生まれてないけど何か知ってるもの、みたいな。」
「・・・それなら私、天使に見えました。」
「天使?あぁ、確かに。」
「単純に翼が付いてるからだと思いますけど、なんとなく・・・あ、それとなんとなくと言えば、志真さんにはちょっと失礼かもしれませんが、私には一瞬ゴジラにも見えましたね。」
「ゴジラに?」
「ゴジラには翼は無いですし、こんな機械のような体じゃないですけどね。翼抜きで体の形だけ見たら、と言う感じで。」
「・・・言われてみればそうですね。俺的には『メカゴジラ』って感じですけど。」
「うふふっ、出ましたね。志真さんのストレートネーミング。私、好きですよ。」
「ははっ、それはありがとさんです。とりあえず、もうすぐ休憩も終わりですから明日からの取材の下調べでもしますか。」
「今度はどんな取材をしているんですか?」
「『預言者ノア』、についてです。潤さんは知ってます?」
「もちろん!今月になって突然現れて、この先起こる事を全て的中させてるって言う、凄い人ですよね。」
「流石潤さん。んで、実はそいつどうもこの石板の近くに現れる事が多いみたいなんですよ。昨日現れた温泉の近くにも、石板がありましたし。」
「えっ、そうなんですか・・・でもそれ、志真さんにとっては一石二鳥ですよね。」
「そう言うわけですよ!何か居ても立ってもいられなくなって来たんで、やっぱ戻ります!話聞いてくれて、ありがとうございました!」
「はい。頑張って下さいね~。」
ーー・・・ほんと、そうやっていつでも取材に一生懸命になって、怪獣相手にも怯まない志真君、素敵よ。
私も影ながら、そんな貴方をいつでも応援してるから・・・頑張って、「怪獣取材の専門家」さん。
思い立つや慌てて写真をまとめ、潤に敬礼しながら早々と休憩室を去る志真と、小脇に右手を振って笑顔で志真を見送る潤。
そして周りの者達は2人の会話を、ピリピリとしながら聞く事しか出来なかった。
――志真のやつ、あの日東の玄関のマドンナ・佐藤潤さんと本当に普通に喋ってやがる・・・!
――俺、潤さんと挨拶しか出来て無いのにっ!何者なんだ、あいつ!
――・・・こりゃ、寿退社の未来も遠くはないかもなぁ。
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