ゴジラ8‐大神獣メギラ降臨‐







2011年、12月。
日本の政界は、ある条約の可決の是非で揺れていた。
かつてアメリカ軍特尉(現特佐)・ブリューが日本政府に可決させ、後に廃案となった「対G条約」。
対ゴジラ用だったこの条約を発展させ、巨大生物・・・怪獣の出現に限り、総理大臣の認可を経ずとも各地の駐屯地が怪獣の出現箇所に応じ、各々の判断で部隊を出撃させられると言う条約「対獣条約」の可決についての有無である。
当然、条約可決には賛成派と反対派がちょうど真っ二つに分かれ、何度議論を重ねても両者の言い分は平行線から抜け出せない様相を呈し、遂には先月始めに暴動騒ぎにも発展しかねない事態にまでなってしまった。



「はぁ。嫌だなぁ・・・もう俺、あのピリピリしまくった所に行きたくねぇよ・・・」
「堪えるんだ、西。一番辛いのは瞬殿なんだぞ・・・」



国会議事堂内の控室。
対獣条約の参考人として瞬達が呼ばれ、これから会議の場に行く東と西は沈んでいた。
条約反対派であり、暴動にもなりかねない場である以上は致し方ないが。



「恐怖の体現、だな。これまでも数多く現れ、これからも現れ続ける訳の分からない巨大生物、いや怪獣に対しての恐れ・・・」
「「瞬殿?」」
「表面上は専守防衛故にどうしても後手に出てしまう怪獣対策を迅速にするとの理由だが、暴動を起こしてまでこの条約の是非が問われている本当の理由、それは・・・」
「ゴジラへの不安、やろ?」



と、いつの間にか部屋の扉を開いて立っていたのは、直角に整った黒いおかっぱ頭が目を惹く軍服を来た女性だった。
腕を組み、睨むように瞬を見るその瞳からは強い意志と自信を感じさせる。



「「牾藤特佐!?」」
「お前か。ノックぐらいしろ。」
「えらい情けない声が聞こえたから、寄ってみただけや。あんたの弟子とやらは年だけはあんたより上やのに、いつまで立っても半人前やな。」
「お前の主観の入った意見など、聞くつもりはない。この2人の出来を評価するのは俺だ。」
「「瞬殿ぉ・・・!」」
「あっ、そう。まぁそんなんが相手なんやったら、うちら賛成派の勝ちは時間の問題やな。」
「結論から楽観的な考えを見出だす、先見性の無い愚者の典型だな。」
「なんぼでも言うたらええ、さっきうちが言ったんは事実や。賛成派と反対派共通のな。それがある限り、いつか対獣条約は可決される。あんたらも分かってんねやろ?今まで沢山の巨大生物・・・怪獣を倒して来たゴジラ。そんな奴が強くなってったら、世界を滅ぼす可能性があるって。」
「それがどうした。愚か者が押し付けた我が儘(まま)が元になった条約など、俺達が可決させん・・・!」
「あんたがどうしようと、結果は決まってんねん。運命って流れの果てにな。まっ、せいぜい頑張りや。」



最後まで鋭い眼差しを崩さぬまま、女性は扉を閉めながら部屋を去った。
彼女の正体、それは兵庫県・千僧駐屯地第三師団所属の「特佐」であり、西日本最強のトップエースである牾藤雪菜(せつな)。
瞬とは同じ養成学校で学び、競い合った関係・・・なのだが、その仲が良くなる事は遂に一度もなく、国会と言う大舞台で2人は久々に合間見える事となったのだ。



「・・・あぁ、怖かった。俺、一番嫌なの牾藤特佐と対決しないといけないからなんだよなぁ・・・」
「流石は浪花最強の女・牾藤雪菜特佐、凄まじい迫力だ・・・瞬殿?」
「・・・可決など、させるものか。」


――もしこの条約が可決されたら、ゴジラだけではない。
モスラもバランも、攻撃対象になる可能性がある・・・あいつは、それが狙いに決まっている。
かつて同じ事をしていた俺に言える義理は無いのかもしれないが・・・だからこそ、俺が絶対に止めなければ・・・!



軽く歯を食い縛る瞬の目は、決意に満ちていた。






「雪菜様!」
「おう、みなみ。」



一方、控室から出た雪菜に1人の女性が駆け寄った。
後ろで結んだウェーブセミロングヘア、180cmは優に越える長身、ジトっとした目が特徴的な、通称「悟藤隊」と呼ばれる雪菜専用の部隊の参謀役を務める自衛隊員・南野(なんの)みなみだ。



「ご挨拶、どうでしたか?まぁ、あの連中ならロクな結果にならなかったと思いますが?」
「その通りや。あんだけ怪獣は駆逐駆逐、って言うてたのにいつの間にやら怪獣、と言うかゴジラファンになりよって、ほんま迷惑やわ。」
「まさしく!白々しく掌を返す男程、面倒な事この上無いですよね!ホンマ・・・」
「あんた、昔なんかあったん?」
「い、いえいえ。それより、次のスケジュールですが・・・」



南野が話すスケジュールを片耳で聞きながら、雪菜もまた決意の眼差しを見せていた。



――・・・絶対、この条約は可決させたる。
怪獣に未来を奪われた、あんたらの為に・・・!
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