ゴジラ‐世紀の大怪獣‐
怪獣の出現は、国会にも伝わっていた。
総理官邸に防衛省長官・渡瀬が慌ただしく入って来る。
「渡瀬長官。どうしましたか?」
「今すぐ総理に会わせてくれ!緊急事態だ!」
「しかし、確かアポをとられて・・・」
「そんな事を言ってる状況じゃない!早く!」
「わ、分かりました・・・!」
急いで受付は総理に連絡し、5分程して渡瀬は総理大臣・中端の元に案内された。
「渡瀬君、そんなに慌ててどうしたんだね・・・」
「総理、これを見て下さい。」
渡瀬は数枚の航空写真を中端に差し出した。
どの写真にも赤茶色の怪獣が写っている。
「なっ、何と・・・!」
それを見た中端はすぐ部屋の奥へ行き、何かの資料とおぼしきA4の封筒を持ってきた。
「総理、それは?」
「渡瀬君。あってはならない事がついに起こってしまったよ。」
中端は封筒から写真を取り出し、渡瀬に見せた。
モノクロのかなり古い写真だ。
そして写真には、何故かあの赤茶色の怪獣が写っている。
「こ、これは一体!?」
「この怪獣の名はバラン。半世紀前、東京に現れた怪獣だ。」
「バラン?」
「半世紀、ある山奥の村で『婆羅陀巍(バラダギ)山神』として恐れられていた怪獣だったが、東京へと向かった為に当時の自衛隊により駆逐されている。」
「その怪獣が、何故今頃?」
「恐らく東京湾に沈んでいた所を、何か強烈な干渉を受けたのだろう。」
「そういえば海底調査総合組合からの報告によると数日前、東京湾を調査していた潜水艦が突如謎のSOS信号を発して行方を絶ったそうです。」
「それかもしれない。海底に眠るバランにライトか何かで刺激してしまったのか・・・」
一方、千葉県・木更津市では既に愛宕山を降りていたバランが街を破壊していた。
猟師の視点からは見えていなかったが、腹には何かが爆発した跡の様な放射状の傷がある。
「かっ、怪獣だあああああっ!!」
「わあぁぁぁぁ!!」
「だ、誰かぁ!!助けてくれぇ!!」
人々の叫びも虚しく、ビルも鉄塔も、何もかもがバランによって壊されていく。
逃げ惑う人々も、無惨にも瓦礫の下へと埋もれていった。
更にバランは街の中央で背中の棘を勢い良く飛ばす「針千本」を使った。
棘は街中の建物に突き刺さり、爆発を遂げる。
グウィウウウウウン・・・
バランが去った木更津はまさに地獄絵図と化し、その惨状は渡瀬の携帯を通じて即座に総理官邸にも伝えられた。
「・・・なんと言う事だ・・・!」
「総理、自衛隊を出動させて下さい!バランは間違いなく東京を目指しています!今止めなければいけません!」
渡瀬の言う通り、バランは房総半島の町々を破壊しながら半島を北上していたのだ。
このままだと東京に到着するのも時間の問題だ。
「しかし50年前、バランにはいかなる火力も通じなかった。」
「今の自衛隊の火力は当時の比ではありません!何故総理は怖じけついて・・・」
「そう言う問題では無い!!」
いつもは温厚である中端が突如、声を荒げて叫んだ。
その気迫に、渡瀬も黙り込む。
「・・・私とてこのまま東京を放棄する気は無い。しかし、バランにはこの世の『常識』は通用しないんだ。」
「何故、それを言い切れるのですか?」
「実際に見たからだ、この目で。私はまだ10にも満たなかったが、今でもはっきりと覚えている。」
「・・・」
「まさにこの世の終わりかと思ったよ。いかなる攻撃もバランには通用せず、私達の街は容易く壊されていった・・・」
「・・・総理のおっしゃりたい事はよく分かりました。では、バランはどうやって倒されたのですか?」
「バランは光る物を飲む習性があったらしく、そこを突いた作戦が行われた。」
「習性?」
「ダイナマイトの約20倍もの威力がある特殊火薬を照明弾に付けてバランに飲ませ、体内で爆発させて駆逐したんだ。」
「それだ・・・!それを使いましょう!」
「いや、もうその特殊火薬の作り方は誰にも分からない。それにもし、作れたとしても恐らく今のバランには通用しない。」
「えっ?」
「野生で暮らす生物達は、自分で犯した過ちは二度と繰り返さない。バランももう、照明弾を飲むという過ちは二度と繰り返さないだろう。それに飲ませたからこそ効果があったのであって、直接使用しても全く意味は無かった。」
「そんな・・・」
「しかし、私にはこの国を守るという義務がある。少しでもいい、バランに通用するならば・・・自衛隊を出動させる!」
「・・・了解!」
渡瀬はすぐさま総理官邸から出ていった。
中端はバランの写る写真を眺め、こう呟いた。
「・・・先代よ、神よ。どうか我が国に、明るい未来を・・・」