ゴジラ7・5‐追憶‐











「はっ、はっ・・・」



2004年、庚は太田市の住宅街を必死に走っていた。
空軍幹部候補生学校に入った庚はその天性の才能を発揮し、3等尉卒業が内定していた。
学校自体は奈良にあり、その都合で実家を離れていたのだが、突然入った父からの電話が彼の帰郷を即決させた。



――『庚、喜べ!遂に私の研究が完成しそうだ!
私の古い友人がある細胞を提供してくれてね、何でも脅威の再生力を秘めた超古代の生物の細胞らしいんだ!
これで私の永遠の花、「アイヴィラ」が咲いてくれる・・・』






――父さん、やっと夢を叶えたんだな・・・!



3等尉内定の報告も兼ねての帰郷は、最高の一時になる筈だった。
しかし我が家を目前にしたその時、庚の目に飛び込んで来たのは信じられない・・・いや、信じたくない光景だった。



「なっ・・・!」



自分の眼前で爆発した家、そこから現れる無数の蔦と、檻の様な本体。
それこそが父・萋が求め続けたもの、楽園に咲く花・アイヴィラの成れの果てであると庚は悟った。



「そん、な・・・!」



庚の頭にフラッシュバックする、萋の希望に満ちた様々な言葉と、あくまで純粋に夢を追い続けていた、父の思い。
だがそれらは全て、眼前の化け物と言う形になって具現化してしまった。
更に爆発によって大破した家は、かけがえのない父と母が、もう戻って来ない事を教えていた。



「母、さん・・・とう、さん・・・・・・!」



大切なもの全てを失った庚はその場に項垂れ、その身を震わせて誰にも見せる事の無かった涙を、静かに流した。
だが、そんな庚とは裏腹にアイヴィラは温室までも破壊し、蔦を近隣の家まで広げようとする。



「・・・許さない。お前だけは・・・絶対に!!」



庚の悲しみは怒りに変わり、顔を上げると腰のウェストバッグから護身用の拳銃を取り出し、アイヴィラに照準を向けた。
怒りに支配されながら本体の核に狙いを定め、瞬はまるで狂ったかの如く連続で弾丸を発射する。



「うわあああああああああああああああっ!!」



弾丸は数発外れながらもアイヴィラの核を狙撃し、弱点を突かれ続けたアイヴィラはその苦悶を蔦の激しい動きで晒す。
しかし庚の感情は収まる事を知らず、弾が切れた拳銃に即座に弾丸をリロードし、再び乱射する。
衰弱したアイヴィラの核の光はもはや微かになり、蔦も燃えながら力無く大地に伏した。
そして弾の残量があと三発となった時、庚は撃つのを止め、家の近くに置いてある灯油の入った一斗缶を見る。



「消えろ・・・この炎と共に!!」



庚は照準をアイヴィラから一斗缶に変え、残りの弾丸を一斗缶へ撃った。
一発目で傾いた缶は二発目で浮き、三発目で宙を舞って燃える家の中へ飛んだ。
そして灯油に引火した炎は爆発的に勢いを増し、瞬く間にアイヴィラを飲み込んだ。
為す術も無くアイヴィラは炎に焼かれ、炎の中に消えて行った。



「・・・さよなら、母さん・・・
さよなら・・・父さん・・・」



紅連に染まりながら消えて行く我が家を、庚は黙って見つめていた。
またこの出来事が、力をもて余す巨大な存在・・・怪獣に対する不信へと、繋がっていくのだった。
12/17ページ
スキ