ゴジラ7・5‐追憶‐







これは今から8年前・2003年にまで遡る。



「父さん、どうだ?」



ここは太田市の一角に佇む、少し大きめな植物園。
ガラス張りのドームの中には鮮やかな花から地味な花まで多種多様な植物が咲き誇っており、その中に1人の青年がいた。
彼の名は瞬庚。自衛隊を目指す彼は無事防衛大学校を卒業し、幹部候補生学校を専攻したばかりである。



「ああ、ばっちりだ。」



植物を掻き分け出てきた50前の男は瞬の父親である瞬萋(さい)。
中国人である彼は生物学に於いては名の知れた存在であり、特に遺伝子の合成に関しては高い評価を得ている。
妻の茗(めい)は名前ではそう分かりにくいがれっきとした日本人であり、庚は日本人と中国人のハーフでもあるのだ。



「どの植物達も、本当に生き生きとしている!これだけ心地の良い事は無いよ・・・」
「父さんは、植物が大好きだからな。」
「そう、植物は動けないけれど動物よりも長く、逞しく生きているんだ。何百・何千年と生きるものだっているし、数十mも地に根を生やすものだっている。素晴らしい、本当に素晴らしいよ。」
「また始まった、父さんの植物語り・・・」
「なにを、何時間でも話してやろうか?」
「・・・遠慮しとく。」
「そういえば、庚は自衛隊のお偉いさんを養成する学校へ行くんだっけか。」
「もっと偉くなるには、絶対行かないといけないし。」
「おお!流石は庚!これで瞬家も安泰だな~。」
「そんな大層な事でもないさ。俺は大人になっても父さんや母さんを困らせる事になる・・・」
「そんな事気にするな。人生は一度きり、しかも百年とない。なのにやりたい事をやらないでどうするんだ。」
「・・・それもそうかもしれない。何があっても、絶対昇り詰めてみせるさ。」
「そうだ。庚、夢が叶うように、頑張るんだぞ。」
「ああ。」





またある日、庚は居間で考え込んでいる萋を見掛けた。
考え事ならいつもの事であるが、今回は少し事情が違うように見えた。



「父さん、どうした?」
「ああ、また中国で反日活動だよ。何故、こんなにも我が祖国の者はこの国を忌み嫌うんだ・・・確かに満州事変や南京事件は誉められた事じゃない。だが、今の日本人に罪は無いだろう。日本の人々は悔い改め、反省の道を歩もうとしているのに、祖国の人々は未だ昔のままだ・・・」
「父さん・・・」



「庚、私は祖国を嫌うつもりはない。だが、この日本も嫌いになどなれない。日本の美しい風景、文化、季節・・・その全てが大好きだ。それは、祖国にとっていけない事なんだろうか・・・?」
「・・・だから父さんはこうして日本にいるんだろう?気にする必要なんてない、自分のしたい事をしたらいいと言ったのは、父さんだ。」
「・・・ありがとう。やはり、お前は私の誇りだよ。そうだ、そんな庚に見せたいものがある。ちょっと来てくれ。」



そう言うと萋は席を立ち、家を出て温室に向かい始めた。
庚も萋の後を追って温室の中に入り、植物を掻き分けながら導かれるまま、奥へと向かって行く。
しばらくして着いたのは、庚が見た事の無い扉だった。



「ここは?」
「まあ、着いてくれば分かるさ。」



萋が扉の中央にある四角形に掌をかざすと、開く気配の無かった扉がせり下がった。
扉の先には階段があり、下に続いている。
懐中電灯を手にして萋は更に先へと進み、庚はそれに着いて行く形となった。



「こんな所があったのか・・・」
「誰にも言わず、秘密にしていたんだ。でも、庚にならこれを話せると思った。」



やがて階段の先に見えたのは、至る所が赤錆びた厳重そうな扉だった。
萋は胸ポケットからこれまた錆だらけの鍵を取り出し、扉の封を開ける。
そして鈍い音を立ててゆっくりと扉が開くのと同時に、萋は照明のスイッチを入れた。



「これは・・・!?」



そこに広がっていたのはやや小さめな部屋にパソコンやらが置かれた研究用の机と、その横にある大きなカプセルだけだった。



「ここは一体・・・?」
「私の極秘研究部屋だ。ここに温室が出来る前から、私はここである研究をしていた。」
「研究?」
「私はずっと夢見ていた。いつの日か楽園・・・エデンに咲く花を作り出したい、と。まるでそれを見た誰もが目を奪われ、心打たれるような。そしてこの地球から争いが無くなった時、その花はきっと平和の象徴となる。そんな花を、私は咲かせたい。」
「父さん・・・」
「もし花が咲いたなら、私はこう名付けよう。エデンの園に咲く永遠の花の名、それは・・・」
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