ゴジラ7・5‐追憶‐







同刻、太田市の別の場所に旅行鞄を持った志真の姿があった。
彼がいるのは中心街から少し離れた所で、辺りにはあまり家は建っておらず、静寂のみが一帯を包んでいる。
そんな町をしばらく歩いた後、志真はある一軒家の前で足を止めた。
木製の表札には「志真」と書かれている。



「・・・よし。」



志真は深呼吸をして気持ちを整えると、表札の下にあるチャイムを鳴らした。
しばらくして玄関の引き戸が開き、中から50歳過ぎの女性が出て来た。



「はい、どちらさ・・・はっ、哲平!」
「ただいま、母さん。」



そう、ここは志真の実家だったのだ。
何年振りの息子の帰宅に志真の母・恵は驚きの表情を見せる。



「まぁ哲平、帰るなら連絡の一つくらいくれてもよかったのに・・・」
「ちょっとお袋を驚かせようと思って。そういや、親父いる?」
「永次さんなら出掛けてるけど・・・とりあえず、中に入りなさい。」
「うん。」



恵に連れられ、家に入った志真は深い懐かしさを感じつつ、居間に案内された。
数年前、お菓子を片手にくつろぎながらテレビを見ていた居間は昔と全く変わっておらず、志真の記憶の時間を巻き戻す。



「ほんと、全然変わってないや・・・」
「哲平が家を出てから、この家も寂しくなったのよ・・・」
「ごめん。あの時の俺、どうしても夢を叶えたい気持ちで一杯で・・・」
「ほんと哲平は小さい頃から正義のヒーローが大好きだったわねぇ・・・」
「思えば、それが今の俺に繋がったって感じが・・・」



すると勢い良く玄関の扉が開く音が家に響き、誰かが入って来た。
それと同時に皺渇れた男の声が・・・志真が嫌と言う程に聞き覚えのある声が、聞こえてくる。



「帰ったぞ・・・」



そう、志真の父親・永次だ。
恵は立ち上がり、すぐ玄関の永次を迎えに行く。
しかし志真は後を着いて行かず、複雑な表情のまま居間に留まっていた。



「お帰りなさい、今日は早かったわね。」
「ああ。特別何もなかったし、帰って来た。」
「あっ、そうそう!今、哲平が帰って来てるのよ!」
「哲平が・・・?」



よく玄関の靴置き場を見てみると、見慣れない靴が置いてあったのが永次には分かった。



――この必ず青が入ってる靴の趣向、間違い無い・・・



「哲平は居間にいるわ。あの子ったらきっと、久しぶりに永次さんに会うから恥ずかしいのね。」
「・・・だったらいいけどな。」



永次は靴を脱ぎ、ポケットから煙草とライターを取り出して煙草を吹かす。
そして志真のいる居間へ歩いて行き、ガラスの引き戸を引いた。



「・・・」



永次が開いた戸の先にいたのは、幾年振りに再会する息子の姿であった。



「・・・親父。」






その頃、町の外れでは植物が活動を再開していた。
多数の蔦を動かし、空中のむささびに攻撃を仕掛ける。



「くっ・・・!」



瞬は動転しながらもむささびを巧みにコントロールし、蔦をかわして行く。
なおも植物は不気味な程静かに蔦を振り回すが、その全ての攻撃を回避する。
しかし、瞬は気付いていた。
むささびの反応速度がこれまでに比べ、明らかに遅くなっている事に。



――やはり、まだ完全に修復が完了していないからか・・・!



だが、このまま蔦の餌食になる気もない瞬は蔦をかわしながら攻撃の機会を狙う。
むささびを一気に後退させて蔦の範囲から逃れると、そこからショットガンで植物を狙い撃った。
弾は植物の核には当たらなかったが、その周囲に当てた事によって一時的に蔦の勢いを抑止する事が出来た。



「俺はもう・・・昔の俺じゃない!」



瞬は植物の核に狙いを定めると、すかさずミサイルを発射した。
ミサイルは上手く蔦をすり抜け、爆発を起こす。
その中で瞬は走馬灯が駆けるかの如く、昔の事を思い出していた。
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