ゴジラ7‐来襲・宇宙超怪獣‐
翌日、世界中に散らばっていたギドラ一族はその姿を消した。
ひとまず世界に平和が戻ったが、キングギドラの行方は未だ分からず仕舞いだった。
誰もが戦況の一変に恐れをなして逃げ出したと思ったが、異変は人々の知らぬ内にまだ続いていた。
『あれ?』
アルゼンチン・ブレノスアイレス。
日本の裏側に近いここで、天体を眺めていた青年はある異変に気付いた。
『月が・・・大きくなってる?』
同様に異変は「水の都」、イタリア・ベネチアでも囁かれていた。
『おかしいな・・・今日は満潮で水位が上がる筈なのに、昨日と変わってない気が・・・』
この異変に気付いた人々は続々と天文台に質問を投げ掛け、それにより異変の正体に気付くに至った。
『何と言う事だ・・・月が公転を止めている!』
『それだけじゃない・・・地球へ、接近しているぞ!』
そう、何十億年と地球の側を周り続けていた月が、動きを止めたのだ。
月が僅かに静止する事自体は何十年に一回はあるが、今回は完全に公転を止めており、その影響で潮汐が起こらないだけでは無く、地球の引力に引かれて地球へと接近してしまっていた。
このまま行けばどうなるか、天文学者が導き出した答え・・・それは地球への衝突、第二次氷河期の訪れ、そして推進力を失った地球の、月と同じ末路。
まさに、太陽への衝突だ。
『それで、ギドラ一族はどうなったと思うかね?』
「帝王・女王は駆逐されたと聞きましたが、恐らくまだ残党がいるでしょう。確実に王・・・キングギドラは諦めていないと思いますし。」
『やはり・・・全く、宇宙怪獣と言うのは執念深過ぎる生き物だ。』
「あと月の異変ですが、私の友人は『メテオ』と似た事が起こっていると言っていました。」
『メテオ?それは一体どういう事かね?』
「・・・月の引力が、破壊されているんです。」
『な、何だと!?』
「正しくは月の引力に蓋をしていると言った感じでしょう。引力は天体の質量が変わらない限り、際限無く一定に働くものらしいですし。つまり何物かが月の引力に干渉し、地球へ向かわせている、と。」
『引力をも操るとは・・・はっ、まさか!』
「そのまさかです。そんな事が出来るのは、重力異常を起こせるキングギドラぐらいでしょう。」
『・・・何と言う事だ・・・』
「諦めないで下さい。その為に今貴方と話しているんです、マルコ大使。」
『それはどういう事だね、ミスター志真。』
「月を元に戻すには、引力に干渉している根源・キングギドラを絶たなければいけません。しかしキングギドラに到底人類は及ばない。そこで同じ怪獣に倒してもらうんです。そう、ゴジラに。」
『ゴ、ゴジラに!?空すら飛べないあの怪獣に、どうやって!?』
「実は今、NASAで反重力の研究が進んでいるとの情報を掴みました。反重力は応用次第では質量は関係なかった筈です。そこでゴジラに何か巨大なカプセルに入ってもらい、反重力で月へ打ち上げるんです。この状況だ、NASAも協力してくれるでしょう。」
『これまたスケールの大きすぎる話だ・・・分かった、私も尽力してみよう。』
「ありがとうございます!では明日中にもゴジラをアメリカに向かわせますので、そちらは私と。」
『了解・・・って、君はどうやってゴジラを!?』
「『怪獣取材の専門家』です、任せて下さい。ではでは。」
志真はマルコとの電話を切ると、海岸線の後ろに振り向く。
そこには遥の姿もあった。
「志真さん、電話は終わりましたか?」
「ああ、終わったよ。説得してくれるってさ。」
「本当ですか!」
「マルコ大使とは一回話してるし、大丈夫。じゃあそろそろ俺達も行こうか。」
「えっ、返事は待たないのですか?」
「こうしてる間にも月が迫って来てるんだ。天文台の計算じゃあと一週間すると地球の重力圏に完全に捕まるみたいだし、もたもたしてられない。」
「そうですね・・・問題はNASAの人達が受け入れてくれるかどうか・・・」
「例え拒否されても、受け入れてくれるまで居座ってやるさ。こんな時にまで出し惜しみするなんて、非協力的過ぎる。」
「そうですね。私も、最後まで付き合いますよ。」
「本当にありがとう!よし、行こう。」
志真と遥は海岸を降り、砂浜で海の向こうを見つめるゴジラの元に向かった。
その後ろにはモスラも待機している。
「ゴジラ、多分返事は決まってると思うけど、俺に着いて来てくれるか?」
既に志真から宇宙行きの話を持ちかけられていたゴジラは、キングギドラからチャイルドを取り戻したい一心から深く頷いた。
それを見た志真は満足気な顔を浮かべるとゴジラの掌に乗り、ゴジラと共に海へ出ていった。
「モスラ、これからすごく遠い道のりだけど、お願いするね。」
モスラも遥の頼みを快く受け入れ、遥を頭上に乗せてゴジラの後を追った。