ゴジラ7‐来襲・宇宙超怪獣‐







その頃、志真は局長室の前に来ていた。
局長室は複数の扉で塞がっていたが、志真は先程受け取った認定証を取り出すと、扉の横のカードリーダーに通す。
すると扉が鈍い音を立てて順序良く開いていき、中に入れるようになった。



「やっぱ厳重だな・・・よし、入るか。」



中に入ると、そこはとても無機質な部屋だった。
広い部屋の奥には局内の映像が映った数十台ものテレビが並び、そばにあるのもほとんどが撮影機材だ。
そして部屋の中央の椅子には誰かが座っている。



「お待たせしました、日東新聞の・・・」
「『志真哲平』。違うかね?」
「いえ、正解です。」
「約束の時間に11分25秒遅刻じゃないか。まぁ、その間に君の事は調べさせてもらった。」



と、突然後ろに向いていた椅子が振り返り、志真の前に現れたのはとてもひょうきんな顔をした初老の男だった。



「私こそがジャバンテレビ局長、井過だよ。」
「は、はぁ・・・」
「確か、『怪獣取材の専門家』とか言われているようだねぇ?」
「そうですが・・・」
「君も変わり者だなぁ。わざわざ危険に身を投じるなんて、無謀なのか勇敢なのか・・・」
「あ、あの、ある用事があってここに・・・」
「いいから話を聞きなさい。若さ故に行動するのも分かる。私も昔はよく近所にあった立ち入り禁止の所に・・・」





それから井過の話は数十分続き、志真は途中で話を切り出そうとするも、この調子であった。



――ああ~、もう!無駄話してる場合じゃないのに・・・!


「それで、何の用事かな?」
「ふう・・・井過局長、今日は取材では無く、大切な頼み事があってここに来ました。これを見て下さい。」



志真はリュックから封筒を取り出し、井過に渡した。
キングギドラの真実、N波の説明、ギドラ一族の弱点を突いた作戦について書かれた物だ。



「もう少し言いかったのにな・・・んっ、ギドラ一族とキングギドラのやつは関してはもう今日の朝やったろう?」
「いえ、私が頼みたいのはこの続きです。」
「ふぅん。これの続きを・・・え、えぇ~っ!!ここで!?」
「はい。日本のテレビ局からの放送を合図に作戦を実行すると言っていたと思いますが、その為にここを貸して頂けませんか?」
「駄目だよ駄目だよ!そんな事、欠片も聞いてないって!」
「この事を伝えたらアポイントを取りつけてもらえないかと思いまして、伏せました。」
「うっそ・・・」
「もう少しで時間です。もっとじっくり話をしたかったですが、先程の話が・・・」
「とにかく、私はこんな事聞いてない!勝手にされちゃあ困るよ!」



そう言うと井過は局長室から出ようとしたが、それを志真が止める。



「待って下さい!お願いします!」
「駄目だったら駄目だ!私は認めんぞ!」
「この事を告げずに来たのは謝ります!しかし、これは一刻を争う問題でして・・・」
「一刻を争う問題!?そんなの関係無いよ!」
「この世界の、地球の問題ですよ!」
「とにかくダメなのは・・・い、今なんと?」
「この世界の、地球の問題だと・・・」
「・・・もしかしてここ、有名になる?」
「えっ?」
「有名になっちゃったりする!?」
「お、恐らくは・・・」



すると、今まで浮かない顔をしていた井過が突如目が輝かせ、志真に猛然と迫った。
つい志真は後ろに引き、壁際に追い詰められる。



「いろんな人が見てくれるよね?」
「そうですね・・・」
「取材とか、たくさん来るよね?」
「はい・・・」
「と、言うか取材に来てくれるよね?」
「ぜ、是非・・・」
「何だ、それを早く言いたまえ!・・・なら全然OKだよ!」



井過はそう言うと態度を豹変させ、志真の肩を両手で力強く叩いた。
あまりに突然の行動に志真は困惑しつつも、井過に質問を投げ掛ける。



「あの・・・どうして急に協力しようと?」
「気が変わったのだよ、気が!!あっはっはぁ!!」
「そ、そうですか・・・」


――完全に目の色が変わってる・・・
こりゃ多分、この局の宣伝になるとか考えたな・・・


「あ、ありがとうございます。では時間も迫っていますので、そろそろ何処かのスタジオに案内してもらえますか?」
「もちろん!さっ、私に着いて来てくれぃ!」



すると井過は志真の手を引っ張り、上機嫌のまま部屋を出た。
転げそうになりながらも志真は必死に井過のペースに合わせるが、井過はそれもお構い無しと言わんばかりに階段を降り、局員を押し割って廊下を走る。
そして辿り着いたのは、「特設」と書かれた巨大なスタジオだった。
中には大量の撮影機材があり、その広さはコンサートが出来そうな程だ。



「おお・・・これは本当に大きいですね・・・」
「我がジャバンテレビ自慢の特設スタジオだ!普通のスタジオの約2倍はあるぞ!」
「に、2倍!?私はもっと小さくても構わないですよ?」
「歴史的な出来事がここで起こるのだから、ここで申し分ない!世界の人々が見るんだ、ビッグにいかなければ!」
「は、はぁ・・・」
「確か正午きっかりだったかな?さっ、しっかり頼むぞ!」



相変わらずの上機嫌さのまま、井過は志真の背を強く押した。
これまたいきなりの衝撃につい志真はふらつき、スタジオの中央で何とか体勢を立て直す。
と、同時にスタジオ天井のスポットライトが一斉に志真を照らし出し、薄暗かった視界が一気に明るくなった。



「うっ・・・」



眩しい光に目を塞ぎつつ、志真は少し目を開いて右手の時計で時間を確認する。
時計の針は11時58分を差していた。



――・・・俺には瞬みたいな自衛隊員としての腕も、遥ちゃんみたいな「愛」の力も無い。
でも、俺にだって出来る事が・・・俺だから出来る事が、絶対ある筈なんだ。
そうだ、今がその時だ・・・!



「・・・よし、完了!志真君、指定された所にばっちり接続出来たぞ!」
「ありがとうございまーす!」



井過が接続した場所とはロシアの某所にある小さなスタジオであり、そこにある特殊な装置を介して全世界のテレビにジャバンテレビ特設スタジオでの内容が映る様になっていた。
志真は再び時計に目をやると、もう59分だ。



――ここが締め所だ、しっかりやるぞ・・・!



志真は両手で顔の頬を叩き、気を引き締める。
そしてその瞬間、時計の長針と短針が上に重なり、正午を差した。
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