ゴジラ6‐大魔獣日本襲撃‐
一方、日本北アルプスの異名をもつ飛彈山脈・朝日岳の山肌を歩く赤茶色の影があった。
野生の動物や小鳥達が急いで逃げ惑う中、影はさも全く気にしていない様に悠然と山を進む。
グウィウウウウウン・・・
大地を揺らすその咆吼、バランだ。
ここへ来て半年、腹の傷痕は心の変化を表す様に消えている。
と、その時バランが突如歩みを止め、辺りを見渡し始めた。
『・・・ラン!』
耳を澄まさないと聞こえない程微かだが、バランは誰か懐かしい声が自分を呼んでいると分かった。
『バ・・・ン!バラン!』
今度こそはっきりと聞こえたその声は、バランの足元から聞こえてきた。
下を向いたバランの瞳に見えたのは声の主である少女、遥だった。
『お久しぶりね。元気そうでよかった。』
親しそうに話し掛けてくる遥だが、バランもまた違和感を感じている様子だ。
『あっ、この姿・・・実はここにいるのは私の意思だけで、身体はずっと遠くにあるの。』
それを確かめる様にバランは一本の大きな指を遥へ向ける。
しかし指は感触を感じないまま、遥の虚像を貫通した。
『でしょ。それで私、貴方に話があって来たの。バラン・・・この国を、みんなを守る為に、貴方の力を私達に貸して。』
その言葉を聞いた瞬間、遥はバランの眼光が鋭くなったのが分かった。
だが遥は話を続ける。
『貴方も知ってるはず、強大な魔獣達がこの国で目覚めた事を。魔獣達は今も各地で破壊を繰り返し、たくさんの命を奪っているわ。私達はこれ以上、悲しみを増やしたくない・・・だから貴方にも、ここへ来て欲しいの。』
そう言うと遥はペンダントを握り閉め、バランの頭に怪獣達の集合場所である関ヶ原のビジョンを見せた・・・が、やはりバランが頭を縦に振る事は無かった。
『貴方の気持ちも分かるわ。いきなり人間の事を信用するなんてとても出来ない、この頼みが人間を助ける不本意な事なのも・・・でも今は、私達の言葉だけでも信じて。貴方の事を必要とする存在は、必ずいるのだから・・・』
そう言い残して遥の虚像は消え、と同時にバランの眼光も元に戻る。
グァヴウウウ・・・
再び山の奥地へ戻ろうとしたバランだったが、彼の頭を遥の優しい言葉がよぎる。
――・・・貴方を必要とする存在は、必ずいるのだから・・・
グウィウウウウウン・・・
バランは二本の足で凛々しく立ち上がり、天高く唸りを上げた。
そしてバランは歩む方向を変えると、山を降り始めた。
バランが向かう先は、関ヶ原だ。