ゴジラ5‐バランの復讐‐
その頃、志真は東京・あきる野の日東新聞本社で別の記事を書いていた。
ゴジラの消息を見失い、書くと言っていた52年前の真実も書けずじまいだった志真は責任を感じ、自らデスクに懇願したのだ。
だがその様子は誰が見てもいつもの志真とは違い、明らかに落胆しているのが分かった。
志真は例え記事を書けなくても、決して落胆する事の無かった男であったからだ。
その分、仲間は違和感を感じれずにはいれず、遠慮するかの様に早々と記事を切り上げ帰って行った。
なので今、部屋には志真しかいない。
「えっと、確かこれに関してはこうで・・・」
志真もまた、記事に集中できないでいた。
1人になる事にはとっくに慣れているのに、何故か文章が浮かばない。
苛立ちだけが頭に募る。
「くっそ、こんな時に何で、何で文章が頭に浮かばないんだよ・・・!」
「それは、別に気になる事があるからじゃないのか?」
そこに缶コーヒーを2つ、手に持ってデスクがやって来た。
「何だ、デスクですか・・・」
「何だとは何だ。折角お前にもコーヒーを持って来てやったのに。」
「俺、ブラックはあんまり・・・」
「まぁそうつまらん事を言わずに飲め。積もる話もあるしな。」
「じゃあ、頂きます・・・」
デスクは志真に缶コーヒーを渡すと、隣の机の椅子に腰掛けた。
そして2人は同時に缶コーヒーの栓を空ける。
――絶対、今日は雪が降るな・・・にがっ。
「それで、話って何ですか?」
「志真、何故お前は日東新聞本社がこのあきる野にあるのか、考えた事はあるか。」
「さぁ・・・考えた事ありませんし・・・」
「そうだろうな。だがそんな誰しもが考えてすらいない、見落としてしまう様な事が、逆に深い考えがあっての事だとしたら・・・?」
「考え?」
「この日本は昔から、奇妙な出来事が起こって来た国だ。怪獣の襲来もその一つだろう。他国からの怪獣の出現は数える位しか報告されていないのに、日本だけは相変わらず出現報告が後を断たない。」
「確かに。」
「だが、今までの人々は怪獣の事を絵空事と笑い、バランと言う形で現れるまで信じようともしなかった。現実にありえない事なんか信じない、そう心の奥で考えているからな・・・だがそんなありえない、絵空事な想定さえ考えていた人物が一人いた。日東新聞設立者であり現在の会長、新道問吉だ。」
「か、会長が?」
「会長がこのあきる野に本社を建てたのは、自分の故郷だったからだけでは無い。いつか起こりうる怪獣の襲来を予想したから、だ。」
「えっ?」
「会長は52年前、東京でバランをその目で見たらしい。その時から近い未来、再びこんな事が起こる事を想定していたんだろう。もし会社を東京の中心部になんて構えたら、怪獣が来た時に困るだろう・・・とな。だからこの本社もあきる野の端にあるわけだ。」
「そ、そんな・・・」
「何だ?お前は怪獣の存在は信じられて、1人の人間の考えが信じられないのか?」
「そうじゃないですけど・・・何だかここまでありえない事が続くと、逆にどんな事でも信じられてきます・・・」
「別にいい。考えられない以前に会長はこの俺、日下喜充以外にこの事は教えていない。」
「じゃあこれ、軽い企業機密レベルの事実じゃないですか。なんでそんな事を俺に・・・」
「・・・わからんか。こんな重要な事を、半人前の奴になぞ教えん。」
「・・・え?」
「・・・・・・一人前になったな、志真哲平。」
その時、志真の涙腺が決壊した。
どんな事があっても滅多に涙を見せる事の無かった彼の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
志真は思わず缶を机に置き、うつ向きながら急いで顔を塞ぐ。
「どうしたどうした、男が泣くな。」
「うぅっ・・・!!だってあの・・・鬼みたいなデスクが、俺の事・・・一人前って・・・言ってくれたんですよ・・・!これで泣くな、っていう方が無理ですって・・・!!」
「顔を上げろ。まだ話は終わっていないんだ。」
「は・・・はい・・・」
「さぁ志真。涙している暇はないぞ。お前にはまた別の記事を書いて貰わなければならない。」
「別の記事・・・?」
「これだ。」
そう言うとデスク・・・日下はポケットから二つ折りにした一枚のメモ用紙を取りだし、志真に渡した。
志真は少しくしゃくしゃなその紙を開くと、その紙には「ゴジラの行方」とだけ書いてあった。
「これは・・・」
「どうしても気になるんだろう。納得するまでやってこい。」
「デスク・・・ありがとうございます!」
志真はコーヒーを一気に飲み干し、日下に深々と頭を下げると、部屋を出ていった。
日下は志真が置いていった空の缶を見る。
――志真、迷うお前などお前らしくない。
躊躇わず、怖れず、ただただ真っ直ぐ目指す真実へと突き進め。
それが・・・それこそが、お前と言う男の 最大の強さなんだ・・・