ゴジラ5‐バランの復讐‐




「だが、それだけでは無いぞ。」



そこへ、ずっと入口で沈黙していた黒沼博士が会話に入って来た。



「博士?今までどこに?」
「少しばかり、志真君の様子を伺わせて貰った。君になら、この事を話せそうだ。」
「黒さん、この記者の人と知り合いで?」
「いや、昨日私が取材を申し出ていてね。ここ数年間、怪獣の事を取材し続けている志真君だからこそ、信用できると確信したんだ。」
「いやぁ、恐縮です・・・」



黒沼博士の言葉に、つい照れ隠しの癖で頭を掻く志真。



「ところで志真君、バランについて話を戻すが、58年にバランは東京へ来た後、2年前に復活した時も東京を狙った。何故だと思う?」
「えっと・・・バランにとって東京が邪魔だからではないですか?」
「半分正解だ。確かにバランにとって東京は邪魔な存在。ならば何故、邪魔なのかね?」
「えっと・・・単に目の前にあったから・・・では?」
「・・・バランにとって東京は、自分の故郷へ帰る為の壁・・・『障害』だからだ。元々バランは破壊など望んではいない。自分の故郷、北上川へ帰りたかっただけだ。」
「・・・」
「それを当時の自衛隊は、自分達の都合で邪魔してしまった。彼は自分の故郷を見る事も無く、東京湾にその身を沈めたのだ。」


――・・・俺はずっと、バランを街を破壊する悪い怪獣だと思ってた。
でも違う、本当に悪いのは俺達人間だったんだ・・・!


「あともう一つ、政府は発表していないが先日謎の壊滅を遂げた自衛隊の部隊から回収された通信機の中に、バランの咆吼と思われる音声が混ざり込んでいたらしい。」
「と、言う事は部隊を壊滅させたのは・・・」
「・・・ご名答。」
「・・・待って下さい、と言う事は、バランはまだあの近辺に!」
「間違い無い。2度に渡って帰郷を邪魔されている以上、その憎しみは相当な物だろう。もちろん今のバランは人間にも、ゴジラにも容赦しない。」
「ゴジラ・・・」
「いや、今はむしろゴジラへの憎悪の方が大きいかもしれない。自分を再び東京湾に沈めたゴジラを、バランは決して許さないだろう・・・」
「『バランの復讐』ですな、黒さん。」
「またバランは大地の力を蓄え、進化する特異な能力があるようだ。身体の巨大化はそれによるものだろうし、2年前の上陸の際も58年には見掛けなかった技を使っていた。恐らく2年前のバランは怨念や憎悪の感情を糧にして蘇り、今回は更に復讐心までも・・・」
「・・・黒さん、力説の所を本当に申し訳無いですが、わしはもうそろそろおいとまします。」
「久しぶりに源さんと話せて楽しかったよ。また話そう。」
「あの、私が源さんを送って行きましょうか?」
「それは有難い。志真さん、頼みましたよ。では・・・」
「博士、本日はありがとうございました。ではでは、失礼致します・・・」



志真と源は軽く会釈し、部屋から出ていった。



「・・・胸騒ぎがするな・・・」



黒沼博士もまた部屋を出て館長室に戻り、大きな窓から夕日を眺めた。



――偉大なる我が師、杉本博士。
貴方はこれを、どう思いますか・・・?
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