ある日のインファント島






ここは守護怪獣・モスラが住む島であるインファント島。
島の内部の広場では常にモスラが駐在しているが、何故か今日はその姿が無く、小美人が広場の中央で座っているだけだった。



『モスラ、今は島の周りで遊んでいるわね。』
『不穏な気配は感じないし、大丈夫よ。』



カクィオオオオウン・・・



そう、モスラは時折広場を出ては島の近海を飛び回り、退屈を紛らわしているのだ。
もちろん自分の存在が人間に知られない様に擬態は施してはいるが、海を飛んでいるとイルカや鯨などの群れと遭遇する事があり、その時はついつい擬態を解いて群れに着いて行ってしまう。
そうしてしばらく群れと行動を共にした後、自分が何処か訳の分からない所に着た事に気付いて群れから離れ、再度擬態して再びインファント島に戻って行く、と言うのが大抵のパターンである。
幸いにもこの辺りはまだ人目の付きにくい所である為、擬態を解いてもモスラの事が知られる事はほぼ無く、小美人もこの暇潰しに関しては特に気にしてはいなかった。
だが、それでも小美人がモスラの気配を察し続けているのは、ある理由があった。





ある日、モスラはいつもの様に広場にいたが、ふと傍にいた小美人にテレパシーで話し掛けた。



『どうしたの、モスラ?・・・えっ、日本へ行きたい?』
『でも特別怪獣が現れたわけじゃ・・・』



カクィオオオオウン・・・



『『・・・まさか!』』



小美人は気付いた。
モスラは暇潰しの為だけに日本の遥へ会いに行こうとしている事に。



『駄目よ。貴方はこの島の守護神、貴方が留守にしている間にこの島が危機になったら一体どうするの。』
『それに多くの人に付きやすいのに、そう安々と日本まで行くものではないわ。』



クィィィィン・・・



気の抜けた鳴き声と共に頭を下げ、分かりやすく落胆するモスラ。
しかしながら、これも島の安全を考えた小美人の判断である。



『分かって頂戴。この島の為なの。』
『私達がいるから・・・ねっ?』



退屈そうに空を見上げつつ、モスラは島に留まる事にした。





またある日、島のジャングルの上をモスラが飛んでいた。
海へ行かない、もしくは行けない時はこうしてジャングルを飛び回って暇を潰しているが、やはりあまり代わり映えの無い景色であり、人間からしてみれば広くてもモスラにとっては若干狭い。
とりあえずモスラは広場に戻ったが、いつも広場にいる筈の小美人がいなかった。





『綺麗ね・・・』



当の小美人はと言うと、広場の近くにある池にいた。
この池は非常に見付かりにくい所にあるが、池のほとりには様々な花が咲き、池自体も透明度の高いとても美しい場所であり、小美人はモスラが近海へ暇潰しに行く頻度でここを訪れる。



『この花も、随分大きくなったわ・・・』
『変わる事も大切だけど、変わらない方がいい事もあるわね。』
『ええ。』



と、そこにモスラが広場に帰って来た合図の風音がした。



『あっ、モスラが帰って来たわ。』
『そろそろ帰りましょうか。』



小美人は池を去り、広場へと帰って行った。





またまたある日、モスラが広場を飛び立った。
無論怪獣が現れた訳では無く、暇潰しの為に近海へ行くだけだ。



『『行ってらっしゃーい・・・』』
『・・・さて、モスラも行った事ですし、私達もあそこへ行きましょ。』
『そうね。』



同じく小美人も広場を去った頃、モスラは近海を飛んでいた。
しかし今日はイルカの群れが泳いでおらず、モスラは退屈そうだ。



カクィオオオオウン・・・



すると突然モスラは一旦海の上で動きを止めると、触覚を上下に動かして何かを探る。
しばらく触覚を動かした後、何かを把握したモスラは遠い海の向こうを見つめ、ある決心をした。





そんな事も知らず、小美人はあの池でくつろいでいた。
岩の上に乗り、目を閉じて聞き慣れない単語の歌を歌っている。



『『・・・はっ!』』



と、その時小美人は突如目を開けて辺りを見渡した。
彼女達の中で、何かが消えた様な感覚を覚えたのだ。



『感じた・・・?』
『ええ。モスラの気配が消えた・・・!』



小美人は岩から降り、急いで広場に戻る。
広場は聖なる力が行き届いた所謂「パワースポット」の様な場所であり、ここにいた方がより力を出しやすいのだ。



『・・・だめ、もう感じない・・・』
『まさか、また勝手に日本へ行ったんじゃ・・・』
『『・・・もう!』』






クィキウィィン・・・



小美人が常にモスラの気配を察している理由、それはこうして勝手に島を抜け出してしまう事があるからだ。
これまでに数回抜け駆けは起こったが、最初の一回以降は全て小美人が歌を歌う事によって呼び戻して来た。
しかしながら今回は小美人が広場でなく池にいたのでモスラが抜け駆けをした事に気付けず・・・いや、気付かれない様にした為に呼び戻す事すら出来なかった。
こうして「フェアリー」体になって誰にも気付かれないまま、モスラは日本にいる遥の元に向かったのだった。






「・・・うーん、『Sr』って何の元素記号だったっけ・・・?」



だが、相手側にも常に時間があるわけではなく、むしろ忙しい時間の方が多い人間にとって、昼過ぎはとても時間が空いているものではなかった。
案の上学生の身分である遥は勉強の最中であり、その様子を見ている事しか出来ないモスラは自分が来たタイミングがあまりにも悪い事に気付き、渋々インファント島へ撤収して行った。
もちろん帰った後、小美人から外出禁止令が出たのは言うまでもない。






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