CHAOS!
ある日の夜、瞬は自衛隊宿舎の自室にて雑誌を読んでいた。
雑誌の表紙には「月刊マニュアックス」と書かれており、背景には未確認生物・UMAと思われる奇妙な生物が描かれている。
「・・・」
瞬が読んでいるページには『スカイフィッシュは実在するか?』と書かれており、前述の生物が写り込んだと思われる幾つかの写真と文章が載せてあった。
更にページを捲ると『グレイタイプについての考察』、『イエティを訪ねて三千マイル』、『博士が愛したツチノコ』など所謂「オカルト」的な事を特集する記事ばかりだった。
「・・・下らん。」
暫くして、あらかた全てのページを見た瞬はそう言うと、最後に『激論!丹羽澤VS御尾槻のオカルト大論争! 第30回』と言う記事に目を通し、雑誌を机に置いた。
そしてベッドに入った瞬は部屋の電気を消し、眠りに入る為に目を閉じた。
――しかし・・・西から借りたあの雑誌、よくあんな記事だけで続けられるものだな。
恐らく、西の様な物好き達が支えているのだろうが・・・
・・・そういえば、以前志真と妃羽菜も変な事を言っていたな。
地球を守る為に赤い巨人に変身するだの、ゴジラ達が悠長に日本語で喋っているだの・・・全く、あの2人もまた負けず劣らずのおかしさで・・・いや、妃羽菜は志真の悪影響を受けたに違いないが。
とにかく、このままでは俺までも変になってしまいそうだ・・・
色々と考えている内に、いつの間にか瞬は眠りに付いていた。
翌朝、瞬は自衛隊本部の玄関にて東・西と話をしていた。
今日は特に訓練は無く、隊員達にとっては待ちに待った「休日」とも言える日だ。
「それで瞬殿、昨日貸したあれは読みました?」
「読んだが・・・やはり俺には理解出来ん。お前もよくあんな雑誌を平気で読めるものだな。」
「へへっ、俺は『兵器』を扱ってるんで・・・」
「ばか、全然上手く言っていないぞ!本当にそうですよね、瞬殿。西は下らない事ばかり興味を示しながら、訓練には力を入れず・・・」
「何だと!お前だって昨日、本屋でやけに可愛い女の子が書かれた雑誌を・・・」
「だ、黙れぇぇぇっ!!自分の密かな趣味を言うなぁっ!!それ以上言えば・・・!」
――・・・東も西も、マニアックさはさして変わらないと思うがな・・・
と、その時本部中に警報のサイレンが鳴り、直後にアナウンスが聞こえて来た。
『緊急報告!埼玉県春日部市に、正体不明の巨大生物が出現!本部に駐在する隊員達は至急、出撃の準備をせよ!繰り返す・・・』
「巨大生物・・・つまり・・・」
「怪獣か!?」
「自衛隊を出す以上、間違いあるまい。俺達も早く行くぞ。」
「「了解!」」
瞬達はむささびで出撃する為、早々と倉庫へ向かって行った。
数時間後、むささびは他の部隊に先んじて埼玉県・春日部市に到着した。
だが、そこで瞬達を待ち受けていたのは予想だにしない出来事だった。
「なっ・・・!?」
「「なにっ!?」」
ズゥジャアアアアアアアウン・・・!
彼らが驚いたのもその筈、春日部に現れた怪獣が彼らの目の前で何者かが放った光線により、攻撃されていたからだ。
茶色い重厚な体と太い尾、棘々とした胸に三日月の様な角を頭部に付けたその怪獣は光線を受けて倒れた後、爆発した。
「なっ、何が起こって・・・いるんだ・・・?」
「あのゴツい怪獣を、一発で・・・」
「いや、あの怪獣は少々弱っていた様に見えた。しかし3分前に入った報告に、そんな事は全く言われていなかった・・・つまり、あの怪獣を倒した相手はこの3分の間に怪獣を弱らせ、倒したと言う事だ・・・」
一方、怪獣を倒したその存在は赤色と銀色が混ざった体色をした、まさに「巨人」であった。
巨人の胸に付いた何かは音を立てて赤く点滅しており、巨人は掛け声を発して飛び上がったかと思うと両手を上へ垂直に伸ばし、そのまま飛行しながら空へ消えて行った。
「・・・!?」
「そ・・・空飛んだぜ、あのデカイの!?」
「・・・ひとまず、状況の確認だ・・・」
瞬はむささびを着陸させ、測定機を見て外の空気に異変が無い事を確認すると、東・西と共に外に出た。
春日部の街はある程度破壊されていたが、先程の巨人が怪獣の破壊活動を阻止していたからか、大惨事には至っていない。
「街は最小限の破壊で食い止められているが、あの巨人がしたと考えるべきか・・・」
「怪獣と互角に立ち向かうなんて、すげーっすね・・・」
「ところで瞬殿、この事はどう報告しましょうか・・・?」
「・・・難しいが、とりあえず怪獣が駆逐された事は報告しておこう。お前達は逃げ遅れた人がいないか、確認を頼む。」
「「り、了解。」」
東と西を救援活動に向かわせた瞬はこの件の報告の為、むささびに戻ろうとする。
しかし、そんな瞬に向かって歩み寄る、一つの影があった。
「・・・誰だ!」
「俺だ。」
そこに現れたのは、なんと志真だった。
若干疲れた表情で志真は軽く右腕を回し、その右手には何かが握られている。
「お前か・・・しかし、何故こんな所に?」
「『怪獣取材の専門家』として、怪獣出現の詳細を世に報告する為の取材・・・って言ったら自然か?まぁ、本当は違う理由だけどな。」
「違う理由?」
「これこれ。」
志真は右手を差し出し、握っている「それ」を瞬に見せる。
握られていたのは先端が黒い銀色の見慣れない筒状の物だったが、瞬にはこれに見覚えがあった。
――・・・はっ!
あれは確か、あいつの話に出て来た・・・!
「志真さーん!瞬さーん!」
2人を呼ぶ声と共に現れたのは、「フェアリー」体のモスラを隣に連れ2人に手を振る遥だった。
志真に続いて瞬は何故遥がここにいるのかを疑ったが、すぐに怪獣の出現を一早く察知したモスラが擬態を使い、遥を連れて来たのだと考えた。
が、すぐにまた違う疑惑が瞬の頭をよぎる。
――・・・それにしては、ここへ来るのが早い気がするが・・・?
「よっ、遥ちゃん。モスラ。」
「はい、志真さん。瞬さんとは、元旦の電話以来ですね。」
「あっ・・・あぁ。そうだな。」
「あの時は突然電話してすみません。つい嬉しくなってしまって・・・」
「いや、確かにあの時は驚きはしたが、だからと言って俺はどうと言う気は無い。だから別に気にしなくてもいい。」
『全く、無断でわたくし達の秘密話を夢で聞いてしまうなんて、遥も不粋ですわ。』
「そうなのか・・・って、なっ!?」
普通に聞き流してしまったその声を、瞬は驚愕の声を上げる形で確認する。
上品な女性の声だったが、志真はともかく遥はそんな声質では無い。
しかしながら辺りを見渡しても他の人物がいる気配は無く、第一にこの声はすぐ近くから聞こえて来ていた。
「い、今の声は・・・」
『あら、ご存知ありませんの?遥からお話は聞いたと思いますけれど?』
「妃羽菜から・・・?」
――・・・まさか!
確信を持った瞬が直ぐ様見た者、それは遥の隣を未だ飛ぶモスラだった。
「あれ、瞬ってモスラが『結晶』を使わなくてもテレパシーで意思疎通が出来る様になった事、知らないのか?」
「テ、テレパシー?」
「長い間、私達の世界に来る内に覚えたらしいです。今はそれほどではないんですが、よく私の家にも来ていましたし。」
『そうですわ。小美人がわたくしはインファント島の守護神だからと言う理由で、外出を許してくれませんの。ですけど、わたくしだって退屈にもなりますわ・・・』
「でもまた、黙って島を抜けたら駄目だよ。今日は私も協力するから、小美人さんに謝ってね。」
『わっ、分かりましたわ・・・』
「しかし、モスラもこうして見ると人間みたいだよなぁ。しかもちょっとわがままなお嬢様。」
「ふふっ、そうですね。」
『そっ、そんな事・・・そういえば志真、貴方も何故もう少しだけ待って下さらなかったの?貴方が怪獣を倒してしまったら、わたくしが来た意味がありませんわ。』
「いやぁ、早くやってみたかったと言うか・・・だって、ずっとテレビで見てたヒーローみたいに活躍出来るんだぜ?」
「それに、モスラは最初から観光目的で来たんでしょ?だったら、偶然じゃない?」
『もう、遥までわたくしにそんな事をおっしゃるなんて、酷いですわ。』
違和感も無く話し合う、2人と一体を横目に瞬はただ見ている事だけしか出来ないでいた。
これまで非現実的な事には嫌と言う程遭遇して来たが、眼前で繰り広げられる光景は瞬にはあまりにも非現実過ぎたのだ。
――・・・あのアイテムに、この光景。
これは、夢で見た・・・いや、あの2人が見た夢の内容そのままだ・・・
何故こんな事になっているんだ・・・こんな夢の様な光景が現実になっていいのか・・・
この世は・・・俺は、一体どうなってしまったんだぁーっ!!
「・・・と、言う夢を見てしまった。」
「瞬・・・」
「瞬さん・・・」
所変わって・・・いや、現実の世界にて喫茶店のテーブルで昨日見た夢を志真と遥に語った瞬は、最後にこう言った。
「そうだ・・・お前達が俺に向かって変な事を吹き込んだばかりに・・・俺までもが非現実的な夢を見てしまった・・・!これをどうしてくれるんだ、志真!」
「おっ、俺!?ふ、ふざけんな!お前が勝手に変な夢見ただけだろ!何かそういう本を読んだからじゃ無いのかよ!」
「夢でも謝りましたけど・・・すみません。私が非現実的な初夢を言わなければ・・・」
「いや・・・妃羽菜は志真の悪影響を受けたからなのは分かっている。」
「あっ、悪影響!?俺だけ差別かよ!」
「とにかく、俺に謝罪しろ!このままでは、毎日非現実的な夢を見てしまいかねない!」
「何だよそれ!そんな事で俺達をここへ呼んだの・・・」
瞬には珍しい、支離滅裂な言い掛かりに呆れながらも志真は瞬に反論していたが、ふと何かを思い付いたかの様に黙り込むと、そのまま硬直する。
「しゅ、瞬さん、志真さんだけの責任ではありませんよ。私だって瞬さんに・・・」
「・・・いや、俺が全部悪かった。本当に申し訳ありませんでした。」
遥がフォローに入ろうとする前に志真は何故か瞬に向かって深く頭を下げ、謝罪の言葉をはっきりと言った。
その素直過ぎる様子に遥は勿論、謝罪を要求した瞬自身が驚きを隠せない表情を浮かべる。
「そ・・・そうか、それはいい心掛けだな。」
「いつもの志真さんなら、ここで何か反論する筈ですのに・・・」
「いやぁ、俺だって一応大人だし、悪い事は素直に反省しようと思って。でもな、瞬。」
志真は瞬の事を指差し、少し意地の悪い顔付きをしながら、ある事を瞬に言った。
そしてそれを聞いた瞬は以降、志真に反論する事が出来なくなった。
どうやら、これこそが志真が素直に謝罪した理由の様だ。
「別に感受性の高い人間でも無いお前がそんな夢をいきなり見るって事はさ、つまりお前も『非現実的』な物事が実は案外好きだから、だよな。」
「な、なっ・・・!?」
完
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