闘技場に売られた獣
窓から差し込む朝の光が、乱れたベッドの上で重なる二人の影を照らしていた。
ガルルは静かに身を起こし、軍服の袖に腕を通す。隣では、昨夜の情事の熱を孕んだまま、ヤジュジュが微睡(まどろ)みの中にいた。狼の耳がシーツの擦れる音にピクリと反応し、力なく揺れる。
「……行くのかい、ガルル」
熱に浮かされたような、掠れた声。ヤジュジュは重い瞼を半分だけ開け、軍装を整える兄の背中を、潤んだ瞳で見つめていた。
「ああ。定例の会議がある。……済まないが、ゆっくり休んでおいで」
ガルルは冷徹な軍人の顔に戻り、手際よくベルトを締める。だが、部屋を出ようとしたその時、背後から消え入りそうな呟きが鼓膜を打った。
「……また、ひとりぼっちか……」
それは、甘えというよりも、幼い頃に暗い檻の中で何度も繰り返した、骨の髄まで染み付いた孤独の独白だった。寝ぼけているがゆえの、防衛本能さえ働かない剥き出しの本音。
その一言が、ガルルの足を氷のように縫い止めた。
「…………」
ガルルは無言のまま、手に持っていた帽子をデスクに放り投げた。そして、迷うことなく無線機を手に取る。
『こちらガルル。ヤジュジュ小隊、およびガルル小隊へ伝達。本日は全隊員に対し、緊急の特別休暇を付与する。……繰り返す、特別休暇だ。理由は……軍事的秘匿事項とする。以上』
『えっ!? 閣下、本当っスか!? ありがとうございます!』
受信機から漏れる部下Aの歓喜の声を、ガルルは通信を切ることで遮断した。
「ガルル……? 今、何を……」
状況が飲み込めず、シーツを抱えて上体を起こしたヤジュジュの視界が、突如として暗くなる。
「……会議は中止だ。上層部には後で適当な言い訳を送っておく」
ガルルは再び軍服を脱ぎ捨てると、驚きに目を見開くヤジュジュを、逃がさないと言わぬばかりの力でベッドへと押し戻した。
「え、ええっ!? 仕事はいいのかい? 閣下ともあろう人が、そんな……」
「お前にあんな声を漏らさせておいて、冷静に指揮が執れるほど、私は出来た人間ではない」
ガルルの瞳には、冷徹な少佐の影はなく、ただ一人の男としての、暗く熱い独占欲が渦巻いている。
「ひとりにするなど、二度と言わせない。……今日一日は、私がお前を飼い慣らす時間だ。いいだろう、ヤジュジュ?」
「あ……っ、ガルル……」
耳元で囁かれる至高の低音に、ヤジュジュは再び瞳を潤ませ、観念したように兄の首に腕を回した。
静まり返った部屋の中で、二人の体温が再び溶け合い、甘い時間が朝を塗り潰していった。
ガルルは静かに身を起こし、軍服の袖に腕を通す。隣では、昨夜の情事の熱を孕んだまま、ヤジュジュが微睡(まどろ)みの中にいた。狼の耳がシーツの擦れる音にピクリと反応し、力なく揺れる。
「……行くのかい、ガルル」
熱に浮かされたような、掠れた声。ヤジュジュは重い瞼を半分だけ開け、軍装を整える兄の背中を、潤んだ瞳で見つめていた。
「ああ。定例の会議がある。……済まないが、ゆっくり休んでおいで」
ガルルは冷徹な軍人の顔に戻り、手際よくベルトを締める。だが、部屋を出ようとしたその時、背後から消え入りそうな呟きが鼓膜を打った。
「……また、ひとりぼっちか……」
それは、甘えというよりも、幼い頃に暗い檻の中で何度も繰り返した、骨の髄まで染み付いた孤独の独白だった。寝ぼけているがゆえの、防衛本能さえ働かない剥き出しの本音。
その一言が、ガルルの足を氷のように縫い止めた。
「…………」
ガルルは無言のまま、手に持っていた帽子をデスクに放り投げた。そして、迷うことなく無線機を手に取る。
『こちらガルル。ヤジュジュ小隊、およびガルル小隊へ伝達。本日は全隊員に対し、緊急の特別休暇を付与する。……繰り返す、特別休暇だ。理由は……軍事的秘匿事項とする。以上』
『えっ!? 閣下、本当っスか!? ありがとうございます!』
受信機から漏れる部下Aの歓喜の声を、ガルルは通信を切ることで遮断した。
「ガルル……? 今、何を……」
状況が飲み込めず、シーツを抱えて上体を起こしたヤジュジュの視界が、突如として暗くなる。
「……会議は中止だ。上層部には後で適当な言い訳を送っておく」
ガルルは再び軍服を脱ぎ捨てると、驚きに目を見開くヤジュジュを、逃がさないと言わぬばかりの力でベッドへと押し戻した。
「え、ええっ!? 仕事はいいのかい? 閣下ともあろう人が、そんな……」
「お前にあんな声を漏らさせておいて、冷静に指揮が執れるほど、私は出来た人間ではない」
ガルルの瞳には、冷徹な少佐の影はなく、ただ一人の男としての、暗く熱い独占欲が渦巻いている。
「ひとりにするなど、二度と言わせない。……今日一日は、私がお前を飼い慣らす時間だ。いいだろう、ヤジュジュ?」
「あ……っ、ガルル……」
耳元で囁かれる至高の低音に、ヤジュジュは再び瞳を潤ませ、観念したように兄の首に腕を回した。
静まり返った部屋の中で、二人の体温が再び溶け合い、甘い時間が朝を塗り潰していった。
