闘技場に売られた獣
硝煙と、焼き付いた鉄の臭いが満ちる戦場。
ヤジュジュの脇腹からは、止めどなく鮮血が溢れ出ていた。ハーフとしての強靭な肉体をもってしても、今回の大量出血は致命傷に近かった。視界が急速に狭まり、四肢の感覚が凍りついていく。
極限状態。絶体絶命の淵で、ヤジュジュを見下ろすギロロの目が、ぎらりと据わった。
ギロロは躊躇なく、腰のサバイバルナイフに手を掛ける。
獣の血を引くヤジュジュが、失われた生命力を爆発的に回復させる唯一の手段――それは「血を飲むこと」。ギロロが何をしようとしているのか、ヤジュジュにはすぐに分かった。
「……っ、やめろ、ギロロ……。お前の血を飲むくらいなら、私は死ぬよ……」
掠れた声で、ヤジュジュは全力の拒絶を口にした。大切な弟の命を啜ってまで生き延びるなど、彼のプライドが、そして何より弟への愛が許さない。
だが、ギロロの耳には、そんな兄の言葉なんて初めから聞こえなかったかのようだった。
ギロロは迷いなく、サバイバルナイフの刃を自らの腕へと深く突き立て、一気に横へ引いた。
「が、は……っ!?」
拒む間もなく、ヤジュジュの顎が強い力でこじ開けられる。
視界を覆ったのは、赤く染まったギロロの腕と、そこから容赦なく溢れ、滴り落ちる熱い液体だった。
口内に注ぎ込まれる、ドクドクと波打つ生々しい熱。
心臓の鼓動に合わせてギロロの命が自分の中へと渡り、染み渡っていくのを、ヤジュジュはどこか他人事のように冷ややかに感じていた。拒みたかった。泥水をすする方がまだマシだと呪いたかった。しかし、流れ込む濃厚な生命力は、ヤジュジュの意思を無視して、その衰弱した肉体を急速に叩き起こしていく。
段々と鮮明になっていく意識。五感が鋭敏さを取り戻し、世界が恐ろしいほどの解像度で蘇るのを、拒むこともできずにヤジュジュはただ横たわっていた。
「……っ、は、あぁ……っ! 馬鹿……っ!」
ヤジュジュは口元を血で汚したまま、立ち上がるだけの力を得た体で、ギロロを睨みつけた。激しい怒りと、それ以上の絶望がその声を震わせる。
「自分の職業を、分かっているのかい……!? 腕の使えない狙撃者なんて、ただのゴミだ……! お前は、大事な右腕を……っ!」
ケロン軍最高峰の隠密射手としての未来を、自分のような男のために容易く傷つけた弟。その無鉄砲さが、ヤジュジュには耐え難かった。
しかし、ギロロは滴る血を気にも留めず、不敵に口角を上げた。
「そうだな。……だったら、どうしたらいいんだろうな?」
まるで、兄であるヤジュジュを試すかのような口振りだった。
腕を失った俺を、お前はどうするつもりだ? ――そう問いかけるような、ニヤリとしたり顔のギロロ。
その挑発的な眼差しに、ヤジュジュの奥歯が「きぃ」と、きしむような音を立ててしなった。
ハーフの血が完全に覚醒する。傷口は瞬時に塞がり、目元の子供の線が獰猛に歪んだ。その瞳は闘技場の頂点に君臨した「銀狼」のギラギラとした凶暴な光を宿し、怒りと活力がその身体から爆発的な覇気となって噴出する。
「……兄さん、眩しい」
あまりの圧倒的なオーラに、ギロロは目を細め、誇らしげに呟いた。
「じゃあ、目を瞑っているといい」
ヤジュジュは低く、地を這うような声で告げた。ふさふさとした大きな尻尾が、怒りのままに地面を激しく叩きつける。右腕を負傷した弟を守るため、そして自分のために命を差し出した弟に「ゴミ」などという言葉を二度と吐かせないために。
「次に開けたら――すべてが終わっているから」
光が爆発する。
次の瞬間、戦場に響き渡ったのは、巨大な狼の咆哮と、一瞬にしてすべてを灰燼に帰す、圧倒的な暴力の嵐だった。
ヤジュジュの脇腹からは、止めどなく鮮血が溢れ出ていた。ハーフとしての強靭な肉体をもってしても、今回の大量出血は致命傷に近かった。視界が急速に狭まり、四肢の感覚が凍りついていく。
極限状態。絶体絶命の淵で、ヤジュジュを見下ろすギロロの目が、ぎらりと据わった。
ギロロは躊躇なく、腰のサバイバルナイフに手を掛ける。
獣の血を引くヤジュジュが、失われた生命力を爆発的に回復させる唯一の手段――それは「血を飲むこと」。ギロロが何をしようとしているのか、ヤジュジュにはすぐに分かった。
「……っ、やめろ、ギロロ……。お前の血を飲むくらいなら、私は死ぬよ……」
掠れた声で、ヤジュジュは全力の拒絶を口にした。大切な弟の命を啜ってまで生き延びるなど、彼のプライドが、そして何より弟への愛が許さない。
だが、ギロロの耳には、そんな兄の言葉なんて初めから聞こえなかったかのようだった。
ギロロは迷いなく、サバイバルナイフの刃を自らの腕へと深く突き立て、一気に横へ引いた。
「が、は……っ!?」
拒む間もなく、ヤジュジュの顎が強い力でこじ開けられる。
視界を覆ったのは、赤く染まったギロロの腕と、そこから容赦なく溢れ、滴り落ちる熱い液体だった。
口内に注ぎ込まれる、ドクドクと波打つ生々しい熱。
心臓の鼓動に合わせてギロロの命が自分の中へと渡り、染み渡っていくのを、ヤジュジュはどこか他人事のように冷ややかに感じていた。拒みたかった。泥水をすする方がまだマシだと呪いたかった。しかし、流れ込む濃厚な生命力は、ヤジュジュの意思を無視して、その衰弱した肉体を急速に叩き起こしていく。
段々と鮮明になっていく意識。五感が鋭敏さを取り戻し、世界が恐ろしいほどの解像度で蘇るのを、拒むこともできずにヤジュジュはただ横たわっていた。
「……っ、は、あぁ……っ! 馬鹿……っ!」
ヤジュジュは口元を血で汚したまま、立ち上がるだけの力を得た体で、ギロロを睨みつけた。激しい怒りと、それ以上の絶望がその声を震わせる。
「自分の職業を、分かっているのかい……!? 腕の使えない狙撃者なんて、ただのゴミだ……! お前は、大事な右腕を……っ!」
ケロン軍最高峰の隠密射手としての未来を、自分のような男のために容易く傷つけた弟。その無鉄砲さが、ヤジュジュには耐え難かった。
しかし、ギロロは滴る血を気にも留めず、不敵に口角を上げた。
「そうだな。……だったら、どうしたらいいんだろうな?」
まるで、兄であるヤジュジュを試すかのような口振りだった。
腕を失った俺を、お前はどうするつもりだ? ――そう問いかけるような、ニヤリとしたり顔のギロロ。
その挑発的な眼差しに、ヤジュジュの奥歯が「きぃ」と、きしむような音を立ててしなった。
ハーフの血が完全に覚醒する。傷口は瞬時に塞がり、目元の子供の線が獰猛に歪んだ。その瞳は闘技場の頂点に君臨した「銀狼」のギラギラとした凶暴な光を宿し、怒りと活力がその身体から爆発的な覇気となって噴出する。
「……兄さん、眩しい」
あまりの圧倒的なオーラに、ギロロは目を細め、誇らしげに呟いた。
「じゃあ、目を瞑っているといい」
ヤジュジュは低く、地を這うような声で告げた。ふさふさとした大きな尻尾が、怒りのままに地面を激しく叩きつける。右腕を負傷した弟を守るため、そして自分のために命を差し出した弟に「ゴミ」などという言葉を二度と吐かせないために。
「次に開けたら――すべてが終わっているから」
光が爆発する。
次の瞬間、戦場に響き渡ったのは、巨大な狼の咆哮と、一瞬にしてすべてを灰燼に帰す、圧倒的な暴力の嵐だった。
