闘技場に売られた獣

それは、ある日の夜のことだった。拠点の焚き火を囲みながら、ヤジュジュが深刻な面持ちでギロロに切り出した。

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### 深刻(?)な相談

「ギロロ、聞いてくれるかい? 最近、どうも体の調子がおかしいんだ」

ヤジュジュは胸元をぎゅっと押さえ、狼の耳を不安げに揺らしている。ギロロは愛銃のメンテナンスを止め、鋭い視線を兄に向けた。

「……体の調子だと? どこか負傷したのか、それとも闘技場時代の古傷が痛むのか」

「いや、そうじゃないんだ。……ガルルの声を聞くたびに、心臓の高まりが抑えられなくなるんだよ。あの低くて、深い響きが耳に届くと、胸の奥が騒ぎ出して……。これって、何かの重い病気なのかな?」

真剣そのもののヤジュジュの告白に、ギロロは呆れたように息を吐いた。

「……それはただの、ガルルに対する憧れか、あるいは兄としての情愛が昂ぶっているだけだろう。病気なわけがあるか」

「そうかな……? でも、さっきガルルから通信が入った時なんて、耳の奥まで痺れるような感覚がして、しばらく動けなかったんだよ。あんなにいい声をしているのは、やはり異常事態じゃないだろうか」

### 暴走する自問自答

ヤジュジュは「ううむ」と唸りながら、必死に自分の心拍数を分析し始めた。しかし、そこで彼はふと、目の前の弟の声に意識を向けた。

「……待てよ。今さらだけど、ギロロ。お前の声も……かなりいい響きをしているね」

「なっ……何を突然!」

「ガルルとはまた違う、力強くて、芯の通った、それでいて包み込むような低音だ。……ああ、どうしよう。お前の声を聞いていたら、また心臓が速くなってきた」

ヤジュジュは顔を赤くし、自分の耳を塞ぐように押さえた。その瞳には、恐怖にも似た驚愕が浮かんでいる。

「わかったぞ……! 病気なのは彼らじゃない、私の方だ! 兄弟の声にいちいちドキドキして、心拍数を乱されるなんて。私は……私は、実の兄弟の声に当てられて正気を失う異常者だったんだー!」

「おい、落ち着け兄さん! 飛躍しすぎだ、戻ってこい!」

叫びながらテントの周りをぐるぐると走り回るヤジュジュを、ギロロは止めることもできず、ただただ頭を抱えるしかなかった。

### 兄の失笑

後日。ケロン軍本部に戻ったヤジュジュは、事の顛末を(自己嫌悪に陥りながら)ガルルに報告した。

「……というわけで、ガルル。私は君たちの声に耐性がなさすぎるようだ。しばらくは、筆談でやり取りをした方がいいかもしれない……」

報告書を提出する手すら震わせるヤジュジュ。そのあまりに突飛で、しかし自分たちへの情愛ゆえの「暴走」を聞かされたガルルは――。

「クッ……フフ、ハハハハ!」

「ガ、ガルル……?」

いつも冷徹で隙のないガルルが、堪えきれないといった様子で声を上げて笑い出した。らしくもないその姿に、ヤジュジュは呆気に取られて立ち尽くす。

「済まない、ヤジュジュ。……お前というやつは、昔から本当に、私の想像の斜め上を行く。異常者などと、よくもまあそんな極論に至ったものだ」

ガルルは目元を拭い、まだ笑いの余韻を残したまま、とびきり「いい声」で弟に告げた。

「それほど私の声が好きだと言うなら、今後も遠慮なく聞かせてやろう。……病気だと言うのなら、私が一生かけて、その耳を甘やかしてやる」

「ひゃあぁ……っ! ほら、またそういう声を出すー!」

真っ赤になって耳を塞ぎ、逃げ出すヤジュジュ。その背中を見送りながら、ガルルは上機嫌に、再び静かな笑みをこぼすのだった。
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