闘技場に売られた獣

ケロン軍本部の技術開発局、薄暗い機材の山に囲まれたクルルの自室。
モニターの怪しい光に照らされながら、クルルはいつものようにヘッドホンを弄び、クックックと喉を鳴らしていた。

画面に映し出されているのは、かつてペコポンと呼ばれた星の最新データ、そしてその裏で動いていた「ある暗号通信」の完全なログだった。

「クックック……。流石はヤジュジュ少佐。闘技場上がりの合理主義ってのは、伊達じゃねぇな」

クルルは全てを知っていた。
あの夜、ヴァイパーの一族が完璧な奇襲を仕掛けられたのも、日向家の防衛システムが一切作動しなかったのも、全てはヤジュジュが裏で手引きしていたからだということを。

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### 天才の退屈と「共犯」

実は、ヴァイパーが襲撃してくる数日前の時点で、クルルは自作のセキュリティがヤジュジュによってハッキングされ、データを抜き取られていることに気づいていた。

天才科学者であるクルルの防衛網だ。本気で遮断しようと思えば、ヤジュジュのハッキングを弾くことなど容易かった。あるいは、その事実をギロロやケロロに告げて、罠を張ることもできたはずだ。

だが、クルルはあえてそれをしなかった。キーボードを叩く手を止め、ヤジュジュの侵入をただ「見て見ぬ振り」でスルーしたのだ。

「これ以上、あの生ぬるいペコポン侵略ごっこに付き合ってられるかっての。カレーのスパイスも干からびるっつーの」

クルルにとって、ペコポン防衛のフリを続けるのは退屈の極みだった。
もしここでヤジュジュの計画を邪魔してヴァイパーを退ければ、ケロロ小隊のペコポン滞在期間はさらに何年も延期されることになる。地球人どもとダラダラと馴れ合う日々が続くことこそ、クルルにとっては一番の苦痛だった。

だからこそ、ヤジュジュが「ギロロの手を汚さずに星を終わらせる」という最高にエグい計画を企ててくれた時、クルルは内心で拍手を送っていたのだ。

「サクッと星が片付いて、俺様もペコポンからおさらばできる。利害の一致ってやつだろ? クックック……」

### 壊れた星の特等席で

パチリ、と画面が切り替わり、現在のギロロの目覚ましい戦果データが表示される。
ペコポンを失った怒りと執念で、軍人としての格を上げ続けるギロロ。そして、それを満足そうに隠蔽し、手厚く保護するガルル。

「ギロロ先輩は死ぬほど前線でこき使われて、ガルル中尉は弟の過保護に拍車がかかる。で、その裏で糸を引いてる少佐は、誰の恨みも買わずに『可哀想な被害者』の面して、一番美味しい席に座ってるわけだ。……胸クソ悪いくらい完璧なシナリオじゃねぇの」

クルルは手元のマグカップのコーヒーをすする。

ヤジュジュが時折、軍のデータベースの裏口からペコポンの現在の様子を覗き見ていることも、クルルはとっくに掴んでいる。けれど、それをバラすつもりは毛頭ない。全てがヤジュジュの計算通りに壊れ、そして再構築されたこの歪な現状が、クルルにとっては極上のエンターテインメントだからだ。

「ま、俺を退屈から救ってくれたお礼さ。この秘密は、俺のフォルダの最深部に永久にロックしといてやるよ、ヤジュジュ少佐」

暗い部屋の中に、クルルの不敵な笑い声が響く。
その秘密の共有こそが、この歪んだ軍の片隅で、ヤジュジュの思い描いた「完璧な家族の未来」を絶対に崩させないための、最も強固なプロテクトとなっていた。
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