闘技場に売られた獣
あの穏やかな海洋惑星での休暇を終え、三人は再びケロン軍本部という、冷徹な規律の行き交う日常へと戻っていった。
世間からの評価がどれほど地に落ちようとも、戦士としての本質まで腐る男ではなかった。
ケロロ小隊の解散後、新たな部隊に配属されたギロロは、かつての生ぬるいペコポン生活を完全に叩き出すかのように、猛烈な勢いで数々の過酷な前線任務へと志願していった。
「俺は二度と、大切なものを掠め取られるような失態は犯さん……!」
日向家でのあの敗北の夜の記憶が、ギロロを突き動かす狂おしいほどの執念となっていた。
圧倒的な火力と精密な戦術、そして一切の油断を排除した苛烈な進軍。ギロロの率いる部隊は、次々と未開の惑星の侵略を完遂し、軍のデータベースに華々しい戦果を刻み込んでいった。
かつて「ヴァイパーに横取りされたみっともない小隊の生き残り」と蔑んでいた世論の評価も、今や「地獄から這い上がってきた真の狂犬」として、畏怖を込めて徐々に、確実に上がっているという。
「……ふん。ギロロの奴、ずいぶんと無茶な進軍をしているようだな。今月の戦果報告書も、他を圧倒している」
総司令部の一室で、ガルル中尉は手元の電子端末に映し出されたギロロの戦績ログを眺めながら、満足そうに鼻を鳴らした。
冷徹な軍人としての顔。だが、その背後の扉が静かに開いた瞬間、ガルルの黄金色の瞳はすぐにいつもの過保護な兄のそれへと変わる。
「お疲れ様、ガルル。ギロロの評判、本部でも噂になっているよ。みんな、彼のことを『ケロン軍の誇り』だって称賛している」
入ってきたのは、ヤジュジュだった。
ハーフゆえの遅すぎる成長速度。目元に子供の「線」を残したままのあどけない顔。彼はふさふさとした銀の尻尾を「ゆらり、ゆらり」と穏やかに揺らしながら、ガルルのデスクの横へと滑り込んだ。
「ギロロがまた前線で輝けているのは、お前があの休暇で、ギロロの心を繋ぎ止めてくれたからだ、ヤジュジュ。……だが、少し働きすぎだな。またどこかで、奴の頭を冷やすための休暇をセッティングせねばならん」
「あはは、ガルルは本当に過保護だね。でも、いいんじゃないかな。ギロロが自分のプライドを取り戻して、こうして軍で居場所を作れているのは、とても素敵なことだよ」
ヤジュジュは首を傾げ、目元の線を細めてクスクスと笑った。
ガルルが次の書類に目を移した隙に、ヤジュジュは自身の端末を開き、軍の最深部にある秘匿回線へとアクセスした。
画面に表示されるのは、ヴァイパーの一族が完璧に統治・管理している「元ペコポン」の、冷徹で無駄のない現在の様子。かつて日向家で響いていた賑やかな笑い声も、ケロロたちの怠惰な日常も、そこには一切残っていない。完璧に処理された、ただの『終わった星』だ。
ギロロは今、あの敗北をバネにして、軍人としてこれ以上ないほどの栄誉と強さを手に入れつつある。
自分の手は綺麗なままで、ペコポンへの生ぬるい未練だけを綺麗に削ぎ落とされ、前を向いて歩いている。
そして、そのギロロの背中を、ガルルが絶対的な権力と過保護な愛で守り、ヤジュジュ自身がその全てを後ろから優しくコントロールしている。
(うん、すべて私の計算通りだ。夢の通りにはいかなかったけれど、現実のこの形も、とっても綺麗で居心地がいいよ……)
かつて第十七闘技場の冷たい泥の中で、蹂躙され、痛みを学び、生き残るために構築したヤジュジュの歪んだ合理主義。それが今、このケロン軍本部において、最も甘やかで、最も完璧な『家族の形』を維持するための礎となっていた。
「ねえ、ガルル。ギロロが次の任務から戻ってきたら、今度はあの子の大好きな、特製の肉料理でも作って盛大にお祝いしてあげようね」
「ああ、お前がそう言うなら、最高級の食材を私が手配しておこう」
過保護な兄の言葉に、ヤジュジュは満足そうに目を細めた。
ヤジュジュのふさふさとした銀の尻尾は、愛する弟が手に入れた偽りの栄光と、自分たちが支配する完璧な日常を祝うように、パタパタと、静かに、そしてどこまでも嬉しそうに指揮室の床を叩き続けていた。
世間からの評価がどれほど地に落ちようとも、戦士としての本質まで腐る男ではなかった。
ケロロ小隊の解散後、新たな部隊に配属されたギロロは、かつての生ぬるいペコポン生活を完全に叩き出すかのように、猛烈な勢いで数々の過酷な前線任務へと志願していった。
「俺は二度と、大切なものを掠め取られるような失態は犯さん……!」
日向家でのあの敗北の夜の記憶が、ギロロを突き動かす狂おしいほどの執念となっていた。
圧倒的な火力と精密な戦術、そして一切の油断を排除した苛烈な進軍。ギロロの率いる部隊は、次々と未開の惑星の侵略を完遂し、軍のデータベースに華々しい戦果を刻み込んでいった。
かつて「ヴァイパーに横取りされたみっともない小隊の生き残り」と蔑んでいた世論の評価も、今や「地獄から這い上がってきた真の狂犬」として、畏怖を込めて徐々に、確実に上がっているという。
「……ふん。ギロロの奴、ずいぶんと無茶な進軍をしているようだな。今月の戦果報告書も、他を圧倒している」
総司令部の一室で、ガルル中尉は手元の電子端末に映し出されたギロロの戦績ログを眺めながら、満足そうに鼻を鳴らした。
冷徹な軍人としての顔。だが、その背後の扉が静かに開いた瞬間、ガルルの黄金色の瞳はすぐにいつもの過保護な兄のそれへと変わる。
「お疲れ様、ガルル。ギロロの評判、本部でも噂になっているよ。みんな、彼のことを『ケロン軍の誇り』だって称賛している」
入ってきたのは、ヤジュジュだった。
ハーフゆえの遅すぎる成長速度。目元に子供の「線」を残したままのあどけない顔。彼はふさふさとした銀の尻尾を「ゆらり、ゆらり」と穏やかに揺らしながら、ガルルのデスクの横へと滑り込んだ。
「ギロロがまた前線で輝けているのは、お前があの休暇で、ギロロの心を繋ぎ止めてくれたからだ、ヤジュジュ。……だが、少し働きすぎだな。またどこかで、奴の頭を冷やすための休暇をセッティングせねばならん」
「あはは、ガルルは本当に過保護だね。でも、いいんじゃないかな。ギロロが自分のプライドを取り戻して、こうして軍で居場所を作れているのは、とても素敵なことだよ」
ヤジュジュは首を傾げ、目元の線を細めてクスクスと笑った。
ガルルが次の書類に目を移した隙に、ヤジュジュは自身の端末を開き、軍の最深部にある秘匿回線へとアクセスした。
画面に表示されるのは、ヴァイパーの一族が完璧に統治・管理している「元ペコポン」の、冷徹で無駄のない現在の様子。かつて日向家で響いていた賑やかな笑い声も、ケロロたちの怠惰な日常も、そこには一切残っていない。完璧に処理された、ただの『終わった星』だ。
ギロロは今、あの敗北をバネにして、軍人としてこれ以上ないほどの栄誉と強さを手に入れつつある。
自分の手は綺麗なままで、ペコポンへの生ぬるい未練だけを綺麗に削ぎ落とされ、前を向いて歩いている。
そして、そのギロロの背中を、ガルルが絶対的な権力と過保護な愛で守り、ヤジュジュ自身がその全てを後ろから優しくコントロールしている。
(うん、すべて私の計算通りだ。夢の通りにはいかなかったけれど、現実のこの形も、とっても綺麗で居心地がいいよ……)
かつて第十七闘技場の冷たい泥の中で、蹂躙され、痛みを学び、生き残るために構築したヤジュジュの歪んだ合理主義。それが今、このケロン軍本部において、最も甘やかで、最も完璧な『家族の形』を維持するための礎となっていた。
「ねえ、ガルル。ギロロが次の任務から戻ってきたら、今度はあの子の大好きな、特製の肉料理でも作って盛大にお祝いしてあげようね」
「ああ、お前がそう言うなら、最高級の食材を私が手配しておこう」
過保護な兄の言葉に、ヤジュジュは満足そうに目を細めた。
ヤジュジュのふさふさとした銀の尻尾は、愛する弟が手に入れた偽りの栄光と、自分たちが支配する完璧な日常を祝うように、パタパタと、静かに、そしてどこまでも嬉しそうに指揮室の床を叩き続けていた。
