闘技場に売られた獣

ケロン軍本部への「超長期休暇」の申請が無事に通り、旅立ちの準備を進めるギロロの私室。
段ボール箱が積み上がるその部屋に、自動ドアが開く音と共に、いつもの不敵な笑い声が響いた。

「クックックッ……。ずいぶんと片付いてるじゃねぇの、先輩方」

部屋に入ってきたのはクルルだった。ペコポンを灰色の焦土に変えたあの惨劇の後、ケロロたちが絶望と喪失感に打ちひしがれている中、彼だけはいつもと変わらない、飄々とした態度を崩していなかった。

ギロロが不審そうに眉をひそめる。
「……クルル。貴様、何の用だ。俺たちを責めに来たのなら、ボイスレコーダーの件を思い出すんだな」

「まさか。責めるわけねぇだろ、むしろ逆さ」

クルルはヘッドホンを指先で弄びながら、眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせた。

「ぶっちゃけさ、俺あの生ぬるいペコポン侵略ごっこに、とっくに飽き飽きしてたんだよなぁ。ケロロの趣味に付き合ってダラダラ時間を潰すのも、いい加減限界だったわけ。カレーのスパイスも腐るっての」

クルルはそう言って、クックッと喉を鳴らした。

「だからさ、ヤジュジュ少佐とギロロ先輩が、文字通りサクッと『作戦遂行』してくれて、本当ぉに助かったぜ。あのまま長引いてたら、俺が自分で星ごと爆破してるところだったぜクックック……」

その言葉を部屋の隅で聞いていたヤジュジュは、目元の子供の線を細めて、嬉しそうに狼の耳をピコピコと動かした。

「おや、そう言ってもらえると助かるよ、クルル曹長。お前なら、私たちの合理的なやり方を分かってくれると思っていたよ」

ヤジュジュの背後で、ふさふさとした銀の尻尾が「気が合うね」と語るように、ゆったりと左右に揺れる。

「少佐のあの『じっくり、いたぶるような』侵略データのログ、俺のコレクションの最高傑作になったぜ。ガルル中尉が必死に隠蔽工作の書き換えをしてたのも含めて、極上のエンターテインメントだったクックック……」

「なっ、貴様、ガルルのことまで……!」
ギロロが驚愕するが、クルルはそれを手で制し、手元にあった重厚なアタッシュケースをドン、と机の上に置いた。

「ま、それは置いといてだ。一足早くペコポンを終わらせてくれた優秀な先輩方に、天才科学者の俺様から『餞別』を持ってきてやったのさ」

クルルがケースを開くと、そこにはいくつかの奇妙なデバイスや、見たこともない発光する液体が入ったカプセルが整然と並んでいた。

「これから二人で、誰にも邪魔されない最果ての星で余生を過ごすんだろ? だったらこれが必要になると思ってねぇ」

クルルはケースの中から、手のひらサイズの小さな立方体を取り出した。

「まずはこれ。**『超空間全自動パンケーキメーカー』**。先輩の大好きな生クリームやフルーツの山盛りパンケーキを、材料なしで宇宙の素粒子から無限に生成できる。ヤジュジュ少佐の尻尾がいつでも大喜びで振られる仕様になってるぜ」

「な……っ!?」
ギロロが顔を赤くするのを無視して、クルルは次のデバイスを指差した。

「それからこれ。**『惑星環境擬態シールド』**。二人が住む予定の星の周囲に展開すれば、宇宙警察だろーがケロン軍だろーが、絶対に探知できなくなる優れものだ。これで完全な『二人きりの聖域』が完成する。……あ、それと、これね」

クルルが最後に差し出したのは、禍々しい赤いボタンがついた小さなリモコンだった。

「ヤジュジュ少佐が、たまに『刺激』が欲しくなって星を吹っ飛ばしたくなった時用の、**『安全合法破壊シミュレーター』**。ボタン一つで、無人の死の惑星を周囲の空間ごと木端微塵にできる。軍の任務を待つのがもどかしい時に、いつでも私室でプライベートに星を潰して遊べるぜ。もちろん、本部にアラートはいかない」

「わあ……! なんて気の利く贈り物だろう。ありがとう、クルル曹長。お前は本当に優秀だね」

ヤジュジュは目を輝かせ、嬉しさのあまりクルルの手元へ寄って、ふさふさの尻尾をパタパタと激しく揺らした。

「……ふん、貴様の不届きな発明品が、初めて役に立ったな」
ギロロもぶっきらぼうに吐き捨てながらも、その顔には隠しきれない歓喜が滲んでいた。これで、ヤジュジュを退屈させることなく、かつ、誰にも邪魔されずに永遠に近い時間を過ごすためのピースが、全て揃ったのだ。

「クックック、先輩方が居なくなると静かになって助かるよ。それじゃ、末長くお幸せにな」

クルルはそう言い残し、いつもの不敵な笑い声を響かせながら部屋を去っていった。

残された部屋で、ヤジュジュはさっそくクルルにもらったリモコンを愛おしそうに弄びながら、ギロロの腕にそっと自分の腕を絡ませた。
「ギロロ、早く行こう。私たちの、誰にも汚されない、甘やかで……時々物騒な、最高の余生へ」
「ああ、兄さん。今度こそ、俺たちの時間だ」

ヤジュジュの銀の尻尾は、これから始まる、終わりなき二人だけの楽園を確信して、静かに、そして激しく、喜びの音を刻み続けるのだった。
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