闘技場に売られた獣
薄暗い執務室。任務を終えたばかりのガルルは、軍服の第一ボタンを外し、ソファに深く腰掛けていた。その膝の間には、先ほどの事務作業の続きを強制的に中断させられたヤジュジュが、所在なげに収まっている。
「……ガルル、少し近すぎやしないかい?」
ヤジュジュはたじたじになりながら、背後にいる兄の胸板を押し返そうとする。だが、ガルルはびくともせず、それどころか空いた手でヤジュジュの長い狼耳の付け根を、ゆっくりと、愛おしむように撫で上げた。
「……っ、ぁ……」
予期せぬ場所への刺激に、ヤジュジュの背筋に震えが走る。ガルルの指先は、軍人らしい硬いタコがありながら、驚くほど滑らかにヤジュジュの肌を這った。
「ヤジュジュ。お前はいつも、私の前から逃げようとする」
「……逃げてなんて、いないよ。ただ、貴方といると……どうにも、ペースを乱されるんだ」
ガルルは低く笑い、ヤジュジュの首筋に唇を寄せた。鉄輪が冷たく鳴り、対照的にガルルの吐息が熱く肌を焼く。
「乱されるのは、お前だけではない。……この首輪、外してやろうと言ったら、お前は泣くだろうか。それとも、私の手に噛み付くだろうか」
「……っ、意地悪だね、貴方は」
逃げ場を塞ぐように回されたガルルの腕。大人の余裕と隠しきれない独占欲が混ざり合った視線に射抜かれ、ヤジュジュは真っ赤な顔をして視線を泳がせることしかできなかった。少佐としての威厳は、この兄の前では霧のように霧散してしまうのだ。
