闘技場に売られた獣
日向家の裏庭に広がる、いつもの穏やかな青空。
ケロロはガンプラ作りに熱中し、タママはお菓子を食べ、クルルは自室に引きこもり、ドロロは自然と一体化している。彼らは口にこそ出さないが、もうこの生ぬるいペコポン(地球)という星を、心から愛してしまっていた。侵略作戦など、とっくに形骸化したただの言い訳だった。
しかし、ギロロだけは違った。彼の瞳から、戦士の鋭い光が消えることは一日たりともなかった。
かつては「軍人としての義務」のために侵略を急いでいた。だが、今は違う。
地獄の闘技場から奇跡的に生還し、自分の前に戻ってきてくれた兄――ヤジュジュ。彼の傷だらけの過去を知り、自分たちより遥かに長い寿命という残酷な宿命を聞かされたその日から、ギロロの目的はただ一つに絞られていた。
(ケロロたちのように、この星に甘えてダラダラと時間を無駄にするわけにはいかないんだ。一刻も早くすべてを終わらせて、兄さんと二人、誰にも邪魔されない場所で……今度こそ、ゆっくりと余生を過ごす)
そのための場所は、ケロン星でなくても良かった。宇宙の最果ての名もなき惑星でもいい。ただ、ヤジュジュと二人きりで、戦いも、毒も、檻もない平穏を手に入れること。それがギロロの、狂おしいほどの執念となっていた。
そして、ヤジュジュもまた、その愛しい弟の願いを誰よりも理解していた。
「……いいんだね、ギロロ」
ある日、ペコポンの夕焼けを背景に、ヤジュジュは静かにギロロに問いかけた。目元の子供の線を細め、ふさふさとした銀の尻尾は、これから始まる「惨劇」を前にしてなお、凪いだ海のように落ち着いている。
「ああ。この星に長居しすぎた。これ以上、無駄な時間を過ごすつもりはない」
ギロロが重火器の安全装置を解除する。その表情には、一切の迷いも躊躇もなかった。
「ふふ、分かったよ。お前の望む未来のためなら、私はこの星を喜んで地獄に変えよう」
ヤジュジュが優しく微笑んだ瞬間、彼の身体が眩い光に包まれた。
光の粒子が弾け、煙の中から現れたのは――かつて数々の惑星を絶望に叩き落としてきた、神話の具現たる**巨大なオオカミ**だった。
そこからの光景は、「侵略」という生易しい言葉では形容できない、完全なる「破壊と殺戮」だった。
ケロロ小隊が慌てて止めに入る間さえなかった。
ヤジュジュは巨狼の姿のまま、一吠えでペコポンの最新防衛ネットワークを壊滅させ、戦車や戦闘機の群れを玩具のように踏み潰していった。かつて彼が会議室で提案したような、人間の尊厳を根こそぎ破壊する残酷な合理主義が、そのまま圧倒的な暴力となって地上を埋め尽くす。
その背後から、ギロロが全火力を解放して追撃をかける。
数々の戦場を潜り抜けた二人の「パワーデュオ」としての連携は完璧だった。思考を挟む余地すらない、体に叩き込まれた精密な殺戮のコンビネーション。
昨日まで夏美や冬樹と笑い合っていた街並みが、一瞬にして硝煙と瓦解のチェス盤へと変えていく。ヤジュジュの鋭い鉤爪が大地を引き裂くたびに、ペコポンの文明は悲鳴を上げて崩壊していった。
人類の抵抗は、彼らの前にはあまりにも無力だった。
命乞いをする人々の声も、絶望の叫びも、ギロロの放つ爆音と、ヤジュジュの冷徹な遠吠えにかき消されていく。
どれほどの時間が経っただろうか。
すべてが終わり、真っ黒な硝煙だけが立ち込める地球の特等席で、光の粒子と共にヤジュジュは元の姿へと戻った。
地球の全生命体は沈黙し、青かった惑星は、今や彼らの足元でただ静かに燃え盛る灰の星と化していた。完全なる、そして圧倒的な侵略の完遂。
「……終わったな、兄さん」
ギロロは硝煙で汚れた身体をはらい、銃を降ろした。その顔には、長年の重荷からようやく解放されたような、深い安堵の色が浮かんでいた。
「うん。お疲れ様、ギロロ。本当に、一瞬だったね」
ヤジュジュはいつも通りの穏やかなトーンで語りかけ、ギロロの元へ歩み寄った。そして、自分のふさふさとした大きな尻尾を、愛おしそうにギロロの赤い身体にしっかりと絡ませる。
「これで、もう誰も私たちを邪魔する者はいない。お前の言う通り、今度こそ二人で、どこか遠い場所へ行こう。お前たちが私の前からいなくなるその日まで、ずっと、ずっ、と……甘やかな時間を過ごすんだ」
「ああ……。どこへでも行こう、兄さん」
ギロロは不器用な手で、ヤジュジュの目元にある子供の線をそっと指先でなぞった。自分より遥かに長い時間を生きる兄。けれど、この瞬間だけは、二人の時間は完全に重なり合っていた。
燃え盛る地球の残骸を背に、二人は互いの体温を確かめ合うように強く抱き合う。
ヤジュジュの尻尾は、これから始まる二人だけの永遠に等しい「余生」を祝うように、静かに、優しく、パタパタと焦土を叩き続けていた。
ケロロはガンプラ作りに熱中し、タママはお菓子を食べ、クルルは自室に引きこもり、ドロロは自然と一体化している。彼らは口にこそ出さないが、もうこの生ぬるいペコポン(地球)という星を、心から愛してしまっていた。侵略作戦など、とっくに形骸化したただの言い訳だった。
しかし、ギロロだけは違った。彼の瞳から、戦士の鋭い光が消えることは一日たりともなかった。
かつては「軍人としての義務」のために侵略を急いでいた。だが、今は違う。
地獄の闘技場から奇跡的に生還し、自分の前に戻ってきてくれた兄――ヤジュジュ。彼の傷だらけの過去を知り、自分たちより遥かに長い寿命という残酷な宿命を聞かされたその日から、ギロロの目的はただ一つに絞られていた。
(ケロロたちのように、この星に甘えてダラダラと時間を無駄にするわけにはいかないんだ。一刻も早くすべてを終わらせて、兄さんと二人、誰にも邪魔されない場所で……今度こそ、ゆっくりと余生を過ごす)
そのための場所は、ケロン星でなくても良かった。宇宙の最果ての名もなき惑星でもいい。ただ、ヤジュジュと二人きりで、戦いも、毒も、檻もない平穏を手に入れること。それがギロロの、狂おしいほどの執念となっていた。
そして、ヤジュジュもまた、その愛しい弟の願いを誰よりも理解していた。
「……いいんだね、ギロロ」
ある日、ペコポンの夕焼けを背景に、ヤジュジュは静かにギロロに問いかけた。目元の子供の線を細め、ふさふさとした銀の尻尾は、これから始まる「惨劇」を前にしてなお、凪いだ海のように落ち着いている。
「ああ。この星に長居しすぎた。これ以上、無駄な時間を過ごすつもりはない」
ギロロが重火器の安全装置を解除する。その表情には、一切の迷いも躊躇もなかった。
「ふふ、分かったよ。お前の望む未来のためなら、私はこの星を喜んで地獄に変えよう」
ヤジュジュが優しく微笑んだ瞬間、彼の身体が眩い光に包まれた。
光の粒子が弾け、煙の中から現れたのは――かつて数々の惑星を絶望に叩き落としてきた、神話の具現たる**巨大なオオカミ**だった。
そこからの光景は、「侵略」という生易しい言葉では形容できない、完全なる「破壊と殺戮」だった。
ケロロ小隊が慌てて止めに入る間さえなかった。
ヤジュジュは巨狼の姿のまま、一吠えでペコポンの最新防衛ネットワークを壊滅させ、戦車や戦闘機の群れを玩具のように踏み潰していった。かつて彼が会議室で提案したような、人間の尊厳を根こそぎ破壊する残酷な合理主義が、そのまま圧倒的な暴力となって地上を埋め尽くす。
その背後から、ギロロが全火力を解放して追撃をかける。
数々の戦場を潜り抜けた二人の「パワーデュオ」としての連携は完璧だった。思考を挟む余地すらない、体に叩き込まれた精密な殺戮のコンビネーション。
昨日まで夏美や冬樹と笑い合っていた街並みが、一瞬にして硝煙と瓦解のチェス盤へと変えていく。ヤジュジュの鋭い鉤爪が大地を引き裂くたびに、ペコポンの文明は悲鳴を上げて崩壊していった。
人類の抵抗は、彼らの前にはあまりにも無力だった。
命乞いをする人々の声も、絶望の叫びも、ギロロの放つ爆音と、ヤジュジュの冷徹な遠吠えにかき消されていく。
どれほどの時間が経っただろうか。
すべてが終わり、真っ黒な硝煙だけが立ち込める地球の特等席で、光の粒子と共にヤジュジュは元の姿へと戻った。
地球の全生命体は沈黙し、青かった惑星は、今や彼らの足元でただ静かに燃え盛る灰の星と化していた。完全なる、そして圧倒的な侵略の完遂。
「……終わったな、兄さん」
ギロロは硝煙で汚れた身体をはらい、銃を降ろした。その顔には、長年の重荷からようやく解放されたような、深い安堵の色が浮かんでいた。
「うん。お疲れ様、ギロロ。本当に、一瞬だったね」
ヤジュジュはいつも通りの穏やかなトーンで語りかけ、ギロロの元へ歩み寄った。そして、自分のふさふさとした大きな尻尾を、愛おしそうにギロロの赤い身体にしっかりと絡ませる。
「これで、もう誰も私たちを邪魔する者はいない。お前の言う通り、今度こそ二人で、どこか遠い場所へ行こう。お前たちが私の前からいなくなるその日まで、ずっと、ずっ、と……甘やかな時間を過ごすんだ」
「ああ……。どこへでも行こう、兄さん」
ギロロは不器用な手で、ヤジュジュの目元にある子供の線をそっと指先でなぞった。自分より遥かに長い時間を生きる兄。けれど、この瞬間だけは、二人の時間は完全に重なり合っていた。
燃え盛る地球の残骸を背に、二人は互いの体温を確かめ合うように強く抱き合う。
ヤジュジュの尻尾は、これから始まる二人だけの永遠に等しい「余生」を祝うように、静かに、優しく、パタパタと焦土を叩き続けていた。
