闘技場に売られた獣

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### 青の世界の特等席

それから一週間後。
ガルルが手配したのは、ペコポンの深海域に極秘裏に建設された、全周360度が巨大なアクリルに囲まれた宇宙富裕層向けの海洋ドームだった。もちろん、周囲には他の客の姿は一切ない。完全な貸し切りだ。

ドームに足を踏み入れた瞬間、ヤジュジュはその圧倒的な「青」に息を呑んだ。
頭上を、淡い光を放ちながら巨大なクジラに似た海洋生物がゆったりと通り過ぎていく。水の底から響くような、静かで、どこか厳かな音だけが空間を満たしていた。

「……凄いね、ガルル。本当に……世界が全部、青いよ」

ヤジュジュはガラスに触れんばかりに顔を近づけ、潤んだ瞳で魚たちの群れを追った。
闘技場の容赦ない熱気も、浴びせられる罵声もない。ただ、冷たくて、どこまでも優しい静寂がそこにはあった。

### 過去の払拭

「気に入ってくれたようで何よりだ」

ガルルは一歩後ろから、その青い光に照らされるヤジュジュの横顔を見つめていた。
ハーフであるヤジュジュの目元の線が、まるで幼い子供が初めて新しいオモチャを見つけたときのように、きらきらと輝いている。その背後で、ふさふさとした銀の尻尾が、見たこともないほど大きな弧を描いてパタパタと揺れていた。

「ねえ、ガルル。あそこで小さく光っている魚たちを見ておくれ。まるで、暗闇の中で星が踊っているみたいだ」

「ああ、美しいな」

ガルルが同意すると、ヤジュジュはふと振り返り、どこか切なげに目を細めた。

「……私ね、あそこ(闘技場)にいた頃、血を流して倒れるたびに、天井の隙間から見える暗い空を見ていたんだ。いつか、あの暗闇の向こうにある、誰も私を傷つけない場所にいけたらいいのにって。……今、その願いが叶ったような気がするよ。お前が、私をこの青い世界に連れてきてくれたから」

ヤジュジュの言葉は静かだったが、それはガルルの胸を締め付けるには十分すぎるほどの重みを持っていた。

### 終わらない抱擁

ガルルは無言のまま歩み寄り、背後からヤジュジュの細い身体をそっと抱きしめた。
ガラスに映る二人の姿。大きな軍服のマントが、ヤジュジュを包み込むようにして外界から遮断する。

「ガルル……?」

「ヤジュジュ。あの暗闇の空を見上げていたお前に、私は言いたい。……よくぞ生き延びてくれた、と。お前が諦めずにいてくれたから、私は今、こうしてお前を抱きしめることができる」

ガルルはヤジュジュの狼の耳の根元に唇を寄せ、周囲の水の音に負けないほど深く、落ち着いたトーンで囁いた。

「お前が見たかった静寂も、この美しい青も、これからはすべてお前のものだ。お前を脅かすあらゆるものから、私がこの腕で、生涯をかけて守り抜いてみせる」

「……っ、ふふ。本当に、お前には敵わないね……」

ヤジュジュの目から、一筋の涙が零れ落ち、青い光の中に溶けて消えた。
けれど、その胸にあるのはもう恐怖ではない。
ヤジュジュはガルルの広くて温かい胸に完全に身体を預け、トントン、と、心地よいリズムで尻尾を兄の脚に絡ませながら、いつまでもその美しい青の特等席に浸り続けるのだった。
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