闘技場に売られた獣
ケロン軍本部の最上階にあるガルルの執務室。手当を終え、ようやく落ち着いた時間が流れる部屋で、ガルルはデスクのホログラムを操作しながら、ソファーに座るヤジュジュに視線を向けた。
「ヤジュジュ。怪我も順調に回復しているようだな。……次の休暇だが、お前の予定さえ良ければ、どこかへ出かけないか」
ガルルの落ち着いたトーンの声に、ヤジュジュの狼の耳がピクリと跳ねた。
「出かける……? ふふ、嬉しいね。ガルルの方から誘ってくれるなんて」
ヤジュジュは嬉しそうに目を細め、後ろのふさふさとした尻尾をパタパタと揺らし始めた。どこがいいだろう、と少し考えるように顎に手を当て、目元の線を僅かに動かしたあと、彼は思いついたように顔を輝かせた。
---
### 青い世界の憧れ
「ねえ、ガルル。『水族館』という場所に行ってみたいんだ」
「水族館、か。……ペコポンや、他の惑星にある、水中生物を展示している施設だな」
ガルルが確認するように言うと、ヤジュジュは小さく頷いた。
「うん。……ギロロからね、ペコポンの水族館の話を聞いたんだ。見渡す限り真っ青な空間の中に、大きな魚や、光る生き物がたくさん泳いでいて……とても静かで、美しい場所なんだって」
ヤジュジュはソファーの上で膝を抱え、遠くを見るような瞳で語る。
「私はずっと、娯楽のない暗い闘技場にいたから……あそこにあるのは、血の匂いと、観客の耳障りな怒号だけだった。だからね、ただ静かに、綺麗で冷たい水の中を生き物たちが泳いでいる……そんな穏やかな世界を、一度でいいから見てみたいんだよ」
その言葉の端々に、かつて奪われていた「平穏」への切ない憧れが滲んでいた。ヤジュジュにとっては、ただ魚を見るという行為そのものが、地獄のような過去から最も遠い場所にある「救い」のように思えるのだ。
### 兄の約束
ヤジュジュの語る理由を聞き、ガルルはホログラムの画面を即座に切り替えた。軍の端末を使い、宇宙中の、そしてペコポンで最も美しく、最も警備が行き届いた最高峰の水族館のデータを瞬時に検索し始める。
「分かった。……お前がそれを望むなら、世界で最も美しい青をお前に見せてやろう。貸し切りにする手配を進める」
「えっ!? か、貸し切りだなんて、そんな大袈裟なことをしなくても……」
慌てるヤジュジュに、ガルルはデスクを離れて歩み寄り、その銀の髪を優しく撫でた。
「大袈裟ではない。他人の雑音にお前の静寂を邪魔させるわけにはいかないからな。……お前がその水族館という場所で、心から安らげるように、完璧な休日を約束しよう」
「ふふ、ありがとう、ガルル。お前は本当に過保護だね……」
ヤジュジュは呆れたように苦笑しながらも、兄の大きな手に頭を預け、嬉しそうに尻尾の揺れを大きくした。次の休暇、二人が並んで眺める青い世界は、きっとヤジュジュの心に、闘技場の記憶を塗り替えるような優しい思い出を刻んでくれるはずだった。
「ヤジュジュ。怪我も順調に回復しているようだな。……次の休暇だが、お前の予定さえ良ければ、どこかへ出かけないか」
ガルルの落ち着いたトーンの声に、ヤジュジュの狼の耳がピクリと跳ねた。
「出かける……? ふふ、嬉しいね。ガルルの方から誘ってくれるなんて」
ヤジュジュは嬉しそうに目を細め、後ろのふさふさとした尻尾をパタパタと揺らし始めた。どこがいいだろう、と少し考えるように顎に手を当て、目元の線を僅かに動かしたあと、彼は思いついたように顔を輝かせた。
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### 青い世界の憧れ
「ねえ、ガルル。『水族館』という場所に行ってみたいんだ」
「水族館、か。……ペコポンや、他の惑星にある、水中生物を展示している施設だな」
ガルルが確認するように言うと、ヤジュジュは小さく頷いた。
「うん。……ギロロからね、ペコポンの水族館の話を聞いたんだ。見渡す限り真っ青な空間の中に、大きな魚や、光る生き物がたくさん泳いでいて……とても静かで、美しい場所なんだって」
ヤジュジュはソファーの上で膝を抱え、遠くを見るような瞳で語る。
「私はずっと、娯楽のない暗い闘技場にいたから……あそこにあるのは、血の匂いと、観客の耳障りな怒号だけだった。だからね、ただ静かに、綺麗で冷たい水の中を生き物たちが泳いでいる……そんな穏やかな世界を、一度でいいから見てみたいんだよ」
その言葉の端々に、かつて奪われていた「平穏」への切ない憧れが滲んでいた。ヤジュジュにとっては、ただ魚を見るという行為そのものが、地獄のような過去から最も遠い場所にある「救い」のように思えるのだ。
### 兄の約束
ヤジュジュの語る理由を聞き、ガルルはホログラムの画面を即座に切り替えた。軍の端末を使い、宇宙中の、そしてペコポンで最も美しく、最も警備が行き届いた最高峰の水族館のデータを瞬時に検索し始める。
「分かった。……お前がそれを望むなら、世界で最も美しい青をお前に見せてやろう。貸し切りにする手配を進める」
「えっ!? か、貸し切りだなんて、そんな大袈裟なことをしなくても……」
慌てるヤジュジュに、ガルルはデスクを離れて歩み寄り、その銀の髪を優しく撫でた。
「大袈裟ではない。他人の雑音にお前の静寂を邪魔させるわけにはいかないからな。……お前がその水族館という場所で、心から安らげるように、完璧な休日を約束しよう」
「ふふ、ありがとう、ガルル。お前は本当に過保護だね……」
ヤジュジュは呆れたように苦笑しながらも、兄の大きな手に頭を預け、嬉しそうに尻尾の揺れを大きくした。次の休暇、二人が並んで眺める青い世界は、きっとヤジュジュの心に、闘技場の記憶を塗り替えるような優しい思い出を刻んでくれるはずだった。
