闘技場に売られた獣

ケロン軍本部の、ガルルの私室。
休暇を利用してケロン星に戻っていたギロロと、そしてガルル。三人の兄弟がこうして一堂に会するのは、本当に久しぶりのことだった。

しかし、温かい茶が淹れられたテーブルを前に、ヤジュジュは湯呑みを握ったまま、その目元の線を悲しげに歪めて俯いていた。彼の狼の耳は力なく垂れ下がり、ふさふさとした尻尾は不安を表すように、自分の足首に固く巻き付けられている。

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### 消えぬ影

「……今日、軍の広報で、古い将校たちの名簿を見たんだ。……そこに、あの人の名前があった」

ヤジュジュの声は、かすかに震えていた。
「あの人」――それは、かつて幼いヤジュジュを、ハーフであるという理由だけで見捨て、娯楽のない地獄の闘技場へと売り飛ばした、彼らの実の父親だった。

「もう何年も経つのに……私は、まだあの人の声や、冷たい視線を思い出すと、体がすくんでしまうんだ。……私は、息子として、あの人に会いに行って……何か言葉をかけるべきなのかな。でも、どうしても、怖くて……」

過去の呪縛に囚われ、自責の念に駆られるヤジュジュ。
彼を闘技場から救い出したガルルも、そして今の彼の平穏を支えるギロロも、その言葉を聞いた瞬間、同時に顔を険しくした。

### 兄弟の激昂、そして拒絶

「ふざけるな、兄さん!!」

先に声を上げたのはギロロだった。机を叩き、その赤く逞しい顔をさらに怒りで染める。

「あんたがあいつに会う必要なんて、これっぽっちもない! 父親だと名乗る資格など、あの男が兄さんを売った瞬間に消え失せているんだ! 会いに行って怖がるなんて、そんな辛い思いを自分からしに行くことはない!」

「ギロロの言う通りだ、ヤジュジュ」

ガルルがギロロの激昂を静めるように、しかし地響きのような、極めて冷徹なトーンで言葉を重ねた。その黄金色の瞳には、一族の長としての冷徹さと、弟を傷つけるものへの容赦ない敵意が宿っている。

「血が繋がっていようと、あいつがお前にしたことは『赦されざる大罪』だ。お前がその優しさゆえに、過去を清算しようなどと考える必要はない。一生、顔を見ることも、名前を思い出すこともなくていい。あいつは、お前の人生において、すでに存在しない死人と同じだ」

### 鎖を断ち切る温もり

二人の、あまりにも容赦のない「父親への拒絶」。それはひとえに、ヤジュジュの心を傷つけるすべての原因を、自分たちが身代わりとなって世界から排除しようとする、あまりに深い兄弟愛の裏返しだった。

「……二人とも」

ヤジュジュは指の隙間から二人を見つめ、目元の線を潤ませながら、ぽつりと呟いた。

「怒ってくれるんだね。私のために……」

「当たり前だ!」
ギロロがぶっきらぼうに、しかし優しくヤジュジュの肩を抱く。
「あんたを泣かせる奴は、親だろうが神だろうが、俺がこの手で排除してやる」

ガルルもまた、ヤジュジュの冷たくなった手を自分の大きな手で包み込み、ゆっくりと熱を伝えていく。

「お前には、私とギロロがいる。あのような男に、二度とお前の心を支配させはしない。……怖ければ、私の後ろに隠れていろ。お前が一生会わないと決めるなら、私がその通りに世界を動かそう」

「……ふふ。ありがとう。お前たちがそう言ってくれるなら、私はもう、あの人の影を追うのをやめるよ」

ヤジュジュは深く息を吐き出し、ようやく凍りついていた心を溶かした。
足首に巻き付いていたふさふさの尻尾が、そっと解かれ、今度は安心を噛み締めるようにパタパタと二人の足元で揺れ始める。

過去の父親が与えた傷は深くとも、今のヤジュジュの周りには、それを何度でも上書きして、優しく守り抜く最強の兄弟が揃っているのだった。
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