闘技場に売られた獣

軍本部の夜。ガルルの執務室の片隅、あるいは日向家の裏庭のテント。どこにいても、彼らの間に流れる空気は変わらない。
しかしその夜、ヤジュジュはいつになく自分の「顔」を、手鏡でじっと見つめていた。

ヤジュジュはケロン人と獣人のハーフだ。その特異な血筋は、彼にふさふさの尻尾や鋭い鉤爪だけでなく、残酷なまでの「時の不平等」をもたらしていた。

ハーフであるヤジュジュの寿命は、純粋なケロン人であるガルルやギロロの、およそ**2倍**。
寿命が長ければ、当然、成長の速度も極端に遅くなる。ケロン人は大人になれば、顔を横切る「線」が口元まで下がるのが通例だ。ガルルもギロロも、すでにその線は凛々しく下がっている。しかし、ヤジュジュの線は――いまだに、子供の象徴である「目元の位置」にあるままだった。

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### 「子供」という名の枷

「……また、本部の若い兵に年下だと思われてね。少佐の階級章を偽造しているんじゃないかと、生意気な口を利かれてしまったよ」

ヤジュジュは苦笑しながら鏡を置き、狼の耳を力なく伏せた。
その幼い外見のせいで、戦場や軍の廊下では、初対面の相手から甘く見られたり、侮られたりすることが日常茶飯事だった。しかし、ヤジュジュが深い溜め息をついたのは、そんな風評を気にしてのことではなかった。

「兄さん、そんな有象無象の言葉など気にするな。次にあんたを侮る奴がいたら、俺がその場で……」

憤慨するギロロの言葉を、ヤジュジュは静かに、首を振って遮った。

「違うんだ、ギロロ。そんなことはどうでもいいんだよ。私が本当に……本当に恐れているのは、そんなことじゃない」

ヤジュジュのふさふさとした尻尾が、これまでにないほど小さく固まり、怯えるように自分の体に巻き付いた。

### 終わりのない孤独

ヤジュジュは、目の前にいるガルルとギロロの顔を、壊れ物を慈しむような瞳で見つめた。

「私の成長の時計は、お前たちの半分以下の速度でしか進まない。……それはね、いつか、そう遠くない未来に……お前たちが老い、寿命を迎えて私の前国から消えてしまうということなんだ」

「…………」

その言葉に、ガルルもギロロも息を呑んだ。

「お前たちが逝ってしまったあとも、私はまだ、この子供のような姿のまま、あと何百年も、何千年も生き続けなければならない。……どんなに過酷な闘技場でも、私は『いつか死ねる』という希望があったから耐えられた。でも……」

ヤジュジュの目元の線が、大粒の涙で濡れていく。

「お前たちを失ったあと、この温もりを知ってしまったあとに、また独りきりで取り残される……。その、気の遠くなるような長さの未来が、私にとってはどんな地獄よりも……一番、苦痛なんだよ……っ」

ヤジュジュは顔を覆い、声を詰まらせた。
ハーフとしての頑強な命が、彼にとっては「愛する者を失い続ける呪い」に見えていた。

### 永遠の誓い

「ヤジュジュ」

静かな、けれど地響きのように力強い声で、ガルルがヤジュジュの肩を掴んだ。そのまま彼を強く引き寄せ、ギロロと共に、ヤジュジュの体を挟み込むようにして抱きしめる。

「馬鹿なことを言うな。お前を独りにするものか。……ケロン軍の最先端の医療技術、あるいは宇宙の未知のテクノロジー……使えるものはすべて使う。お前を置いていくなど、この私が、このガルルが許すと思うか?」

「そうだ、兄さん!」
ギロロもまた、鼻の奥を真っ赤にツンとさせながら、ヤジュジュの背中に腕を回した。
「俺たちの寿命が尽きると言うなら、限界を超えて生き延びてみせる! あんたが泣くような未来は、俺がこの命に代えても絶対に作らせない!」

二人の兄弟の、あまりにも理不尽で、あまりにも真っ直ぐな「生への執着」。

「ふふ……、あはは……。お前たちは、本当に強情だね……」

ヤジュジュは涙を流しながらも、ようやく小さく笑った。
2倍の寿命という残酷な現実を前にしてもなお、二人の兄弟は「だったらその時間をねじ伏せる」と、当然のように言い放つ。

ギロロとガルルの、胸が痛くなるほどの熱い体温に包まれながら、ヤジュジュは股の間に巻き込んでいた尻尾をそっと解き、二人の体に、手繰り寄せるようにそっと絡みつかせるのだった。
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