闘技場に売られた獣

日向家のリビングでは、ケロロとタママがスマートフォンを囲んで大騒ぎしていた。

「ゲロゲロゲロ、タママ二等! この最新の加工アプリ、ペコポン人の若者の間で大バズり中でありますな!」
「本当ですねぇ軍曹さん! ギロロ先輩にも教えてあげましょうか? ……って、あのおじさんには難しすぎて、どうせガラケーがお似合いですよぉ、うぷぷっ」

「……ふん、下らん」

二人の会話を背中で聞きながら、ギロロは腕を組んで日向家の裏庭へと戻っていった。
戦士に流行り物など必要ない――そう自分に言い聞かせてはいるものの、ことあるごとに「時代遅れ」「おじさん」と小馬鹿にされるのは、やはり気分のいいものではなかった。

しかし、その不機嫌な足取りは、テントの前で待っていた人物の姿を見た瞬間に消し飛んだ。

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### 「一緒に、ね」

「おかえり、ギロロ。……なんだか浮かない顔をしているね」

テントの前の丸太に腰掛けていたヤジュジュが、狼の耳をピコピコと動かしてギロロを見上げた。その手には、ケロロたちが騒いでいたのと同じ、最新型のペコポン製スマートフォンが握られている。

「……いや、なんでもない。ケロロたちが下らん流行り物で騒いでいただけだ」

ギロロがぶっきらぼうに答えると、ヤジュジュは「ふふ」と鈴を転がすように笑った。

「そうか。実はね、私も日向の娘さん(夏美)から、今ペコポンで流行っているものを色々教えてもらったんだ。でも、私はずっと闘技場にいたから……こういう『娯楽』の楽しみ方がよく分からなくてね。……ねえギロロ、もしよければ、休暇の間に私と一緒に体験してくれないかい?」

「兄さんが……俺と?」

「うん。お前と一緒なら、きっと楽しいと思うんだ」

ヤジュジュの後ろで、ふさふさとした尻尾が「楽しみだね」と語るように、ゆったりと左右に振られ始める。その純粋な提案に、ギロロの胸の奥のモヤモヤは、瞬時に温かいものへと上書きされていった。

### 贅沢で、新しい時間

それからの休暇は、流行り物に疎い兄弟二人の、不器用で微笑ましい「初体験」の連続だった。

まずは、若者の間で大ヒットしているという、派手なエフェクトのSFアクション映画の配信を観た。
ギロロは「こんな非現実的な戦術があるか」と軍人らしいツッコミを入れつつも、ヤジュジュが「わあ、今の爆発は凄いね、ギロロ!」と目を輝かせるたびに、内心で(来てよかった)と深く満足していた。

次に挑戦したのは、SNSで話題の「山盛りのフルーツと生クリームが乗ったパンケーキ」だ。
男二人のテント前にはおよそ似合わない代物だったが、ヤジュジュは一口食べるなり、大きな瞳をさらに丸くした。

「……っ、美味しい! ギロロ、これ、すっごく甘くて幸せな味がするよ!」

嬉しさのあまり、バタバタと激しく振られるヤジュジュの尻尾。
ギロロは「甘すぎる」と文句を言いながらも、口の周りにクリームをつけた兄に、自分のネル布を差し出して「……拭け、兄さん」と不器用に対応する。その顔は、パンケーキのイチゴよりも赤かった。

そして仕上げは、タママたちに馬鹿にされた写真加工アプリだ。
レンズを向けると、画面の中のギロロとヤジュジュの頭に、ペコポンの猫のような耳とヒゲが合成される。

「おや、不思議だね。ギロロが可愛い猫ちゃんになっているよ」

「な……っ!? なんだこの破廉恥な機能は! 早く消せ、兄さん!」

「ふふ、消さないよ。お前が可愛いから、保存しておこう」

楽しそうに笑うヤジュジュの横顔を見ながら、ギロロは小さくため息をついた。

### ギロロの好きな時間

ケロロたちといる時は、置いていかれるような焦燥感や疎外感しか生まない「流行り物」。
けれど、ヤジュジュと一緒なら、それは世界で一番温かくて、新鮮なエンターテインメントに変わるのだった。

ヤジュジュは、ギロロを「時代遅れのおじさん」として突き放すことなど絶対にしない。知識のなさを笑うこともない。「分からないから、一緒に学ぼう。一緒に楽しもう」と、いつも隣に並んで歩いてくれる。

(……ああ。俺は、この時間が好きなんだな)

焚き火の光に照らされながら、スマートフォンの画面を覗き込むヤジュジュの横顔を見つめ、ギロロは心の中で静かに呟いた。

「ギロロ、次は何をしようか? 夏美さんが、次は『タピオカ』というものがおすすめだって言っていたけれど……」

「……兄さんが行きたいなら、どこへでも付き合う。……ただし、俺の分のクリームは少なめにしてくれ」

「ふふ、分かったよ」

嬉しそうにギロロの腕に擦り寄ってくる、ふさふさの尻尾の温もりを感じながら。ギロロは誰にも見せない優しい微笑みを浮かべるのだった。
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