闘技場に売られた獣

ケロン軍の戦略会議室。ホログラムに投影されているのは、侵略に難航している惑星の都市構造と、頑強な抵抗を続ける現地の解放軍のデータだった。

居並ぶ将校たちが「人道的配慮」や「長期的な統治コスト」を考慮し、穏便な制圧案を模索して議論が停滞していたその時、ヤジュジュが静かに口を開いた。

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### 慈悲なき合理

「……ねえ、そんなに悩む必要があるのかい?」

ヤジュジュの語尾はいつも通り柔らかく、微笑みすら浮かべている。しかし、その指先がホログラムの都市中枢をなぞった瞬間、空気が凍りついた。

「この都市の貯水槽に、致死性ではないけれど、精神を激しく汚染する薬物を混ぜたらどうかな。……発狂した市民たちが互いに喰らい合い、愛する家族を自らの手で引き裂く地獄を数日見せてあげるんだ。そうすれば、生き残った者たちは戦う意欲なんて完全に失って、私たちの足元に縋り付いて命乞いをするようになる。……無駄な弾薬も、味方の兵の血も流れずに済む。とても平和的な解決策だと思わないかい?」

戦場を長く知る将校たちでさえ、その「桁外れに残酷な提案」に言葉を失った。それは単なる殲滅ではない。相手の尊厳を根こそぎ破壊し、精神を崩壊させることで支配を完遂させるという、娯楽のない闘技場で「絶望こそが最強の武器」だと叩き込まれた者だけが持つ、歪んだ発想だった。

「ヤ、ヤジュジュ少佐、それはあまりにも……軍紀に抵触する恐れが……」

### 肯定という名の愛

たじろぐ将校を制するように、最上席に座るガルルが重厚な声を響かせた。

「……いい案だ。採用する」

「中尉閣下!? しかし、それでは……!」

ガルルは周囲の動揺を一切無視し、隣に座るヤジュジュへと視線を向けた。その瞳に宿っているのは、拒絶でも驚愕でもなく、深い慈しみを孕んだ「肯定」だった。

「ヤジュジュ。お前がその結論に至るまでに、どれほどの地獄を見て、どれほどの悪意を糧にして生き延びてきたか……私は理解しているつもりだ。お前の発想は、お前が生き抜いてきた『現実』の投影に過ぎない」

ガルルは机の下で、ヤジュジュの鉤爪の生えた手を強く握りしめた。

「お前が残酷だと言うのなら、この世界そのものがお前に対して残酷だったのだ。ならば、お前がその世界にどう報復しようと、私はそれを否定しない。お前の生き方、お前の導き出した答え……そのすべてを、私は私の正義として肯定しよう」

### 歪んだ救済

「ふふ、ありがとう、ガルル。……分かってくれると思っていたよ」

ヤジュジュは嬉しそうに目を細め、尻尾をパタパタと揺らした。兄に肯定されたことで、自らの残酷さが「正しい愛情」として昇華されていくのを感じていた。

ギロロであれば「そんな戦い方は間違っている!」と叫んでヤジュジュを止めようとしただろう。だが、ガルルは違う。ヤジュジュの傷跡を消そうとするのではなく、その傷跡から生まれた毒さえも、愛おしい弟の一部として飲み込み、戦場へと解き放つのだ。

「……さあ、準備を始めようか。ヤジュジュ少佐の言う『平和的な解決』のために」

ガルルの冷徹な号令が下り、会議室は再び静寂に包まれる。
ヤジュジュは兄の手に指を絡ませながら、自分を縛る過去の絶望が、今は兄の手によって強力な武器に変えられている幸福感に浸っていた。
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