闘技場に売られた獣

軍本部の片隅、茶菓子が並ぶ接見室。そこには、ヤジュジュを快く思わない過激派の兵士が用意した、神経を即死させるレベルの劇薬が仕込まれた紅茶があった。

ヤジュジュはそれを一口、優雅に喉に流し込む。

「…………」

一瞬、ヤジュジュの動きが止まる。暗殺を企てた兵士は、彼が泡を吹いて倒れるのを確信し、密かに口角を上げた。しかし。

「……ふぅ。おや、この茶葉は少し変わっているね。独特の刺激がある」

ヤジュジュは何事もなかったかのようにカップを置き、痺れる舌先で唇を湿らせた。

### 闘技場が遺した「毒耐性」

「な……っ!? なぜ立っていられる! それは象をも即死させる……!」

驚愕のあまり声を上げた兵士に対し、ヤジュジュは困ったように眉を下げ、苦笑いを浮かべた。

「ああ、やっぱり毒だったのかい。……あいにくだけれど、私は娯楽のない闘技場でね、嫌がらせに腐った肉や毒入りの餌を何度も食べさせられてきたんだ。おかげで、これくらいの毒では舌が少し痺れるくらいで……あまり効果がないんだよ」

ヤジュジュは静かに立ち上がり、がたがたと震える兵士を見つめた。その瞳に憎しみはない。ただ、どうしようもない「困惑」だけがそこにあった。

「私はね、お前のことを許すよ。失敗は誰にでもあるし、私に恨みを持つ者がいるのも理解している。……けれど」

ヤジュジュの狼の耳が、廊下から近づいてくる複数の、そして極めて不穏な足音を捉えてピクリと跳ねた。

### 逃げ場のない宣告

「私個人は許せても……。あとの二人が、そうはいかないだろうね」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、接見室の重厚なドアが、物理的な衝撃によって吹き飛ばされた。

「……ヤジュジュ、無事か」

入ってきたのは、全身から黒いオーラを放つガルル。その手にはすでに、特殊部隊用の狙撃銃が握られている。そしてその隣には、重火器をこれでもかと担ぎ、瞳に激しい「怒」の炎を宿したギロロが立っていた。

「兄さん、下がっていろ。……こいつは、俺が木端微塵にする」

「ギロロ、待て。一瞬で終わらせるのは慈悲が過ぎる。……私の尋問室へ連れて行け。毒を盛ったことを後悔する時間さえ、贅沢だと思わせてやる」

二人の兄と弟が放つ殺気は、部屋の空気を真空のように変えた。暗殺犯は腰を抜かし、喉を鳴らすことしかできない。

「……ね? だから言っただろう」

ヤジュジュは、痺れた舌をペロリと出しながら、申し訳なさそうに兵士を見た。

「私はお前を許すけれど……私の兄弟は、私以上に私のことを大切にしてくれているんだ。……ごめんよ。私には、もう彼らを止めることはできないんだ」

ヤジュジュが窓の外の景色を見るためにふいと背を向けた瞬間、背後からは絶望に満ちた叫び声と、ガルルの冷徹な指揮、そしてギロロの銃火器が唸る音が、激しく響き渡った。
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